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島耕作:課長 ⇒部長 ⇒(略)⇒会長…次は赤ちゃん?『赤ちゃん本部長』

団塊世代サラリーマンの雄「課長」島耕作は、戦国時代の豊臣秀吉よろしく立身出世を繰り返し、初芝電気(現TECOT)での役職は「会長」だ。

バブル以降の不景気の中でここまで身を立てることができたのは、男子の本懐であろう。しかし、仕事での順調出世とは異なり、家庭の不和、数々の女性関係など、島耕作は本当に恵まれているのか?

彼が何もできない者になったとき、彼を損得抜きで(有りでも可)助ける人間は何人いるのだろうか。

 
そんな、サラリーマンの人の愛を試すかのような、ギャグ漫画がある。

 

そのタイトルは『赤ちゃん本部長』

 

私が、小学生だった昔に「課長」だった島耕作は、大学生になったころには「部長」の役職となっていた。

当時、オタクサークルの仲間と「部長」の次は何なのさ!?そのうちに「専務?社長?」最後は「会長」じゃね?なんて話をしていた。いやいや最後は「顧問」か「名誉会長」だろうさ、なんて…。

ところがどうだ、現実は、しっかりと島耕作は「会長」になっていた。それ以上に驚いたのは「学生」、「係長」と若返っていたことだった。更には推理サスペンスまで…。

 

あやつ!やりおった!時間を巻き戻しやがった!しかも別の職業まで。その当時、アニメ会社にいた私は、狂喜乱舞した。いやもうこれはなんでもありだ、最後は「総理大臣」しかないじゃんと思っていた。

(けど総理の職は同じ作者の『加治隆介の議』がやっていますね。)

だが、まだ彼が到達できない状況があった。

 

それは―「赤ちゃん」。

 

赤ちゃんだけは、島耕作はなれなかった。おっぱいを飲むことしかできない赤ちゃんに、彼の明晰な頭脳も手広い人脈も発揮されることは永遠にない。だが、神は、見捨てなかった。

 

そうそれは、この――『赤ちゃん本部長』の爆誕である。

(C)竹内佐千子/講談社
これぞ、日本の大人が読む「週刊モーニング」が生んだサラリーマンの権化 <島耕作>の、ある意味での最終形態にして最終転生なのだろう…。

 

この『赤ちゃん本部長』は、タイトルの通り赤ちゃんにして本部長が主人公だ。普通のサラリーマン漫画とはひと味違う。いや、正確に言うならば全く異なる、…なぜなら、

彼・は・何・も・で・き・な・い。

当たり前である、赤ちゃんなのだから。赤ちゃんのできることは、庇護者に守ってもらい、乳をのみ、泣き喚き、寝る。これが赤ちゃんの仕事なのだ。一つ違うとすれば、本部長時代の意識がそのままあり、喋れることだけ。

(まぁ、これがなければ漫画が漫画たりえない)

 

もちろんタイトルから推測できるように、出落ちである。

時代が時代なら、本当にナンセンスギャグとして終わってしまうけど、今は、人口減少時代の一億総活躍社会である。女性も老人も活躍する時代だ。

ならば、赤ちゃんが活躍してもいいじゃないか!と思ったりもする。漫画である前提条件が、すでに現実的社会においても全くないとは言えない状況なのだ。

 

『赤ちゃん本部長』は、『課長島耕作』ばりに、仕事ぶりがキレキレッだが、そこは赤ちゃん。自分では何もできない、いや正確に言うならば寝返りくらいしかできない。

(C)竹内佐千子/講談社
だからこそ部下たちがここぞとばかりに力を合わせ協力し、トラブルを解決していく。本来なら本部長が直接手を下していた案件も、今は部下がやらざるを得ない。だってもう司令塔が赤ちゃんなんだから。

仕事をしている社会人の諸兄のみなさんならわかると思うが、なんというべきだろうか?本部長の個人的なカリスマに頼っていた時分より、部下たちが自発的に行動し、なおかつ責任感を持って仕事に取り組んでいる。管理職としては三国一の果報者である。

 

しかも、部下だけでなく、社長も専務も役員みんなが、本部長を心配し、俺にできることはないか?とばかりに手を挙げる。

無論その時、彼らの腕に抱かれている赤ちゃん本部長は、寝息をたてておねんねしているのだが…。

 

ーこれは、もう愛である。

会社に愛が満ちていて、人の本来もつ優しさが社内に溢れている。そして、本部長自身も、部下に優しい。…もう赤ちゃんなので怒っても迫力はなく、気力すら睡眠欲にとって変わられてしまう。

更に言うならば、部下にオシメを変えてもらっている身、文字通り裸になって全てをさらけ出しているので、もう格好をつける理由すらないのだ。

 

漫画なのに皮肉と示唆にとんだ話と言ってしまえばそれまでだが、コミュニケーションの本質を示していると考えたりすることもできる。要はどうしようもなくなったら、恥も外聞もなく自分をさらけだし、助けてもらえ!ということだ。

本部長は、図らずも赤ちゃんになったことで、これが出来てしまったのだ。

 

 

とは言え、本部長も働く。

その赤ちゃんの特性を活かしてクレーム謝罪をし、心の疲れた部下に語りかける。所々のエピソードにときおり入る子育てあるあるが心地よい。

(C)竹内佐千子/講談社
赤ちゃん本部長のわがままは、オッサンなら理不尽な要求でも、赤ちゃんになれば途端にその要求すら可愛くて仕方ない。

普通にオッサンが言ったらセクハラになる言葉すら、赤ちゃんが言ったとなれば思わず笑みがこぼれてしまう。誰もが考えている以上に存在自体が、職場の雰囲気の和みになっている。そこから沸き起こる程よい笑いがたまらない。

 

皆、一度は母の産道を通り、オギャーと声を上げたときから、赤ちゃんだったのだ。

 

だからだ、赤ちゃんを否定することは、自分を否定することに他ならない。今、<働き方改革>に本当に必要なのは、赤ちゃんなのかもしれない。

 

とりあえず読んでみませんか?  すーっと読めますよ!

『赤ちゃん本部長』試し読みはこちら

 

 

☆こんな人におすすめ☆

【ギャグ漫画、なんとなく笑いが欲しい人、生活に潤いが欲しい人、会社組織を学びたい人、ふわっと和みたい人、固定観念を打破したい人、赤ちゃんをめでたい人】

 

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