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真実と犠牲…報道の自由とは?90年代、テレビマンに影響を与えた猪瀬直樹原作の社会派マンガ『ラストニュース』

元東京都知事で作家の猪瀬直樹さんといえば、画家で女優の蜷川有紀さんとご婚約されたことが今いちばんの印象だろうか。おふたりの共著発表の場でもある婚約出版パーティーに私も出席したのだが、幸せオーラを放つおふたりの姿に目を奪われながら、ほっこりした気持ちになった。

 

猪瀬さんは現在、NewsPicksアカデミアにてゼミを開講している。テーマは「教養としての日本近代史」。

私はそこで運営サポートを担当、ゼミ生のみなさんとともに、猪瀬さんから直接学ぶ機会をいただいている。まずは日本の近現代を深く理解することを目標にしているが、徐々に他国の近現代も意識している実感がある。猪瀬先生、ありがとうございます!

 

このゼミにて、名著『ミカドの肖像』(小学館文庫)をはじめとするあらゆる猪瀬作品に触れるなかで、90年代に猪瀬さんが原作を執筆したというマンガに私は出会った。

 

ラストニュース(1) (ビッグコミックス)
著者:弘兼憲史
出版社:小学館
販売日:2013-07-01
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主人公は、ニュース番組の異端児・日野。夜11時59分という、その日最後の時間から始まる放送時間わずか11分間の報道番組「ラストニュース」のプロデューサーだ。そして、大学卒業後に憧れのCBSに入社し「ラストニュース」に配属された新入社員の吉岡と、才色兼備の番組キャスター・山口エリという個性あるキャラが物語を牽引。視聴率にとらわれず、常にファクトを求め、果敢にタブーに挑戦する報道番組スタッフが、社会と激しく対峙する姿を描く。

 

政治、宗教、八百長プロレス、野球賭博、レイプ、放火魔等、現在でもときどき目にする事件・事故だけでなく、天皇誕生日と東条英機処刑の日の関係性など、歴史的な事柄も登場する。全10巻。

 

主人公の揺るぎない報道姿勢とカリスマ性

報道番組「ラストニュース」の使命は、メディアの自己批判だ。視聴率至上主義の他のニュース番組やワイドショーとは違い、速報は重視しつつも、決して自分たちの都合に寄せない意識の高い報道姿勢を見せる。

 

「世論は生き物、毎日変化する。今日のことは今日決着をつけるのがジャーナリズム」と、部下である吉岡に話す主人公の日野プロデューサー。権力を行使してマスコミを操る人々にNOを突きつけながら使命感を持って走り続け、新入社員の吉岡や番組スタッフを引っ張っていくカリスマ性を持つリーダーである。報道のあり方を考えさせるストーリーではあるが、この日野という男が魅力的で、リーダー論も散りばめられているよう。ここは画を描かれた弘兼憲史さんの力量も感じるところだ。

 

 

『ラストニュース』が伝えるメッセージ

私は全ストーリーに強いメッセージを感じるが、第2巻に登場する日野のこのセリフに集約されていると考えている。

「マスコミは問題提起をする義務はあっても、人を裁く権利はない」

マスコミは暴力、無意識のうちに被害者を作り、気づかぬうちにその暴力性を巧みに利用していることがあると日野は言う。あえて事例を挙げないが、昨今の報道を冷静に振り返ってみても、そんな一面が垣間見えるのは私だけだろうか?

 

 

ネット時代でもテーマは普遍

この『ラストニュース』は、テレビ自体が全盛であったといえる時代のマンガ。しかし、ストーリー(事件・事故)ひとつひとつは今でも繰り返し発生しているような普遍的な内容だ。

 

猪瀬さんに、この作品にどんな思いを抱いていたのかを聞いてみた。

 

「90年代、この本を読んでテレビマンになった人がけっこういます。テレビの報道は、誤報で報道被害を生みやすい。速報だからです。そこでその日の11時59分から訂正放送をすることで被害を食い止める、という画期的な提案でどこかのテレビ局がやってくれないかと思って書きました。ネット時代、いっそうそのニーズがあると思います」

 

90年代といえば、久米宏、筑紫哲也、木村太郎等スター的キャスターが台頭していた時代。私も他のテレビ番組は見なくても、報道番組だけは欠かさずチェック、国内外の情勢を自分なりに受け止め、考えていたことを記憶している。ネットニュースも存在しない当時のテレビマンたちは、真摯に報道番組制作に向き合い、我々視聴者もそれを感じ取っていたのかもしれないと、猪瀬さんの言葉からいろんな思いを馳せる。

 

 

娯楽化が行き過ぎた報道は罪深い

偏向報道、扇動的報道による風評被害などについて、ネット界隈でも瞬間的に関心が高まり議論が活発になるが、民は飽きたり忘れるのも早い。報道によって生活や人生を破壊されてしまう人々が少なくないというのに、一過性の娯楽となりがちなのは、あまりにも残酷。

 

「報道の自由」、「ジャーナリズム」ってなんだろう?と考えることは、メディアリテラシーを高める機会にもなりそう。この『ラストニュース』はかなりの旧作ではあるが、今読んでもまったく色褪せず、むしろ気づきが多い作品である。ぜひ多くのみなさんに読んでほしい!