TOP > マンガ新聞レビュー部 > 入社3年目の女性が『社会人4年目、転職考えはじめました』を読んで真剣に考えること。

昨今「転職」という言葉は、とても良く耳にするワードになりました。
2018年4月26日に発表された新入社員のキャリアに対する意識調査結果では、今の会社での勤続意向に対する回答は以下のように出ています。
「今の会社で働き続けたい」と答える新入社員は3年連続で減少、一方で「そのうち転職したい」という意見は前年度より1.5%増加したそうです。 また、「定時に帰りたい」と答えた新入社員は4年連続で増加。最近話題の働き方改革により、残業を減らそうとする動きが世の中でありますが、まさにその動きを表したかのような回答だと思いました。
私は新卒入社3年目の女性です。例に洩れず、私の身近でも転職を考えている人や、実際に転職した友人・先輩も増えてきました。 高校・大学時代の友人に久々に会うと「私たちももう三年目だよ~」だなんて会話ばかりです。
今日はそんな現状に晒されている私が、漫画『社会人4年目、転職考えはじめました』を読んで思ったことを綴りたいと思います。
人生に悩む20代(特に女性)に読んでほしい漫画
漫画『社会人4年目、転職考えはじめました』は、著者・えりたさんのコミックエッセイです。 Instagramでもとても話題の作品『地元で広告代理店の営業女子はじめました』の続編でもあります。
前作では、大学卒業後、地元の広告代理店に新卒入社したえりたさんが求人誌の営業として、社会の荒波に揉まれつつも仕事にやりがいを感じ成長していく物語でした。 “営業”と聞いて思い浮かぶ、「テレアポ」「飛び込み」「トラブルでの大損害」などにまつわることから、「新人のビジネスマナーあるある」まで、非常にリアルに描かれていました。
前作を読んで私が感じたのは、著者・えりたさんの真面目さと仕事への情熱です。人と働くことが本当に大好きな、しっかり者だと思っていました。
しかし続篇には、なんと“転職”の二文字。帯にはこうありました。
「新人でもベテランでもない若手・中堅社員の苦悩と葛藤、決断を描いたコミックエッセイ」 (私、このままでいいのかな…。)「えっなんで!?あんなにやりがいを感じていた仕事なのに?」と、何故かショックを感じつつも、私はおそるおそるこの漫画を手に取ってみたのです。
そこには、職場環境の変化や突然の不況、中間管理職として上司と部下にはさまれ、部下の教育をしながらもプレーヤーとして自身の業務もこなさなければならない両立の苦しみがありました。
たとえば、
・中途採用された「後輩だけど社会人として先輩」の男性への注意の仕方に気を遣う ・組織変更により、やる気のない上司が来てしまい、言いたいことも言えない状況になる ・年に一度の営業最優秀賞にノミネートされるも、過去に一度受賞しているため「えりたはもういいだろ」と言われ傷つく
など、些細だけれども、どの会社でも、誰にでもあり得るような小さなストレスや不安・不満が積み重なっていく様子は、思わず真剣に読み入ってしまいました。
そこに訪れたリーマン・ショックによる世界的大不況。求人は大打撃を受け、売上は落ち、人事にもテコ入れが入り…といった、世知辛い話題も出てきます。
特に読んでいて心が傷んだのは、チームが日に日にギスギスしていくエピソードです。 昇格し、本格的に部下を指導する立場になったえりたさんは、ある時外部のリーダー研修を受けに行きます。その研修での教えをそのまま実践すると、以前とのギャップに部下の心が離れ、チームでも会社でも孤立していくことに。
いわゆる、やる気の空回りですね。仕事に真面目であればあるほど、該当してしまいそうなこのエピソードに「明日は我が身。もしかすると、すでにそうなっているかもしれない……」と、どきどきさせられました。
そんな彼女が、葛藤し、転職を考えて決断する姿がこの一冊には詰まっています。
ちょうど社会人3年目の私には、共感する部分や仕事に対する考え方の面で学べる部分も多く、とても刺さりました。 私はこの漫画を、私やえりたさんと同じような社会人3-5年目の人たちにぜひ読んでもらいたいと思います。なぜならこの漫画は、自分の人生について、色々と考えるきっかけを与えてくれたからです。
軽々しく口にされる「転職したい」の台詞
冒頭で、年々新入社員が「転職」を考える数が増加傾向にある話をしました。また、ワークライフバランスに対する考え方の変化も、日々実感しています。私自身は、よくある「一度入った会社には最後まで勤め続けなければならない」「若いうちの転職はただの逃げだ」などとは考えていません。むしろ自分も、いずれ本気で転職を考えたときや必要に迫られたときは、転職する道を選ぶと思います。
この漫画の著者・えりたさんの選択も「本当に考え抜いた末の決断だったのだな」と、読了後ものすごく納得し、応援したくなりました。
