TOP > マンガ新聞レビュー部 > 一目惚れした転校生に「7回殺す」と言われた理由が前前前世どころじゃなかった『スピリットサークル』

みなさんは、運命を信じるだろうか。
例えばめちゃくちゃ好きになった子と付き合えたのに10日で振られて、その後もくっついたり離れたりして最終的に「あぁ、この子のことは一生嫌いになれないし忘れられない運命なんだろうな」と悟ってみたり。たまたま3年毎に都合よく転機が訪れただけなのに「オレは3年周期で人生が変わる運命なんだ」なんてのたまってみたり。僕の経験上、都合よく運命のせいすることで妙に気分が楽になることって、意外と少なくない。
こと恋愛に関しては、人はロマンやドラマを求めがちな部分があるので運命という言葉に弱い。しかし、仮に一目惚れした女の子と親しくなりかけた矢先に「嫌い」と言われ、挙句の果てに「あと7回死ね」なんて言われしまい、しかもその理由が「そういう運命だったから」だとしたら、どう思うだろうか。
今回紹介する『スピリットサークル』は、あまりにも悲劇的な「運命」を生まれながらにして背負ってしまった中学2年生の男の子(桶屋風太)と女の子(石神紘子)の物語である。現世でははじめて会う二人だが、過去生(いわゆる前世)では7回同じ時代を生きており、その多くはお互いを殺し合う運命にあった。紘子が先にそのことを思い出し、先の「7回死んでもらう」というセリフにつながるのである。もはや前前前世どころではない。(←言いたいだけ)
「殺し合う運命」から、現世になっても逃れられない二人
風太は、当然何のことか分からない。そこで、スピリットサークル(魂環)という道具を使って過去生を追体験することに。しかし、すべての過去生を見終わったタイミングで、紘子からは過去生の行いを精算するための殺し合いの決闘を申し込まれている。風太にとっては殺し合う理由なんて1つもないのに。
風太が最初に追体験した過去生は、靴屋の息子・フォン。森の中で知り合った少女・レイに一目惚れし、2人は恋仲になる。しかし、それから2年後、レイが8年に一度執り行われる護国の儀式の生贄に選ばれてしまう。戦士になりたかったフォンは、その神聖なる儀式に割って入りレイを助けようとするも、時すでに遅し。そしてそのレイに手を下した神官・ストナが紘子の過去生であり、フォンが儀式に乱入した後に儀式そのものに異を唱える者が増え、彼らに無残にも処刑されてしまうという結末に……。
この過去生は二人にとって二度目の輪廻であった。その後も、貴族の長男・ヴァン、建築家・フロウ(スフィンクスさん)、研師・梶間方太朗、亜生者幽眠管理センター長・ラファル、地質学者・風子。そして最後に、風太と紘子の輪廻の起源となるフルトゥナ。風子以外のすべての過去生において何らかのかたちで対立し、殺し合いの螺旋から逃れられずにいることを、風太は知る。さらに、フルトゥナは、魔導とされていた人工精霊を自ら作り出したり、不治の病に陥った弟子の魂を実体化し半永久的に生きられるようにしたりと、宇宙を支配せんとするマッドサイエンティストでもあり、事態は複雑化していく。
現世で風太の魂を殺して輪廻を断ちたい紘子。過去は過去としてただ紘子と仲良くなりたいだけの風太。もうこれ以上殺し合いはしたくないのに、紘子は決闘をする以外に解決策を見出だせない。
中2にとって大切なのは、過去の因縁よりも目の前の好きな子
もう、悲劇である。呪いの連鎖、続きすぎである。なにせ好きになった子が過去生に縛られすぎて言うことを聞いてくれないのだから。「桶屋風太くんはいい子だけど、彼はフルトゥナだから殺さないといけない」とか、ちょっと意味が分からない。
この物語のキーワードは「輪廻転生」であり、過去と未来をつなぐ線上に一つの魂が入れ物(肉体)を変えて何度も生きることで、過去の記憶や経験を引き継ぐべきかどうか、という点にある。フルトゥナを筆頭に、風太の過去生は頭脳明晰な人物が多く、奪い奪われ、天才であるがゆえの苦しみを多く抱えてきた。にも関わらず、風太は頭が良くない。凡人である。この凡庸さが、実は7つの人生が行き着いた結論でもあったのだ。凡庸であるがゆえに、紘子に対して愚直に「仲良くしたい」「殺し合いはしたくない」と訴え続けることができただろうし、宇宙を支配しようとするフルトゥナに対しても複雑なことを抜きに物事の本質を突きつけることができたのだろう。
過去生に囚われすぎていた紘子に対し、過去生の魂を自分と同期させながらも、自分の人生を選択できた風太。最終的には、「石神さんと仲良くなりたい」という一点に全身全霊を懸け、諦めなかった風太の勝ちなのである。
この物語は、輪廻転生やら宇宙を超越するやら難しい言葉がよく出てくるものの、本質的には恋の物語だ。中2にとっての恋は過去生や宇宙をも超えることを、風太は証明してみせたのだ。
時々流れる謎の涙の正体は、もしかしたら……。
『スピリットサークル』の中で、好きなシーンがある。主人公の風太が、時々理由も分からずに涙を流すシーンだ。風太も頻繁に経験するこの涙は、”今”の自分には理解できないのだが、過去生の自分が経験した大切な場面がリンクしていることを意味する。
僕も、時々理由もなく涙が溢れ出て驚くことがある。先日、高知の山奥にある集落にいる人たちと楽しく飲んでいただけで泣けてきた。『スピリットサークル』を読んでからは、「もしかしたら気づかないうちに自分の過去生の記憶とシンクロしているのかもしれない」なんて考えるようになった。
特別自分の前世や過去生に興味があったわけではない。大学生の時に一度だけ、バイト先の友人のお母さんに守護霊を見てもらったら「中東系の人がいるね」と言われたことはある。もしかしたら今の自分が世紀を超えて蓄積してきた魂の上に成り立っているのかと思うと、これからはもう少し人生を大切に生きなければならないと感じた。
しかしながら、7つの人生を振り返りながらも6巻で完結させた水上悟志さんには頭が上がらない。何度も読みたくなる名作を、みなさんもぜひ読んでみてほしい。
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