TOP > マンガ新聞レビュー部 > 刺激のない漫画は嫌いですか?『恋ヶ窪★ワークス(上)』

刺激のない漫画は嫌いですか?『恋ヶ窪★ワークス(上)』
恋ヶ窪ワークス 上 (アース・スターコミックス)
著者:せきはん(大森 しんや)
出版社:アース・スター エンターテイメント
販売日:2017-01-12
  • Amazon

 

僕は高知県の野市町という、高知のなかでも田舎扱いされる地域に住んでいました。なにせ小学校の時は1学年に2クラスだけ。中学で学区域内の小学校が集まってきてやっと4クラスになるほど。

 

環境も凄い。僕の住んでいた家の周りも学校の周りも田んぼと畑ばかり。いまでもコンビニ行くのに歩いて30分以上かかるから車を使う。中学生のときは学校の運動場に朝行くと、山から降りてきたタヌキの糞が落ちていて、サッカー部や野球部は糞の掃除をしてから練習を始めるようなところです。

そんな田舎に僕は18歳まで住んでいたんですが、どんなところでも不良と呼ばれる人たちは一定数いますし、暴走族だってあります(今はなくなったようですが)。僕は不良ではなかったんですが、不良の友達はいっぱいいましたし、今でも連絡は取っています。

不良ではない僕がなぜ仲良くできた理由は分かりませんが、その人たちと一緒にいると凄く心地よかったんです。それは一緒にいることで偉そうにできた、とか自分の身を守っていたとかそういうのじゃなくて。不良の人たちと話をするのが楽しかったんです。

 

「辺鄙(へんぴ)なところ」という言葉がとても似合うほどの田舎に住んでいたため、きっと自分は刺激が欲しかったんだと思います。かといって当時僕の周りにいた不良のような、とてもカッコイイとは思えない服を着ることはしたくなかったし、万引きしたり授業を妨害しようと思ったこともないので不良にはなれません。

でも仲良くしたい!そんなことを思っていたらいつの間にか友達になっていて、不良と呼ばれる人たちと一緒にいる時間が必然的に長くなっていきました。

 

一緒にいて驚いたのは、不良の友達は僕の周りの誰よりも行動範囲が広く、交友関係も広いことでした。
当時高校生だった僕では絶対に知り合わないような、大人の女性や自分の父親ぐらいの世代の友人も何人もいました。そんな人たちと一緒にいること多くなり、話をすることも多く、自分にとってはそれがとても刺激的で楽しいと思える日でした。

 

当時はやっと一人一台携帯を持つようになってきたときでしたが、携帯はあくまで周りにいる友達と使うものであって、いまのようにSNSとかはなかったし、ネットを通して会ったこともない人と知り合うなんてことはなかったんです。

そういえば、ちょっと前に「マイルドヤンキー」という言葉が流行りましたが、僕は初めてその言葉を聞いたとき「なんてピッタリな言葉だろう」と心から思いました。マイルドヤンキーは、地元が大好きで内向的(地元から出ようとしない)、出世など上昇志向に興味がない、といわれていますがまさにその不良の友達たちがいまそうです。

高校生のとき、外交的に見えていた友達は実はそうではなかった。今では新しく友達を増やそうと思わず、ただ自分の周りにいる人を大事にする。僕の周りにいた友達はまさにそのマイルドヤンキーだったんです。

『恋ヶ窪★ワークス』の主人公である「あやめ」はそんなマイルドヤンキーを象徴するかのような女の子。元レディースでひょんなことから東京の恋ヶ窪で小さなバイク屋で働いています。

高校も辞め、未成年なのにタバコは吸うしバイクばかり乗り回していたあやめは、ある事件をきっかけにバイク屋のアルバイトとして働くことになります。
彼女の主な仕事はバイクの整備と修理すること。

 

一話完結の物語で、この漫画ではバイクレースで優勝を目指すことも、バイクを通して男性と運命的な恋愛をしていくこともありません。
あやめを中心とした小さなバイク屋の小さなコミュニティで起こった決して珍しくもない、“ごく普通の日常”を漫画で描いています。

しかし、この何気ない日常が僕の地元の友達となぜか重なって見えました。

 

いまでも高知に帰るとその友達と飲みに行くこともあるんですが、基本的には話が合わないんですよ。これはどっちが良いとか悪いとか、僕が都会ぶってるとか(笑)そういう話ではないんですね。

話は合わないけど、やっぱり楽しいんですよ。居心地がいいんですよ。ノスタルジーに浸っていることに僕自身が心地よさを感じているのかもしれません。

 

会社を起業したから偉いんじゃない、結婚して家族を養っているから偉いんじゃない、お金をいっぱい稼いでるから偉いんじゃない。どっちが偉いとかじゃないよね。

 

なにもなくていい。
学生時代にどれだけ濃密な時間を一緒に過ごしてきたか、その思い出さえあれば、いまお互いがどんなになっていようが一緒にいる間はそのときに戻れるんです。

僕は漫画は「週刊少年ジャンプ」が大好きで、中学の時から今でもずっと買ってます。なのでジャンプでよくある壮大な夢を持って敵に立ち向かっていく主人公を見てワクワクするのも好きだし、甘酸っぱい少女漫画を読んで「女子ってこういうの好きだよなぁー!」ってちょっと恥ずかしくなるようなものも読みます。

 

しかし、ここに描かれているのは珍しくもなんともない、どこにでもある日常の風景。小さなバイク屋のひとりの少女を追ったドキュメンタリーのような漫画です。

2008年にムック本として出ていましたが、2016年12月12日に8年ぶりに単行本のコミック版として発売されました。

 

この記事を書くにあたってどの漫画を書くか決めておらず、本屋に行ってたまたま手に取ったときはまさかの発売日当日。
これは何の縁だ!と無理矢理こじつけをしてその場で購入。

こんなにスラスラ筆が載ったのも久しぶりだったし(笑)、最近会えていない元不良の友達を思い出せるいいキッカケになりました。

何より読み終えてこんなに気が楽になった読み物は久しぶりでした。刺激のない漫画もたまにはいいじゃないか。

 

恋ヶ窪ワークス 下 (アース・スターコミックス)
著者:せきはん(大森 しんや)
出版社:アース・スター エンターテイメント
販売日:2017-02-13
  • Amazon
グッバイエバーグリーン (アース・スターコミックス)
著者:せきはん(大森 しんや)
出版社:アース・スター エンターテイメント
販売日:2016-06-24
  • Amazon