TOP > マンガ新聞レビュー部 > タイムスリップの先にあるもの、――大日本帝国が生き残る日『ジパング』

タイムスリップの先にあるもの、――大日本帝国が生き残る日『ジパング』

太平洋戦争で、大日本帝国がアメリカに勝つってことは?

突然ですが、太平洋戦争で仮に日本が勝利していたら、どうなっていただろうと考えたことはありますか?勝利の先にある未来は、ひょっとしたら、1991年に滅びたソ連と同じく、ろくな産業もないまま軍事費ばかりに金をかけて、トイレットペーパーも作れない核保有国として財政破綻をおこして衰退していたかもしれません。

 

戦争に負けた側の我々は、勝った未来を妄想し想像するしかありません。

妄想―それは今に始まったことではありません。冷戦を制覇したアメリカが、長年溜まっていた同盟国の貿易不均衡の解消を求めて、圧力交渉を日本に迫っていました。そんな時、そんな世相を反映してか、傲慢なアメリカへの鬱憤を、太平洋戦争でアメリカに勝利して正しい太平洋戦争を描こうとする「仮想戦記」ブームが起きていました。

 

そこはもう、カオスを煮詰めた世界で、戦後の日本人のメンタリティーを持ちつつも、謎の超兵器で敵を圧倒し、旧軍の軍人の犯したミスをあの手この手で回避し戦争に勝利していく。そういったある意味での健全が妄想が溢れてました。 

そんな戦記ブームが去った頃に、かわぐちかいじ氏の『ジパング』が登場しました。

 

ジパング(1) (モーニングコミックス)
著者:かわぐちかいじ
出版社:講談社
販売日:2012-09-28
  • Amazon

 

◀あらすじ▶
200X年のイージス艦「みらい」が、謎の暴風雨に遭遇、1942年の太平洋にタイムスリップ――。そこは大日本帝国とアメリカが覇権を争う戦場だった。やがて、ミッドウェー海戦域のド真ん中に“出現”した「みらい」の副長<角松洋介>は、撃墜された海軍将校<草加拓海>を救助。そして、「歴史」の1ページを塗り替えてしまう。史実の歴史とは異なる戦況をむかえることになった日本。イージス艦「みらい」をめぐり、大日本帝国、アメリカの思惑が交錯する。この「if歴史」に参加すべきか、否か?みらいの乗組員はどう動く!?

講談社漫画賞受賞。圧倒的な総力で描き出す問題作!

 

それは禁断の歴史改変『if 歴史』

もしあの時、◯◯をしていれば、未来は変わった!といわれる「if歴史」は、想像力をかきたてます。<本能寺の変で信長生存!>とか、<明治維新失敗、徳川政府樹立!>と可能性の翼に思いを馳せれば、なんでも想像できます。ただし、それが説得力を持つのは他人と共有できたときに成立します。そういう意味では、かわぐちかいじ氏ほどのうってつけの漫画家はいません。漫画の読みやすさ、内容の理解のしやすさでは右にでるものはいませんし、漫画でしか味わうことができない未知の興奮を得ることができるスペクタル大御所作家です。

 

『ジパング』の連載が始まったとき、きっとモーニングの読者のオジサンたちが喜びそうな、日本軍が勝って勝って勝ちまくる無双系の快楽妄想漫画になるんじゃないか…とちょっとだけ心配しました。しかしそれは杞憂でした。『ジパング』は、アメリカに勝った戦争自体の勝利を描くのではなく、その勝利の向こう側にあるものを描こうとしています。

「美しい国 日本!」

べつに安倍首相のスローガンではありません。字面としてはあってますが、全くそれとはことなっています。

「戦後の日本」「戦前の大日本帝国」とも違う『日本国』。それは、まさに黄金に輝く国『日本《ジパング》』なのです。戦後の日本が無くしてしまったもの、忘れてしまった『日本』が生存することを描いた作品なのです。

 

未来を知ってしまったことで戦後の日本を許さない帝国海軍少佐<草加拓海>と、戦後民主主義を徹底された自衛官<角松洋介>が、イージス艦も戦艦大和も、日本軍もアメリカ軍も巻き込んで、戦地で東京で上海で、生死と自らの信じる日本をかけて対峙します。

そして<みらい>のクルーが、もう未来に帰れないとわかった時に、戦場という極限下で、最強の暴力をもつ魔力に抗えるか?

戦後の民主主義の価値を徹底された日本人がどう生きるべきか?その葛藤が痛いほど伝わるはずです。

唯の娯楽漫画と思いきや、まさかの、日本人としての覚悟を漫画の中で問われているのです。だからこそ架空戦記ブームの頃に流行った読み物とは異なり、読み応えがあるのです。

 

まさしく漫画という媒体を縦横無尽に利用し総力戦のような、全43巻の圧巻のボリュームです。彼らが下す決断を、しかとご覧になってください。

 

 

☆こんなひとにオススメ☆

【大日本帝国の活躍が見たい人、アメリカをギャフンといわせたい人、太平洋戦争はもっとマシな戦いができたと思う人、自衛隊とはなにか?戦後の日本とは何か?と問いの人、アメリカのくびきからはなれたい人、今と違う日本の未来を見たい人】

 

ジパング(2) (モーニング KC)
著者:かわぐち かいじ
出版社:講談社
  • Amazon
  • Amazon






  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
ジパング(3) (モーニングコミックス)
著者:かわぐちかいじ
出版社:講談社
販売日:2012-09-28
  • Amazon