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世界で2億本売れたゲームをつくった男の物語『ポケモンをつくった男 田尻智』

道具ウインドウをひらいて、上から7番目の道具を選択しながらセレクトボタンを連打。そして草むらで野生のポケモンとバトル。バトルが始まったら、技の上でまたセレクトボタンを押す。すると技が変化し、そのまま相手ポケモンを倒すと、バトルをしたポケモンはいっきにレベル100になる…。
 

 

ゲームボーイソフト『ポケットモンスター赤・緑』を遊んだことのある人なら、誰もがこの「裏技」を知っていたのではないでしょうか。
 

僕はなぜこの技を知ったのか覚えていませんが、改めて考えると、これってかなりスゴいことだと思います。
 

当時の僕は小学校に入学する前。情報入手経路はテレビくらいです。インターネットはつかえません。現代で言えば情報感度が相当低い状態です。そんな少年に、いちゲームの、公式でもないテクニックの情報が口コミで流れてきていたということになります。
 

これは、相当数の人間が、相当な熱量で『ポケットモンスター』に取り組んでいたことを意味すると思います。ちなみに当時香港にいた人にも聞いたところ、やはり知っていました。日本からの転校生が伝えたようです。
 

ボードゲームデザイナーを名乗って人を楽しませるコンテンツづくりをしている身として、この現象は非常に興味深いものです。そんな『ポケットモンスター』というコンテンツは、いったいどういう経緯でつくられたのか。今回はその一端を知りたくて手に取った『ポケモンをつくった男 田尻智』が最高に面白かったので、ご紹介したいと思います。

 

 

新しいゲームは「新しい動詞」を持っている

『ポケモンをつくった男 田尻智』は株式会社ゲームフリーク代表取締役社長の田尻智さんの伝記です。小学館の学習まんがシリーズのうちの1冊で、このシリーズには他に豊臣秀吉、マザー・テレサ、伊藤博文といったそうそうたる面々が並びます。
 

2016年2月時点でポケモンシリーズの売り上げは、全世界で2億本を突破。これらの最初のタイトルである『ポケットモンスター赤・緑』を企画し、実装にこぎつけたことを考えれば、歴史上の偉人と並べても遜色ないというわけですね。ちなみにご存命です。
 

このマンガには田尻さんの少年時代から、ポケモンを世に出すまでのストーリーがギュッと凝縮されています。なかでもグッときたのは、田尻さんが「新しいゲームとは何か」を発見したエピソードでした。
 

ゲームセンターで『スペースインベーダー』にハマり込んでいた田尻少年。中学3年生になるとプレイするだけでなく、ゲーム会社のアイデアコンテストに自分のアイデアを応募するようになりました。ですが結果は落選。
 

しかしめげることなく、優秀賞をとったゲームや、『スペースインベーダー』や『パックマン』を分析。そうして見つけたのが、”新しいゲームには新しい動詞がある”という法則でした。たとえば『スペースインベーダー』は「撃つ」、『パックマン』は「食べる」です。そして新しい動詞は、新しい仕組みにつながります。
 

この法則をつかんだ田尻さんは、以降新しいゲームのアイデアをどんどん出していきます。株式会社ゲームフリークを立ち上げるきっかけとなった『クインティ』は「めくる」という動詞から、そして『ポケットモンスター』は、「交換」から生まれました。
 

こうした自分の法則を見つけて試すのは、とっても贅沢な体験です。そして、それを世の中にぶつけて、思ったような反応がもらえたときの快感は何物にも代えられません。田尻さんは中学3年生にして、この感覚に出会ったのです。
 

他にも、6年の開発期間を経た『ポケットモンスター』がプロデューサーからボツを食らってからの奮闘、プロジェクト中のメンバーの脱退…どれもが、何かを作ったことがある人なら涙なしでは読めない話ばかりです。
 

シリーズこそこども向けの「学習まんがスペシャル」ですが、大人が読んでも価値ある作品だと思います。
 

文:ミヤザキユウ