同時に、日頃感じていた自分の中の”モヤモヤ”に向き合うきっかけにもなりました。
私は「転職肯定派」ですが、なぜかというと、最近仕事で色々な業種の方と話すようになり、ひとつの会社だけではない、色々な世界・考え方に触れる機会が増えたからだと思います。 隣の芝生は青く見える、とは言いますが、人は他者と比較したとき心が大きく揺らぐことがあります。
たとえば、わかりやすいのが年収。
ついつい自分と同じ世代の平均年収や、友人・知人の年収と比較し、不安に思ったり将来を案じることはあると思います。
次に、仕事のやりがい。
楽しそうに仕事をする人もいれば、仕事はお金を稼ぐための手段であってそこに感情はない、と割り切っている人もいます。また、昔憧れた職業に就いている人を見たりすると、夢が再燃して諦めきれず、再度チャレンジしたいと考える人もいるのではないでしょうか。
最後に、ワークライフバランス。
いかに給料が高くとも、残業が多いなど、プライベートや体調に支障をきたす場合は、環境を変えようとする人もいるでしょう。俗にブラック企業と呼ばれる会社からの転職は、ここに該当するのではないでしょうか。また、結婚や出産にともなう生活環境の変化などもあります。現職の制度では不十分な場合、転職を考えざるを得ないときもあるでしょう。
転職を考える理由は、職場の人間関係など他にも様々かと思いますが、大体がこのような感じだと思います。 そして、ところどころで目や耳にする「転職したい」という声。
「うんうんそうだよね」と頷きつつも、なぜ転職したいのか理由を聞いてみると「えっそれ本気で考えてる?大丈夫?」と思うことも多いのです。
「転職したら全てがよくなるわけではない」
知り合いの転職エージェントから「転職を望んで来たお客様全員に、必ずしも転職を勧めているわけではない」と聞いたことがあります。 なぜなら、転職すると「必ずしも全てが、現状より良くなるとは限らないから」とのことでした。
上記書籍の著者は、元「リクナビNEXT」編集長の黒田氏。この本でも、同じようなことが書かれていました。
たとえば、給料は高くなるがその分拘束時間が増える。定時で帰ることはできるが希望の職種ではなくなる、など、何かを改善しようとすればどこかで妥協が必要になる部分も多いそうです。 そこで重要になってくるのは、転職を考えるなら、まずは生きる上で、自分が何を大事に思うか優先順位をつけること。
『社会人4年目、転職考えはじめました』著者・えりたさんもあとがきで
働くことに対する取り組み方や捉え方は人それぞれですが、本書を通じて、働くことに限らず「自分が幸せになるために行動しよう」と思っていただけたらうれしいです。と仰っています。
そこで私は、今の自分にとっての幸せはなにか?一番の優先順位はなにか?を真剣に考えてみました。
私は漫画が好きで、現在漫画関係の仕事をしています。 ひとりでも多くの人に、自分が面白い!と思う漫画を知ってほしい。面白いと思ったら買って読んでほしい。その感想や対価をもらい、漫画家である作者が喜びを感じて、続きの話や新しい作品を書いてほしい。
そう考えている一方で、仕事以外の、将来についてを考え始める年齢にもなってきました。
女性であれば、結婚や出産を考える方もいると思います。出産を含めたキャリアプランは、中々明確なイメージを持つことは難しいですよね。 また、自分の好きを追い求め、仕事の関係で上京したはいいものの、片親で兄弟もおらず、不況のなかスナックを営む母一人を関西に残してきた罪悪感。ゆくゆくは親の介護のことも考えなければならないかもしれません。今でも奨学金の返済など、お金が必要なことは山程あります。
そのような状況下で、今の仕事を、続けていくか否か。 地元に戻らなくてもいいのだろうか?パートナーに迷惑をかけないだろうか?仕事さえ選ばなければ、もっと高い給料がもらえるところももちろんあります。
それでも私は、一体何を優先したいのか。
色々なことを考えて、今は精一杯、自分の好きな漫画の仕事をしようと思いました。
私にとっての幸せとは、漫画に触れている時間です。また、年々売上が下がりつつある出版業界の中で、どうにかできないかと考え、微力ながらも関わることができる環境にいることだと気づいたのです。
しかし、たとえば親になにかあった、お金がどうしても必要になった、など状況が変われば、選択も変わるかもしれません。 逆に、今よりもっと自分を幸せにできる仕事や、自身の成長に繋がる場所が見つかれば、そちらで働いてみたいと思うこともあるでしょう。
”自分にとっての幸せは何か”を考える、とてもいい機会となった本作。
興味を持たれた方は、ぜひ一度読んでみてください。 社会人、営業マンとしての素晴らしい心得も学べる一作となっています!
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