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天才女子高生が持つ才能の「残酷さ」とその「破壊力」について『響~小説家になる方法~』

漫画家支援を仕事としていた私は、漫画家漫画が大好物です。そんな好物の横に、今度はとんでもない小説家漫画が出てきました。

 

それが、本日紹介させていただく『響~小説家になる方法~』です。

主人公は強烈な才能をもっていて、その才能が彼女のまわりにどんな波紋を起こしていくかを描いた漫画です。

 

 

 

 

私たちも普段から、才能が人から夢を奪う「残酷さ」や、職業どころか、人生までも奪ってしまう「破壊力」を眼にしているはずなのに、「努力すれば・・・・」とつい綺麗事を言ってしまいがちです。

 

でもこの作品では、本当の才能に対峙したときの人間を描こうという、作家の強い意志がそこかしこに横溢していて、すこし震えがきます。そんな漫画です。

 

主人公の鮎食響(あくい・ひびき)は、幼馴染の涼太郎とともに、進学したばかりの高校1年生です。ちょっと、いやかなり女子高生離れした彼女ですが、文芸部に入り、慣れない人付き合いを始めます。

実は時を同じくして、彼女は文芸誌「木蓮」の新人賞に応募していました。名前以外、自分の連絡先を書き忘れてはいましたが。

 

まだ見出されてない天才を見ると、人はどう反応するか。

 

私は、その男の写真を三葉、見たことがある。」というのは、私の記憶する太宰治『人間失格』の冒頭ですが、響の新人賞作品から、天才を見たときの3ポジション3様の「反応」、いえ「破壊」がそこにはありました。

 

当然、作中の主人公らの「小説」は作中作品ですので我々は読むことが出来ませんが、この作品から響が書いた小説のすごさは、実際に読んでいるこの人たちの表情から読み取るしかないのでしょう。

 

響の新人賞を受け取った、「木蓮」の編集者はこうなった。

 

3年目の若手編集者、花井の場合
©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

ベテラン編集者、大坪の場合
©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

 

とりあえず、目の色が変わって、固まります。

私は多分、ここに一番近い属性なのですが、なんとかこの作家と作品を自分の担当にしようとするでしょうね。

驚愕からの焦燥とでも申しましょうか。

 

先日、ある西日本の専門学校で、ちょっと目の色が変わる一人の天才漫画家の卵を見つけたんですよね。

あの時の気持ち、 こんな感じなんだろうなと思うのでした。あれは凄かったなぁ。

 

 

若い、まだ己の才能の限界を見極められてない、新人作家達は、こうなります。

 

ライター兼小説家、中原愛佳の場合
©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

ライター兼小説家、中原愛佳の場合
©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

ライター兼小説家、中原愛佳の場合
©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

中原愛佳 断筆

 

 

小説家兼ファーストフード店員、山岡歩々の場合
©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

山岡歩々 テンパリMAX

 

 

小説家兼OL、西ヶ谷コウの場合
©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

西ヶ谷コウ 自我崩壊

 

 

人の才能を見て心が折れるということは、ありそうでそうはありません。

彼我の差を見極める力というのは、中途半端な新人では到達し得ないものです。

 

己を知り、目前の壁の厚さを思い知り、もがいている存在にとって、自分の上空を無人の野を飛び抜けるように通過していく天才は、恐ろしい存在です。

いや、これはもう悪夢ですよ。

 

一人目の中原さんは、響の小説を読んだことをきっかけに小説家を諦めて幸せな一生を送るわけですが、あとの二人には、これはもう、道でばったりぶつかった悪夢としか言いようがありません。

中原さんの後日談には、作家さんの実体験か思い入れがありそうですね。

 

 

そして、すでに実績を残している、職業作家はこうなります。

 

芥川賞作家、新人賞審査員、鬼島仁の場合
©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

芥川賞作家鬼島仁 諦観

 

「オレはもうこいつみたいには書けない…」というのが染みますね。

つまり、元々は書けたのが、もう書けないということなんですよ。人生がナイトメアに包まれそうです。

 

まぁともかく、響は次々とライバルや同業者を破壊していきます。

もうこうなると、業界の救世主なのか破壊神なのかわかったものではないですが、天才なのですから仕方ありません。

 

次々と濃い目のキャラが出てきますが、さながらバトル漫画のように粉砕していく様は、いっそ痛快です。

 

 

天才には、とんでもない力の反面、毒もあります。

 

作品の力だけ見れば、良くも悪くもとんでもない大天才のような存在ですが、その彼女も現実世界とは折り合いがついてません。

高校でも出版社でも、何度もトラブルを起こし、涼太郎を困らせる響ですが、私の気に入った彼女の必殺技のひとつが、本棚倒しです。

 

 

©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

 

小説家なんですから、本は大事にして欲しいものです。

そしてもうひとつが、誰に習ったか、しっかり引き手を利かせているミドルキックです。

 

 

©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

 

とにかく蹴っては、本棚を倒します。

 

 

©柳本光晴/小学館(ビッグコミックスペリオール)

 

 

危ないったらありゃしませんが、彼女は別に念やチャクラが使えるわけでもなく、むしろ非力なインドア女子高生のはずなのに、このイカレた感じをまとっています。

天才の、触れると切れそうになる感覚とでも言うのでしょうか。この世界にいると、確かに存在するものだと感じる何かです。

 

作者の柳本光晴さんは、天才の破壊的な部分を際立って描く方だと思います。

興味深いのは、主人公の響に、ある発達障害に顕著に見られる傾向を多く持たせ、作中随所に描かれてることです。

天才と表裏一体と言われるあれですが、出し方がなかなか味わい深いというか、良く判ってらっしゃると思いました。

 

お笑い芸人が芥川賞を受賞し、明るい話題にはなりつつも、どこか真の意味で天才作家が待望される文芸界に、この華奢な破壊神がどんな爪あとを残すのか、続きが楽しみです。

本作は、クリエイターや起業家など、際立った天才とお付き合いする可能性がある方にも、あるあるとして読める面白さがあるかなと思いました。

 

ぜひ読んでみてください!