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平成三十年、三十年たてば、人は――歴史になる。『昭和天皇物語』

2019年、平成31年で平成の世は終わる。昭和の最後の日を、小学生の時に迎えた私は、何か感慨深いものがある。一つの時代の終わりをまた迎えるからだ。

――1989年1月7日。

昭和天皇が崩御されたあの日に、テレビは全て昭和天皇の映像で塗りつぶされた。12歳だった私には、いつのもテレビが見られないことが耐え難い苦痛だった。ファミコンもなくこれといって娯楽はなかったから、レンタルビデオ屋に行ってみたものの、お目当てのビデオは何一つ借りることができなかった。そんな少年に、昭和天皇を身近に感じろというのは無理な話だ。
 

しかし、大戦中に骨の髄まで皇軍兵士だった祖父は違った、昭和天皇を崇拝していた(その域はもはや洗脳に近かかったが)。
私や弟が、サヨクかぶれの教師に入れ知恵されて、天皇制を知ったかぶりで批判した日には、マジで往復ビンタだった。そんな祖父は、肩をがっくり落とし、新幹線に乗り皇居に記帳に行った。

私は、昭和の終わりはそんなふうに記憶している。

 

この書籍『昭和天皇物語』は、その名の通り<昭和天皇>を描いた物語だ。

(C)能條純一・半藤一利・永福一成 / 小学館

 

<1巻のあらすじ>

今世紀最大の話題作、ついに単行本化!!

大元帥陛下して軍事を、大天皇陛下として政治を一身に背負い昭和という時代を生き抜いた巨人。

「ビッグコミックオリジナル」誌で毎号にわたり衝撃を呼ぶ巨弾連載、待望の第1集は、その少年時代が大胆な解釈と圧倒的な画力で描かれる…!

波瀾万丈という言葉では表せないほどの濃密な生涯に半藤一利氏協力のもと、漫画界の巨人・能條純一氏が挑む--

 

昭和天皇物語(1) (ビッグコミックス)
著者:能條純一
出版社:小学館
販売日:2017-11-17
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けれど、なぜ「この今」になり、昭和天皇が描かれるのか。陛下が崩御された直後や、新世紀を迎えた20年前では、駄目だったのか?そう考えると、この漫画を読むとやはり30年たった「この今」だからこそ描ける内容だと思うのだ。

 

新世紀を迎える少し前、私は自堕落な大学生となり、サークル仲間と集まって『銀河英雄伝説』のアニメを見ながら、日本近現代政治史オタにしてミリオタ・アニオタの三重苦の先輩とダベっていた。見ていたアニメ『銀河英雄伝説』が未来の歴史叙事詩だったせいか、その政治史オタ先輩が放った、忘れられない一言があった。

 

「人の歴史的な評価は定まるのに時間がかかる。新しい研究資料も含めると、30年位たつといい塩梅になる。まずは、少なくとも当事者が全員死ねば尚良い」と。(ドヤ顔で。)

 

たしかにそうかもしれない。そう30年も経てば、大抵の人のことは忘却の過去に埋もれる。歴史は地続きだが、当時の当事者が生きてなきゃ真実はわからない。
1945年に死んだアドルフ・ヒトラーの30年後に生まれた私が、その時代の空気感も含めてアドルフ・ヒトラーの登場の意義など知るよしもない。その偉人の死後に生まれた人間にとって、故人は遠い過去で、歴史の一ページだ。

 

そうなのだ、三十年たてば、人は ―歴史になるのだ。

 

<2巻のあらすじ>

時は大正。自らの為に創設された御学問所で強烈な講師陣による英才教育を施される迪宮(みちのみや)少年。やがて天皇となることを運命づけられた少年も、とはいえ多感な10代半ば。学友たちとのかけがえのない日々を過ごす一方で、母のように慕った教育係・足立タカとの悲しい別れや周囲が押し進める「お妃候補」との出会いを経て少しずつ大人への階段を登ってゆく姿が情感豊かに描かれます。

 

昭和天皇に、生まれしときから課せられた使命はあまりに重い。それでもまっすぐ生きていく姿に、保守と革新とか、右とか左などの思想は関係なく人間として応援したくなる。

 

作画をしている『哭きの竜』、『月下の棋士』の能條純一が描く、大胆にして緻密な写実表現が、当時の主要な歴史的人物<原敬や山県有朋>などを丁寧に描きつつ、時代の空気感をより深くえぐり出している。
読み進むにつれて、グイグイと引き込まれていく。どこまで、天皇陛下を描くのだろうか。人生に大きな転機を与えた欧州訪問、軍部のクーデターである二二六事件、満州事変、そして戦後の日本。人としての迷い、天皇としての挟持、大元帥としてのあり方、統治者としての意思、有象無象の野心家たちに囲まれ、不穏な世相の中で、あらゆる権威と権力が交錯する。

 

全ては歴史的事象でありつつ、私達の地続きの日常の歴史でもある。はたして、それを昭和天皇の目を通して、どのように書かれるのか楽しみでならない。

 

この『昭和天皇物語』を読んだとき、あなたは歴史の証言者になる。

 

試し読み

https://www.shogakukan.co.jp/books/09189717

 

 

☆こんな人におすすめ☆

【昭和の時代を知りたい人、昭和天皇の人となりを知りたい人、日本近現代史の政治家を見てみたい人、歴史の偉人に講義してもらいたい人】

 

昭和天皇物語(2) (ビッグコミックス)
著者:能條純一
出版社:小学館
販売日:2018-04-13
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