TOP > マンガ新聞レビュー部 > 整形手術ってそんなに悪いこと? 「中身が大事」とかキレイごと言ってるヤツは『累』を読め!!(全14巻)

整形手術ってそんなに悪いこと? 「中身が大事」とかキレイごと言ってるヤツは『累』を読め!!(全14巻)

男女に限らず「中身が大事」ときれいごとを言う人は山ほどいますが、そういう人ほど無意識に「この女優さん、めっちゃタイプだわ」とか「うわー、不細工!」とか口にしてしまっていたりします。

 

めちゃくちゃ外見気にしてるやないか!と思わずツッコミたくなるのですが、本人は自分の発言の矛盾に全く気付いていないご様子。

 

自分を「いい人」に見せたいのか分かりませんが、それなら「自分、面食いです!」と潔く言ってくれた方がハッキリしていて気持ちいいと思うのは僕だけでしょうか?

 

人によって食べ物や服装に好みがあるように、見た目にも好みがあるのは当然だと思うので「中身『も』大事」というくらいに構えていた方が、粗も出なくていいんじゃないかと僕は思います。

 

ところで、本当に「中身が大事」なのか?

ひょっとしたら「外見が全て」なのでは?

 

――そんな世の理の是非を投げかけてくる作品が、今回ご紹介する『累(かさね)』です。

 

 

累(1) (イブニングKC)
無料試し読み
著者:松浦 だるま
出版社:講談社
販売日:2013-10-23

 

主人公は顔も描けぬほどの醜い少女

 

このマンガの主人公は「伝説の女優」と呼ばれた淵透世(ふちすけよ)を母に持つ娘・淵累(ふちかさね)。

 

累は母親譲りの類まれな女優としての才能を持つ一方で、母親とは異なり、醜い容姿を持つ少女です。

その醜い顔は常に髪に隠れているため、あまり顔の全貌を伺い知れることはできません。

 

しかし、陰鬱そうな口元と何もかも恨めしく思っているかのようなギロギロした眼を見ただけで、この少女が俗に言う「綺麗な顔」とは無縁であることが分かります。

 

 

©松浦だるま/講談社

 

 

本作はまず、小学校の学芸会で、累が演技をするところから始まります。

 

母親が女優だからというだけで主人公に持ち上げられてしまった累は、持ち前の演技力の高さを発揮するものの、累をいじめていたクラスの美少女によって、強制的に舞台を降ろされてしまうのです。

 

そこで累は思いました。

 

うらやましい
ほしい
その顔がほしい

 

と。

 

累が取り出したのは、母の形見である1本の口紅。

そして口紅を塗り、自分をいじめていた美少女とキスする累。

すると何と、口づけをした相手の顔と自分の顔が入れ替わってしまうのです!

 

改めて舞台に立つ累。

そこには、今まで自分が受けたことのないような、美しいものを賞賛するまなざしが溢れていた……。

累は小学生にして、「美しいものこそ正義」というこの世の現実を知ってしまいました。

 

そして同時に、累には「口紅を遺してくれた母親の顔は、本当に母親のものだったのだろうか?」という疑念が持ち上がってくるのです――。

 

 

©松浦だるま/講談社

 

 

一線を超えた累にはもはや怖いものはありません。

累の行動はこの時からどんどんエスカレートしていきます。

 

怪談の名作『累ヶ淵』をモチーフとした作品

 

実はこの作品は、江戸時代に累ヶ淵という、今の茨城県に位置するある地方で繰り広げられた、累(るい、かさね)という女性の怨霊についての物語(どうやら実話として伝承されているらしい……)のオマージュです。

 

Wikipediaによれば

下総国岡田郡羽生村に、百姓・与右衛門(よえもん)と、その後妻・お杉の夫婦があった。お杉の連れ子である娘・助(すけ)は生まれつき顔が醜く、足が不自由であったため、与右衛門は助を嫌っていた。そして助が邪魔になった与右衛門は、助を川に投げ捨てて殺してしまう。あくる年に与右衛門とお杉は女児をもうけ、累(るい)と名づけるが、累は助に生き写しであったことから助の祟りと村人は噂し、「助がかさねて生まれてきたのだ」と「るい」ではなく「かさね」と呼ばれた。

とのこと。

 

その後、累は結婚するのですが、容姿の醜い累を疎ましく思った夫が累を殺害。

そしてその後、夫は何度も再婚しますが、ことごとく死んでしまったうえ、ようやく後妻との間に生まれた子どもには累の怨霊が憑りついたのだそうです。

 

マンガのほうの累の苗字は「淵」だし、母である「透世(すけよ)」も『累ヶ淵』に出てくる「助(すけ)」をもとにしたものでしょう。

 

『累ヶ淵』の設定がそのまま活かされているのであれば、透世も顔が醜く、累は母親から何らかの悪縁を引いていることになります。

 

累は小学校の学芸会のあとも演劇を続け、ついには母親と同じ女優の道を歩んでいくことに。

 

累の秘密はバレないのか、母親の秘密は明かされるのか……続きがとても気になる展開ばかりの作品です!

 

日本人の美意識を問う

 

この作品について一番注目していきたい点は、この作品の主張が「外見が全て」なのか、それとも「中身が大事」なのか、というところです。

 

例えば、日本では芸能人もあまり自分が美容整形をした、ということを明かしません。

どこか「天然の美貌や可愛さ」を大事にしているようなところがあります。

 

その背景には、整形は「偽りの美貌」という見方をされてしまうとか、整形手術が「中身が大事」という強迫観念に対する挑戦のように思うからかもしれません。

 

一方で整形手術を肯定する人からすれば「美容整形をして得な人生を歩めるのなら、やった方が良い」「化粧をしたり、綺麗な服を着るのと同じ」という主張もあるのかも。

 

以前、美容整形のビフォーアフターを取り上げた「ビューティーコロシアム」というテレビ番組が放送されていましたが、この番組には「整形を奨励しているのではないか」と多くの問い合わせがあったとのことも思い出されます。

 

僕は美容整形についてどうこう思うことはないのですが、聞いた話によれば、お腹の脂肪をデザインして腹筋が割れているかのように見せる技術があるそうで……お腹は最近特に気になっているところでして……笑

 

とにかく、読んでいる途中でこの作品はこのまま「中身が大事」に対するアンチテーゼを貫いていくのか、それとも全く違う主張を展開していくのか、といった楽しみ方もできます。

 

全14巻完結。オススメです!

 

 

累(14) (イブニングKC)
著者:松浦 だるま
出版社:講談社
販売日:2018-09-07

 

 

そして著者の松浦だるまさんが、なんと自ら執筆した小説もあります!

 

マンガ家がノベライズまで手掛けるのはとっても珍しいのでは……。

これも作者のストーリーテラーとしての力量が優れているからにほかなりません。

 

タイトルの『誘(いざな)』は、実は主人公の母、淵透世の別名。

どうやらマンガ『累』の前日譚が描かれているようです。こちらも要チェック。

 

(レビュアー:苅田明史)

 

 

誘 (星海社FICTIONS)
著者:松浦 だるま
出版社:講談社