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女子少年院、塀の中の少女たちの日常を垣間見る『エスカレーション~塀の中の少女たち~』
エスカレーション~塀の中の少女たち~ (KC デザート)
著者:芹沢 由紀子
出版社:講談社
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いま、複数のNPOなどと協働して少年院の中にいる子どもたちを支援している。男子少年院もあれば、女子少年院もある。

これまでにいくつかの少年院に伺い「どのような子どもたちが塀の中にいるのか」ということを学ばせていただいている。 

2,3年前の私は、少年刑務所と少年院、少年鑑別所の違いも知らなかった。そして、実際に施設の中に入り、子どもたちとのかかわりを通じて「自分が想像していた子どもたち」とは異なる少年像に出会うことが少なくない。 

 

各少年院では、個々の少年院の在院者のデータを紹介してくれる。過去何十年に渡る犯した罪の変化としては、他者を傷つけたり、車やバイクで迷惑行為を繰り返したりしていたところから、最近では「特殊詐欺」で少年院に入ることになる子どもたちが多くなっているようだ。 

逆にあまり変化していないように見受けられるものがある。それは在院者の家族構成だ。院によって違うはあるが、在院者の3割程度にしか実父母がいない。養育状態が必ずしもよくない両親もいるだろう。 

 

そして、残りの7割の多くがシングルマザーであるという説明が圧倒的に多い。「子どもの貧困」という言葉が社会的に認知をされて久しいが、ここにも貧困状態のなかで成長してきた子どもたちがいた。 

 

私が聞いた範囲で言えば、歯磨きなども教えてもらえず、食事も満足に与えられない。明らかな(またはわかりづらい)障碍特性があっても、適切な療育を受けられず、自分自身が学校や社会生活の中でうまくいかない理由がわからず、言語化もできず、そのうえで愛情を受けて育てられていない。

そんな子どもたちの話は、24時間365日子どもたちと向き合う法務教官から頻繁にお聞きする。 

 

『エスカレーション~塀の中の少女たち~』は、少年院という塀の中で矯正教育を受ける少女たちの日常を描いた漫画である。

主人公の橋本倫(はしもとりん)は、傷害致死という事件名によって特別少年院送致一年処遇の措置を受ける。 

 

倫が義父にレイプされたところ、シングルマザー家庭で育った彼氏の杉田和志がちょうど訪ねてきた。義父に怒りを振り向けようとしたところ、殴りかかろうとした義父が転倒し、頭を打って気絶。散乱した部屋の中で、すいかけの煙草が引火したことで火災が発生する。彼氏を逃し、すべての罪を背負ったことが少年院送致のきっかけである。 

 

在院者は初め「単独室」という場所に入り、寮生活となる。基本的には3級、2級、1級と上級生になるにつれて退院が近くなる。だいたい平均在院期間は11ヵ月程度だが、生活態度やトラブルなどによって進級や退院が遅くなることもある。 

本書でも、少女同士のイザコザや規則違反などで、退院が遅れるシーンが散見される。社会から離れた塀の中の空間で、少女たちはさまざまな葛藤を繰り返し、ストレスを溜め、在院者同士のトラブルを誘発する。 

 

漫画『エスカレーション~塀の中の少女たち~』は、倫を中心に在院者同士の関係性がいじめなどに発展し、大きなトラブルへと発展していく。

ただ、一歩引いてみればそれは少年院の中だけではなく、学校や会社など、私たちの日常生活にもみられる現象であるが、塀の中という空間においては、物理的、時間的制約の中で、陰湿にいじめが繰り返される。 

 

当初は仲間的存在であった在院者も、倫の傍を離れていき、倫は孤立していく。いじめ加害者の中心人物の周りには、強いモノには迎合し、自分より弱い立場のものには牙をむく、これもまた少年院に限った話ではないストーリー展開だろう。 

 

在院中の少女たちについて、なぜ彼女がそこにいるのかという背景が説明されるシーンが出てくるが、どの少女も在院前には、必ずしも幸せな環境ではない暗い影を背負っていることが見て取れる。誰もが好んで少年院という場所を選んだのではなく、成育過程の中で蓄積されたつらさや悲しみの結果として、ひとを傷つけたり、誰かのものを盗んだりし、ここにいるのだろう。 

 

『エスカレーション~塀の中の少女たち~』は、三つの社会的な学びを提供してくれる。ひとつ目は、女子少年院という場所の日常生活の一部を垣間見ることができること。ふたつ目は、在院している少女たちの背景にある成育に視点を移すことができるようになること。そして、最後は少年院という場所は何のために存在しているのかということだ。 

 

和志が倫のいる少年院を訪れ、院長に諭されるシーンがある。 

きみはなにかカン違いしているよ
 院は罪を罰するための施設ではなく
 更生のための施設です
」 

もしかしたら、少年院という世界は縁遠い場所かもしれないが、『エスカレーション~塀の中の少女たち~』を読んで、少しだけ少年院と在院している少女たちのことを知ってみてはいかがだろうか。