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では局長、棺桶を用意してもらえますか・・?政府の地方出先機関を扱った『啓け! ―被災地へ命の道をつなげ― 』

被災地を扱ったマンガは多数あります。『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』などが有名でしょうか。

今日紹介するのは、政府の地方出先機関を扱った異色のマンガ『啓け! ―被災地へ命の道をつなげ― 』(コスモの本/岩田やすてる)です。

 

啓け! ―被災地へ命の道をつなげ―
著者:岩田やすてる
出版社:コスモの本
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国土交通省の「くしの歯作戦」

個人の主観と予めお断りをしておきますが、本省と東北の出先機関を含めると数多ある国の省庁の中で、東日本大震災対応で最も頼りになったのは国土交通省東北地方整備局(仙台)だと考えています。

道路・河川・港湾という重要インフラを管轄する国の出先機関だから当然とも言えますが、被災自治体の要請に対する真摯で迅速、かつ前例にとらわれない対応は群を抜いていました。

 

同書はその国土交通省東北地方整備局(東北地整=とうほくちせいと略される)を取り上げた作品です。

まず東北地整が真っ先に取り組んだのは「道路啓開」作業でした。津波被害が大きかった岩手県・宮城県の沿岸部を訪れた方はよくご存知かもしれませんが、そもそも沿岸部へのアクセスは不便です。

 

大動脈である「縦軸」の東北道や東北新幹線は内陸部を走っており、沿岸部へはその大動脈から東に向かう十数本の「横軸」の国道に支えられています。例えば東京から以前私が仕事をしていた陸前高田市へ向かうには、東北道の一関IC又は東北新幹線の一ノ関駅から、横軸の国道343号か国道284号を使って1時間10分ほどかかります(あるいはJR大船渡線で2時間)。

これら「横軸」の道路はところどころで落橋するなど被災しましたが、被災したままでは、内陸部から向かおうとする人命救助や物資搬送の車両が通行することができず、復旧作業に大きな支障が生じます。

東北地整は震災の起こった2011年3月11日のうちに、東北道と四号線を縦軸に太平洋沿岸部につながる「横軸」の国道を切り開(啓)くと決定し、これを「くしの歯作戦」と名付けます。

この作戦により、3月15日までに北は八戸市から南はいわき市までの横軸15ルートの啓開を成し遂げたのです。

「では局長、棺桶を用意してもらえますか・・?」

極め付けのエピソードは「棺桶を用意した」話です。徳山日出男東北地方整備局長(当時)が、東北地整の現場チームが用意した衛星通信車経由で陸前高田市の戸羽太市長に「何でも必要なものを言ってください」と呼びかけた際、市長は「では局長、棺桶を用意してもらえますか・・?」と訴えました。

 

当時、次々に見つかるご遺体は毛布や段ボールに包んで安置するしかなく、火葬しようにも燃料がありませんでした。

では土葬を・・・とはできません。やっとの思いで泥の中から見つけたご家族をまた土に戻すなんて・・。

 

しかし公共事業の予算で棺桶を買うことはできないはずです。行政経験がある人ほど難しいと思うでしょう。しかし徳山局長は「わかりました。手配しましょう。」と答え、実際に棺桶を手配したのです。

 

その後徳山局長は被災地の首長あてに「国土交通省の所管事項以外のことで結構ですのでなんなりとお申し付けください。私のことを「整備局長」と思わず「ヤミ屋のオヤジ」と思ってください」という公文書を送っています。

 

最近は官公庁も政策や手柄(?)のアピールに熱心ですが、それを差し引いても、道路を啓くことに命をかけた職員たちの知られざるエピソードは、胸を打つものがあります。公務員の仕事に興味がある人にもおすすめです。

 

(文:久保田 崇)