TOP > マンガ新聞レビュー部 > 「血のつながり」は考えようだってことを教えてくれる『初婚でいきなり2人の子持ちになりました』

和久井は、「子どもが欲しいなら、もらってくればいいじゃない!」と思っています。 すると100%、子持ちの友達からはこう言われるんです。 「自分の子どもじゃなきゃ育てられない(くらいたいへんだよ)」 「自分の子どもと他人の子どもではかわいさがまったく違う」
それと同時に感じるのは、 「お前は子ナシだからわからないかもしれないけど」 という空気です。
しかし私の考えは変わりません。考えを改めるほどの理由を聞いたことがないことも原因のひとつです。だけど、所詮未経験者なので、強く反発できないのですよね。
そんなところ、このたび、「やっぱ私、間違ってなくね?」と思う作品に出会いました。
20代半ばの女子が、2人の子持ちシングルファーザーと結婚して、いきなり2人の子持ちになった実話です。
夫の前妻は病気で亡くなってしまったそう。その後、作者のネコおやじさんが、夫と子どもたちの住む家で同棲を始め、その後結婚をしました。
単行本の半分以上は、結婚を決意するまでや子育てでいかに自分が悩んだかという話でした。
前妻に嫉妬し、子どもたちへの扱いに悩み、ネガティブになって騒ぐたびに、解決の糸口になるのは夫の言葉です。
これでもし夫が、 「子育てすることくらい覚悟ができていたはずだろう」 とかなんとか、妻に寄り添う姿勢がなかったら、たぶんすぐに関係は壊れていたでしょう。 2chまとめなんかでたまに見るなあ、妻を見下して、彼女の悩みに寄り添わない夫の話。
しかも、姑さんもたいへん優しい人のようです。
「やって当たり前」なんて思われたら、それこそやってられないですものね。 彼女がなんとか子どもたちとうまくやっていけたのも、周りのサポートが大きかったようです。
そして、単行本には載っていませんが、彼女は夫との子どもを産むんです。 上の子ども2人は連れ子、末っ子が実子です。 自分の子どもが生まれて、彼女は考えを新たにしたらしいです。 「こんなに可愛い我が子を置いていかなければいけなかった先妻はどれほど辛かっただろう。私が責任を持って育てなければ」
2人の夫の連れ子を育てている私が、我が子を産んで気づいたこと。
ものは考えようとは言いますが、上の2人が可愛くなくなったということはなかったようです。 連れ子だからこそ、気まずいときもあるそうですが、明るいです。
連れ子のいる夫と結婚した私。「まま母」になって気まずいと思う瞬間とは?
そうなんです。私が思っているのは、実子だろうが連れ子だろうがもらいっこだろうが、「人ひとりの人生を預かる覚悟の大きさは変わらない」ということなんです。 子育ての時はたいへんなことが多いでしょう。でもその苦労を乗り越えるときに、 「自分の子どもだから育てなきゃ」 と思うかどうかじゃないですか。 そして、自分と血がつながっている、という安心感から、その「覚悟」が見落とされることはないのでしょうか。
ネコおやじさんも、それはそれは葛藤しています。でも、実子だって葛藤はするでしょう。その矛先の問題ではないんでしょうか。血のつながりがあるかどうかを重要視するのは、その風潮ゆえという気がしてならないんです。つまり、あまりに「継子は可愛くない」「実子だからこそ可愛い」という情報ばかりが流れているんじゃないかと。
実子だからってかわいがって育てられる人ばかりじゃないことは、ニュースを見ていればわかりますよね。むしろ、周りに協力してくれる人がいるかどうかが、かなり大きな問題だと思います。
ちなみに「夫の協力がないとこうなる」という恐ろしい話が『貴船の道』です(『二日月』に収録)
先日、知りあいの編集者と飲んでいるとき、彼はこんなことを言っていました。 「自分の子どものことは自分は大好きだけど、彼は自分のことを同じくらい好きにはならない。この片想いをよしとしなければいけない」 私は、「血がつながっているからこその愛情」を肯定できないのは、この気持ち悪さがあるからなんですよね。親からのうっとうしいほどの愛情と期待(と、勝手に裏切られたと思う失望)には、もはや嫌悪感すら感じます。こんなものを背負うくらいなら、血のつながりなんかない、事務的な関係の方がよっぽどマシです。
そして私が、血のつながりにこだわらない子育てがもっと社会に浸透すればいいと思っているのには、もうひとつ理由があります。 「自分の血のつながった子じゃないと」と思うことで、生きづらくなっている女性がごまんといるということです。血がつながっていようがなかろうが、人の人生を背負う覚悟には変わりがない、「子育てしたいなら、もらってくればいいじゃない!」という意識が浸透したら、もっと女は生きやすくなると思うんですよね。
ネコおやじさんの場合は、もらってきたわけじゃないですが、こういう前向きな話が、世界を変えるような気がします。
そして最後に、継母というと思い出す一文があります。とても有名な、特攻隊員の方の遺書です。
母を慕ひて
母上 お元気ですか 永い間本当に有難うございました 我六歳の時より育て下されし母 継母とは言へ世の此の種の女にある如き 不祥事は一度たりとてなく 慈しみ育て下されし母 有難い母 尊い母 俺は幸福だった 遂に最後迄「お母さん」と 呼ばざりし俺 幾度か思ひ切って呼ばんとしたが 何と意志薄弱な俺だったらう 母上お許し下さい さぞ淋しかったでせう 今こそ大声で呼ばして頂きます お母さん お母さん お母さんと
相花信夫 18歳 昭和20年5月4日戦死
涙なしには読めない遺書です……。
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