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漫画賞審査員長に聞いてみた!時代を代表する漫画家への道のりは「賞への応募?」「持ち込み?」「ネット投稿?」(第二部)

多くの人の夢であり目標である職業の中の一つ、漫画家。近年、時代の変化につれて「漫画家への道のり」も多種多様に変化してきました。
本日は、1980年~2000年代にかけて『うる星やつら』『タッチ』『ラーメン発見伝』などの人気作品を手がけてきたベテラン編集者に、当時の話をお聞きしつつ、現代の漫画家を目指す人々に向けたインタビュー記事を、全三部に分けてお届けします。

 

漫画賞審査員長に聞いてみた!時代を代表する漫画家への道のりは「賞への応募?」「持ち込み?」「ネット投稿?」

 

>>第一部:あだち充、高橋留美子、作家の独創性が多くの読者を惹きつけた時代とは

>>第二部:娯楽から情報を得るものへ、時代の変化に合わせた「漫画」の作り方

>>第三部:紙からネットの世界へ、発表する場が増えた「漫画」の未来はどうなる?

 

前回の第一部に引き続き、インタビューさせていただいたのは小学館の有藤氏です。

 

 

有藤 智文(ありとう ともふみ)
1983年、株式会社小学館に入社。「週刊少年サンデー」「ビッグコミックオリジナル」「ビッグコミックスピリッツ」などいくつもの編集部を経験し、「ビッグコミックスペリオール」編集長を務める。現在は小学館漫画賞の運営に携わっている。過去には高橋留美子先生、あだち充先生など有名作家を担当。数多くの人気作を担当したベテラン編集者。

2018年9月16日(日)に「京都国際マンガ・アニメフェア2018(通称・京まふ)」内にて、授賞式が開催される「京都国際漫画賞」審査員長。
 


 

漫画界のトレンディドラマの走り?おしゃれで格好いい漫画の台頭

1990年代になり、大人も漫画を読む文化が定着してきたころビッグコミックスピリッツに異動された有藤さんですが、当時連載されていた『ツルモク独身寮』は『東京大学物語』の前身のような、新しさを感じていました。

 

 

『ツルモク独身寮』…1988年-1991年の間、「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた窪之内英策の漫画。ツルモク家具に入社した主人公・宮川正太。独身寮に入寮した彼は、そこで田畑、杉本という先輩と同室となる。寮内を案内され、屋上に出ると、そこは女子寮が丸見え。そこで正太は部屋で着替え中の女の子と目が合ってしまう。しかし正太には田舎に残した年下の彼女がおり、仕事・友人・恋愛に悩む若者の姿が描かれている。

有藤 絵柄が与えるイメージは大きいと思います。ただモラトリアムのような要素が前面にある部分もあって、図式としては非常に単純な漫画なんですよね。社会人になったけれども、社会の中での自分の存在意義を求めていて、「歯車」にはなりたくない、なにかしら「自分らしさ」を見つけたい、というのがひとつのテーマでした。
そういう意味では、僕は新しいとは思ってなかったですね。絵柄はおしゃれで格好いいなと思ってたんですけど。

 

 

お仕事モノ、という意味では『ツルモク独身寮』以前にもジャンルとしては確立されていたということでしょうか。この文脈で言えば同誌にあった『なぜか笑介』とか。

 

有藤 そうですね。

 

でも『なぜか笑介』はどちらかというと都合のいいサラリーマンと社会というか(笑)ファンタジーに近い部分もあるのかなと思います。

 

有藤 たしかにそうですね。結果的に『ツルモク独身寮』はリアルに近い恋愛モノ×お仕事モノとして、同年代に流行ったトレンディドラマの流れを組んだ漫画の走りだったかもしれません。そういう意味では漫画界にとっては新しいジャンルになります。

 

当時雑誌で読んでいた頃、僕は大学生だったので「社会人ってこういう感じなんだ」と雰囲気を味わった漫画でした。

 

有藤 実際はあんないい先輩がいて、いい彼女がいて、問題が起きて~みたいなことはなかなかないですけどね(笑)

 

羨ましい限りです。

 

「青年誌の漫画には情報がないとダメ」

有藤さんはビッグコミックスピリッツの数年後、ビッグコミックスペリオールへ異動されたとのことですが、移った頃にはすでに『ラーメン発見伝』も『医龍』も連載されていたのでしょうか。

 

 

有藤 はい、もうやってました。

 

僕はたまたま創刊時からビッグコミックスペリオールを読んでいて、思い入れがあります。『ラーメン発見伝』や『医龍』は取材型の漫画だと思うのですが、初めて「人間個人」ではなく「歴史的事実や技術」などに注目された漫画だと感じました。

 

『医龍』…2002年-2011年の間、「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた日本の医療を題材にした漫画。腐った組織にメスを入れるように、優秀な外科医・朝田がバチスタ手術に挑むチーム・医龍(メディカルドラゴン)を創設し、患者を救いながらも、医療ミスや院内感染、医局制度などの現実的な問題に向き合っていく。

