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模試の採点結果がさくらももこ先生の才能を見出した『ひとりずもう』

2018年8月。漫画家・エッセイストのさくらももこ先生が逝去された。

 

享年53歳という事実にも驚いたが、国民的漫画となった『ちびまる子ちゃん』連載執筆時は20代だったという事実についても、改めて感服してしまう。

エッセイ漫画は、漫画市場における人気ジャンルのひとつだが、『ちびまる子ちゃん』の大ヒットによって、エッセイ漫画というジャンルの存在をより世間に大きく知らしめた、さくら先生の功績は本当に偉大なものだと思う。

 

 

 

まる子はどのようにして漫画家・さくらももこになったのか。

『ちびまる子ちゃん』単行本4巻に掲載された短編エッセイ漫画『夢の音色』にそのきっかけが描かれている。

 

 

 

もうひとつ、漫画家・さくらももこが誕生するまでが描かれたエッセイ漫画がある。

「まる子」が「ももこ」というひとりの女性になっていく過程のひとつひとつも堪能できる漫画版『ひとりずもう』だ。

 

 

ひとりずもう (上) (集英社文庫)
著者:さくら ももこ
出版社:集英社
販売日:2014-07-18
ひとりずもう (下) (集英社文庫)
著者:さくら ももこ
出版社:集英社
販売日:2014-07-18

 

『ひとりずもう』は元々さくら先生のエッセイだった作品が、漫画化されたもの。
私は「ビッグコミックスピリッツ」連載時にリアルタイムで連載を追いかけていたのだが、元々のエッセイ内容を知らなかったため、どのようにしてまる子が漫画家・さくらももこになっていくのか、毎回続きが気になって仕方なかった。

 

 

(※以下、漫画作品内容のネタバレを含みます)

 

 

 

 

『ちびまる子ちゃん』の世界観との大きな違いは「まる子」だった小学生女子が、お年頃の女子「ももこ」になっていく、思春期ならではの甘酸っぱい描写だろう。

男子がなんとなくイヤだったり、東京で流行っている服装をしてドキドキしたり、名前も知らない男の子に恋をしたり。
女子の世界で巻き起こる「あるある」日々を過ごしていく、ももこの日常。

ももこは時々「まる子」だったことも思い出す。お笑いの道を目指そうとして、はまじのことを思い出したり。

「まる子」だった頃から集団が苦手だったことを思い出して、高校の文化祭を休んでしまったりする。

 

ももこが漫画家になるための具体的な行動を起こし始めるのは高校2年生の春休み。

「りぼん」漫画スクールに初めて漫画を投稿したが、ももこの漫画は入賞することはできなかった。

 

 

「なりたいのとなれるものは違うんだ。」
「矢沢あいぐらいうまくないと、少女漫画ってムリなんだ…」

 

 

同時期に「りぼん」漫画スクール投稿者として入賞した矢沢あい(大ヒット漫画『NANA』『天使なんかじゃない』原作者)の才能を羨ましいと思いながら、一人泣くももこ。

しかし、ももこの才能は「りぼん」漫画スクールではなく、ももこの学校で実施された模試によって初めて見いだされることになる。

 

ももこが高校3年生の夏、作文の模試結果が返却された。
模試の採点センターの先生からは、以下の採点コメントが記されていた。

 

 

「高校生が書いたとは思えない、エッセイ調の文体がすばらしい。まるで、清少納言が現代に来て書いたのかと思うような作文でした。作者の成長が楽しみです。」

 

 

採点コメントを受け、ももこは自分が持つエッセイ表現の才能に気付いた。

 

 

「エッセイを漫画で描いてみるのはどうだろ。」

「それを思いついたとき、こんなボロくて狭い風呂場に、夏の光がいっぱいさしこんで、風呂場全体がキラキラ輝き始めた。」
 

「私は…人生が変わるかもしれないという予感がした。」

 

 

エッセイ漫画を描き始め「りぼん」へ再び投稿。

ももこの描いたエッセイ漫画は初めて「りぼん」漫画スクールに入賞することができた。

 

 

 

作品中では模試センターの先生がどんな人物だったかは一切描かれていないが、この先生が後の大ヒット作品を生み出す漫画家であり、エッセイストでもあるさくらももこ先生の誕生を導かれたのだと考えてみると、影の立役者だったのではないだろうかと思う。

 

 

 

現代に来た清少納言と言われた女性は、『ちびまる子ちゃん』を大ヒットさせ、平成最後の夏に多くの人々に惜しまれつつも、この世から去っていった。

 

 

 

ひとりずもう (小学館文庫)
著者:さくら ももこ
出版社:小学館