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私が幸せになるルールは、私が決める。差別の時代を気高く生きた1人の女性の物語『アルテ』

自分が幸せになるルールを理解している人ほど、楽しく生きている気がします。

それは友達とくだらない話をするとか、サウナに行くとか、おいしいケーキを食べるとか。

ルーティンのように、「○○したら/だったら幸せ」という自分ルールです。世間の常識だとか、人に言われたからじゃなく、自分勝手であればあるほど正しいです。それを見つけて実践できると、人生は楽しくなるんじゃないでしょうか。

『ひとまず、信じない』という押井守監督の本にも似たようなことが書いてあって、押井監督はそれを「優先順位」と表現していました。自分で決めた優先順位に従って生きるのが幸福である、ということです。

ですが現実は、そうやって幸福になるのが結構難しいです。生きていく上では、自分のなかで優先順位が高くないことでも、他人や世間からの要請に応じて対応しなければならない時が結構あるものです。

 

今回紹介する『アルテ』は、そんな現実の中でも自分の優先順位で幸せを目指そうとする、1人の気高い女性の物語です。

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16世紀。フィレンツェ。女は職業を選べない

『アルテ』の舞台は16世紀初頭のイタリア・フィレンツェです。音楽、絵画、彫刻などの文化活動が華開く、ルネサンスの真っただ中。誰もがいつか世界史の教科書で読んだことがあるように、華やかなイメージの強い時代です。

 

一方、職業や性別による差別はかなり厳しいものがあったようです(諸説あり)。
主人公のアルテは貴族の生まれで、十分な教養をもっています。しかし女性であるがゆえ、将来は男性に嫁いで子供を産み、育てるのが仕事だ…と言われながら育てられてきたのでした。それでも理解ある父のおかげで、大好きな絵の勉強は続けることができていました。

 

しかし、そんな父が急逝。アルテの将来を心配した母は「将来まともに生活をしたいと思ったら、殿方に気に入られるしかないのですよ」と言いながら今までアルテが描いてきた絵を燃やしてしまいます。

 

お母様の言うまともな生活って…好きなこともできず、男の下で媚を売る自由のない生活のことですか?

 

ショックを受けたアルテは奮起。絵を描く職人としての独立を見据え、フィレンツェの工房への弟子入りを目指します。

職人になるのは、目標じゃなくて手段

決意を胸に家を飛び出したアルテですが、女性である彼女を受け入れてくれる工房はどこにもありませんでした。持参した絵を見てもらうことすら、まかり通りません。

そして最後の最後にやっと絵を見てくれる画家と出会うことができたのですが、弟子入りのために、無理難題を出されてしまいます。でも、アルテは諦めません。それは、自分のなかの「ある気持ち」が理由でした。

女が一人で生きていくのが、どんなに大変か分かってる…だけど、どうしようもなく怒りがわいてきて、それが私をつき動かすんです。
どこかでのたれ死ぬかもしれなくても、工房で学んで、自分自身の力で生きられる道を目指したいんです。

 

アルテはきっと、自分が幸せになるための優先順位をハッキリと心得ていて、それに従って生きられない自分に対しての怒りを抑えられなかったのだと思います。誰かに嫁いで養ってもらうのは、彼女が望む幸せを掴むための手段としては不適格なのです。

 

だから「自分自身の力で生きる」という気高い幸せを掴むための手段として、職人を選んだ。もしかしたら絵が好きだという気持ちは、無意識のうちに、それが自分を幸福にする手段になると理解していたからなのかもしれません。

 

『アルテ』の舞台は16世紀のイタリア・フィレンツェです。現代日本とは社会情勢が大きく異なります。しかし人が幸せになるルールにはきっと、変わりありません。人が日々感じる理不尽や怒りも、あまり変わらないのではないでしょうか。だからアルテの言葉と行動は、今を生きる僕らにもグッとくるのだと思います。

 

レビュアー 宮﨑 雄 (@zakimiyayu)

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