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ジョン・クロウリーの小説を手塚治虫がコミカライズして、それを高野文子がつつーっと描き写したキャラデザをもとに、永野護が6年かけて劇場アニメ化したみたいなマンガ『宝石の国』

例えば傑作オーラぷんぷんの映画予告編。

ほどなくして

はち切れんばかりの期待を胸に迎えた本編公開日。

 

結果

オープニングからふとよぎる
「あれ?思ってたのと違う…。」感。

 

「いや…これは面白い…ハズ。うん!面白い!ヨクデキテル!」
なんて目の前の起承転結に侵食されるうち

徐々に脳の隙間をするりするりと抜け落ちていく
本来待ち望んでいたはずの崇高な何か。

 

あの

とても壮大で。底なしに残酷で。切なく愛おしく。
曖昧モコモコで。でも現実の薄皮一枚向こう側で常にドロドロと蠢めいているような。
むき出しの幻想はどこへ?

 

そっと触れただけで「がしゃり」とくずれ落ちる。
ひどく脆い。極私的な物語はいずこへ?

 

それがつまり『宝石の国』

 

宝石の国(1) (アフタヌーンコミックス)
著者:市川春子
出版社:講談社
販売日:2013-07-23
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序幕。遠い未来。
人型の宝石たちは、自身を装飾品にしようと来襲する月人との戦いを日常としている。
宝石たちのなかで最弱と位置付けられた主人公「フォスフォフィライト」通称「フォス」は
戦闘への参加が叶わず、その代わりに彼≒彼女らを束ねる「金剛先生」から
「博物誌」の制作を命じられ、イヤイヤながらもその活動を始める…

 

と、ありますが、ハイ。

 

今回改めてあらすじを読み返して思ったことは
「あれ…こんなだったっけ…?」に尽きます。

と申しますのも本作、とにかく「メタモルフォーゼが過ぎる」のです。

 

宝石たちも、月人も、岸壁の隅にへばりつくほんの些細な微生物に至るまで
いまそこにあったはずの造型が、ページ単位で、いや1コマ単位で、目まぐるしく「変態」「破壊」「創生」されてゆきます。

 

特筆すべきはやはり「破壊」の部分。

 

「あくまで人型」であることを最大限に活用した
宝石たちの織り成す「割れ様」「溶け様」「穿たれ様」は、

「グロ注意」ならぬ「グロ注視!」と高らかに公言したくなるような、圧倒的美しさ。

 

初期短編集『虫と歌』および『25時のバカンス』から一貫して描かれてきた、この「人体破壊表現」こそが、すべての市川春子作品に通ずる
「世界を解剖する感覚」を語るうえでの、最重要ファクターであると思われます。

 

そんなビルド&クラッシュ&スーパークラッシュを繰り返したのち…

 

第7巻に至っては「え…フォスさんって、どれだっけ?」と言う
マンガ史上類を見ない、とんでもない手法による主人公の改変が敢行されます。

 

しれっと。さも当然のように。

 

「そうなんだからそう」と言えるサイエンス・フィクションの傲慢さと
「そうすればそうなる」と受け入れるファンタジーのしなやかさと
「そうっす!そうっす!」と乾いた返事を吹きちらすとても現代的なユーモアセンスを併せ持った奇跡のバランス感覚。

 

必見です。

 

そして、2017年10月よりTVアニメ化された本作。

ぜひそちらもあわせてご覧ください。

 

(文:北島 歩)

 

宝石の国(8) (アフタヌーンコミックス)
著者:市川春子
出版社:講談社
販売日:2017-11-22
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