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『レイリ』負ける側の物語
レイリ 4 (少年チャンピオン・コミックス エクストラ)
著者:室井大資
出版社:秋田書店
販売日:2017-10-20
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負けはドラマのはじまり

以前話題になった大河ドラマ『真田丸』は、物語のファーストシーンが武田家滅亡から始まり、大阪城で壮大に負けていく豊臣方の物語が描かれました。
真田信繁(幸村)が主人公という時点で、いかに負けるか描かれることが決まっていたわけですが、石田三成人気もあいまって「今年は西軍に勝たせたい」という視聴者の声が多く聞こえましたね。

 

2017年の大河ドラマ『おんな城主 直虎』の中では、桶狭間の戦いに負ける今川方に組する井伊谷勢の物語が描かれています。大河ドラマで桶狭間に負ける側が描かれるシーンは珍しく、なかなかに鮮烈なものではありませんでしたか?

 

数多の物語の中で信長に毎度粉砕される駿河の雄、今川義元が嫡男今川氏真が、当主としてこれほど長くあり続ける物語は珍しく、繰り返される大河ドラマの中では、負ける側を描くという意味で異色の趣を放っていると言えそうです。

それでも井伊家は、今川方につき一度大きく負けた後、主人公直虎が扶育する井伊直政が後に徳川方につき、徳川四天王と呼ばれるまでにのし上がり、勝ち馬に乗ることが約束されています。それすら、明治維新の序盤、桜田門外の変で一敗血に塗れる未来への始まりなのかもしれませんが。

負ける側に何を見たいか 

本作『レイリ』では、今川→武田と負けそうになかったのに負け側に組してしまう、名将岡部丹波守(元信)を通して、長篠の戦で武田が負けるところから始まります。冒頭すぐに入る回想シーンは桶狭間敗戦後の今川勢引き戦です。もう、最初から負けまくりです。

 

この戦のために、親兄弟を失った主人公・レイリは、そのきっかけとなった恩人(?)岡部丹波守のもとに養われ、武田方となり、その流転を開始します。親兄弟との死に別れから、すっかり「死にたがり」になってしまった主人公は、十代半ばにしてちょっとキレ気味の凄腕女性剣士になってしまいました。

そこに「長篠で負けた武田」、、あぁ、戦国史好きにとってこの時に生きる武田勢のはかなさたるや、約束された没落の序曲が聞こえてくるようです。

さらに死にたがりの女剣士が主人公とは救いがない、、、打ち震えてしまいます。しかも、武田の中でついていくのが、あの壮絶な戦死を遂げることで有名な土屋氏とは、もう本当に登場人物たちのこの先が思いやられます。

 

昨年まで数年間、わたしは生業として、数百人の若いクリエイターたちを支援し、数十人の勝ち残っていく若者たちを見送ってきました。そして同時に、数百人の若者がその場の戦いに負けていくシーンに立ち合い、見守ってきました。

どうせなら、後に役立つ戦いをして欲しくて、武器となる情報を多く授け、人との出会いという縁をつくり、出来る限りその勝負が早くついて、新しい戦いの場に向かっていけるように、その傷がなるべく深手とならないように配慮してきたつもりです。

 

それでも、若い人たちがひと時、尾羽うち枯らし身をやつす瞬間には、どうしても立ち会わなければなりません。

どちらかといえば、自分にマゾっけがあるほうなのにも関わらず、人のそうした瞬間に立ち会うことはつらいわけですが、成功して売れっ子となっていく人はもちろん、後に別の場で元気に活躍する若者たちと再会することもあり、それは人の世の救いでありました。

 

『レイリ』では、救われた命であるはずの主人公・レイリが、死に場所を探して非情な戦国の世に流されていく物語です。

既刊4巻の中では、救いようのない、恐ろしい流転を暗示させるところしかありません。素敵、素敵すぎます。あの岩明さんがこんな救いようのない負けを描いてくださるとは。

そう思って読み進めると、作者の岩明 均さんは単行本1巻の巻末で、こう述べられておりました。

 

実はこの物語の主人公は、初めは別の人物だった。一般にはほとんど知られていないが歴史上に実在した、ある「男」。そいつは、とある戦いで「負けた側」にいたくせに、その後けっこう出世したヤツだ。
(中略)
それ以上に出世した「男」を発見。あれ?主人公にするならこっち?
(中略)
なんか違う。そうだ、あっちに立ってる「彼女」だよ!彼女こそ主人公をお願いしよう。

[引用:レイリ 第1巻巻末 (少年チャンピオン・コミックスエクストラ)]

 

どうでしょう。武田滅亡の文脈で、そこから出世した人物と言えば、乱世の怪人大久保長安がまず思い浮かびます。すっかり武田方について、相変わらず死にたがっているレイリと、新生徳川政権を経済面から支え、最後は伊達政宗と国家転覆まで企てたと言われる、怪人が邂逅するのでしょうか。死にたい人と、最後まで生き抜こうとする怪人の出会いを、楽しみにしていても良いのでしょうか。

 

同じ負けるなら上手く負けようと手練手管を使ってしまうような俗物の目には、死を覚悟して、夢中で戦いに臨む若者の姿は、時に眩しすぎることがあります。

『寄生獣』『ヒストリエ』と、赤裸々な人の姿を描いて来た岩明さんの筆致が、どんな死兵の姿を描いていくのか、考えるだけで少し震えますし、正直怖いものがありますね。どうなるんでしょうか。

 

あぁ、早く続きが読みたいです。皆さんにも、お楽しみにでございます。

 

レイリ 1-4巻セット
製造者:#manufacturer
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『ヒストリエ』も、10巻まで伸びて面白くなっておりますよ。

 

 

先日、『寄生獣』を10冊一気購入して読んだのですが、10話完結と言うのは電子で一気読みするにはちょうど良く、気持ちの良い具合でございましたよ。