 

有藤 そうですね。僕が過去、1980年代後半に少年誌から青年誌に移ったとき、先輩から「青年誌の漫画は情報がないとダメだ」と言われてました。特にビッグコミックオリジナルは「人情と情報が合致したら強い」と教えてもらいましたね。
実際に取材をして、現場の人に話を聞く。その情報を漫画に落とし込んで、読者に知識を与える。すると賢くなったような気持ちになって、日常生活で役立つ知識もある。
そういう意味では『ラーメン発見伝』や『医龍』が人気だったのはとても頷けます。

 

今医局モノの漫画は多くありますが、大学病院の組織を変えるというか、派閥争いや権力闘争の部分を描いた漫画は当時そんなになかったですよね?

 

 

有藤 なかったですね。いわゆる人情を描いていればよかったところが、なぜ状況がそうなっているのかの背景にある裏側の部分まで描かないと、読者がついてきてくれなくなったのもあると思います。

 

『ラーメン発見伝』でいうと、1990年代後半の当時はグルメ漫画すらあまりなかったように思います。

 

『ラーメン発見伝』…1999年-2009年の間、「ビッグコミックスペリオール」で連載されていた漫画。百戦錬磨のプロたちがしのぎを削る世界に、ラーメン好きの普通のサラリーマン・藤本が挑む。おいしいラーメンを作るというコンセプトだけではなく、ビジネスの側面から店舗運営について鋭い切り込みを入れていく展開は、多くのビジネスマンから支持された。

 

有藤 『ラーメン発見伝』は元々原作者の久部さんの企画でした。それをラーメンが大好きだった当時の担当編集者が気に入って実現した漫画になります。原作協力としてフードライターの石神さんがいたので、ラーメンに関しては石神さん頼りな部分が多かったですね。

 

そうなんですね(笑)『ラーメン発見伝』といえば、巻末のおまけページが印象的です。

 

 

有藤 石神さんのラーメンコラムとか、ラーメン屋の名店を回って、採点していくって企画ページがありましたね。
2週間に一度、原作協力の石神さん、原作の久部さん、作画の河合さん、編集担当者の全員が集まるんですよ。あの地方のラーメンはこうで、こう作ると美味しいとか、色んなネタをお聞きながら打合せとかしてました。

 

「ただ読んで面白い」の次に読者が求めるもの

ここまでお話を伺って、『医龍』や『ラーメン発見伝』など、正確な情報が作中に描かれ、それが多くの読者に評価されたということだと思うのですが、どういう変化が時代にあったのでしょうか?

 

有藤 そうですね、当時の大人の世代では、漫画が「ただの娯楽」から「情報を得る」ものへ変わっていった背景があると思います。特にグルメものでは「この食材をこう料理するとうまい」みたいな情報を得たいという読み手の欲求が加速していったんでしょうね。
ただ読んで「面白かった」「泣けた」というところから、一歩進んで活字よりも簡単に漫画で情報を得たいと思う読者が増えてきた時代だったんだと思います。

 

ありがとうございました。「漫画」と「時代」の流れや変化がつながるとてもわかりやすいお話でした!

 

さてそこから、現在は2018年。ネットが大前提にある時代となりました。活字や漫画で情報を得ていた読者も、今では1人1台以上持っているスマートフォンやパソコンで、気軽に情報を調べ、自ら得ることができる時代です。
そんな誰でも自由にあらゆるものを手に入れられる時代のなかで、今の漫画や読者はどう変化したのか。そして本題でもある、今漫画家を目指している人々はどうしていく方がいいのか。引き続き、第三部でベテラン編集者・有藤さんのご意見を伺いたいと思います。

 

 

漫画賞審査委員長に聞いてみた!時代を代表する漫画家への道のりは「賞への応募?」「持ち込み?」「ネット投稿?」

 

>>第一部:あだち充、高橋留美子、作家の独創性が多くの読者を惹きつけた時代とは

>>第三部:紙からネットの世界へ、発表する場が増えた「漫画」の未来はどうなる?

 

(取材:菊池健/構成:駒村悠貴

 

 

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著者:窪之内英策
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▼漫画家を目指すみなさまへ▼

京都国際マンガ・アニメフェア2018(通称:京まふ)内で開催される「マンガ出張編集部」に、ぜひご来場ください!

 

当イベントは、マンガ出版社の編集部を招き、マンガ家志望者が自分の作品を持ち込む機会を創出します。
※事前申込制・原稿持込者は入場無料

 

開催日時

2018年9月15日(土)11時~17時

 

会場

みやこめっせ(京都市勧業館)
京都市左京区岡崎成勝寺9-1

<電車>
・地下鉄東西線「東山駅」より徒歩約8分
・京阪電鉄「三条駅」・市営地下鉄「三条京阪駅」より徒歩約16分
<市バス>
・「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車徒歩約5分
・「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩約3分
・「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車すぐ