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もはや脅威ではなくなったHIV。その初期の歴史が垣間見える『TOMOI』

大学の卒業論文で少女マンガを研究しました。「女性の社会進出と少女マンガがどうリンクしているか」という内容です。少女マンガって社会を映す鏡のような存在なんですよね。

先日ふと、『TOMOI』という作品を読み返してみました。作者の秋里和国さんはSFからコメディから、いろんなタイプの作品を描いてましたが、これはシリアスものの代表作です。ボーイズラブという名前が作られる前の話ですが、秋里さんはゲイもの(ボーイズラブっていうほど耽美ではない)もたしなむ人で、『TOMOI』もそのひとつです。

 

TOMOI (PFコミックス)
著者:秋里和国
出版社:小学館
販売日:2013-07-02
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ストーリーを簡単にすると、愛し合ってるゲイカップルの片方がエイズになり、なんやかんややって厳しい展開になっていく話です。

 

主人公の友井さんは、慶應の医学部を卒業して、アメリカでお医者さまをしています。同じ病院に勤めるマーヴィンと愛し合っていますが、彼には妻がいます。世間体を気にしてマーヴィンは結婚をしたけれど、友井さんと出会って彼女と別れることを決意します。そんな矢先、マーヴィンは自分がHIVに感染していて、エイズを発症していることに気付くのです。 その後は、2人の関係に気付いたマーヴィンの妻が激怒して病院に乗り込み、なんやかんややって友井さんはアフガンの前線に赴くなど、壮絶な人生を歩み始めます。

 

序盤はコメディで始まるのですが、ゴロゴロと転がり落ちていきます。ラストのセリフは何度読んでも泣いちゃいます。むかーし、「カルトQ」ってクイズ番組がありましたが、そこで「ラストのセリフは何でしょう?」って問題が出たそうです。それくらい印象的なセリフです。

 

エイズが発見された当初、ゲイが原因の病気だなどと言われていました。その誤解はすぐに解けたように思いますが、長らくエイズは不治の病として恐怖の対象でした。病院では診察拒否にあうなど、差別の対象でもありました。80年代の漫画には「やめろよ、エイズがうつる」などという差別発言があったりします。

 

しかし今やHIVはほぼ完全に押さえ込むことができるそうです。そのため、HIVに感染してもきちんと治療をすればエイズを発症することもなくなりました。エイズはもはや、死神を呼ぶような恐るべき病気ではなくなったのです。

 

また一方で、友井さんとマーヴィンの仲を引き裂いたのは、2人が同性同士だったためです。同僚にゲイであることを知られるのを恐れ、マーヴィンは偽装結婚までして、社会に溶け込もうとしていました。当時のアメリカがLGBTQに対してどのような反応だったのかは不勉強で知らないのですが、エイズがゲイの病気だなどという発想があったことから考えても、まだまだ差別の対象だったのでしょう。

 

でも今やアメリカでは同性愛の結婚が認められており、子どもを育てるカップルもいます。完全にとまでは言えないかもしれないけど、もはや絶対に隠しておかなければいけない禁忌ではなさそうです。

 

現代では『TOMOI』の基本設定である「ゲイであり、エイズを発症したゆえの悲劇」が、現在ではまったく成り立たないんです。 今なら、そもそもマーヴィンは偽装結婚をしなかったかもしれないし、友井さんとも堂々と恋愛ができたかもしれないし、HIVに感染したとしても発症はしなかったかもしれない。友井さんはアフガンに赴くこともなく、2人は幸せになっていたかもしれない。 そう思うと、今となっては古くさく思える展開の数々が、いっそう切なく思えてきます。間違いなく『TOMOI』は当時最先端のトピックを詰め込んだ作品です。

 

そして、もう同じような作品を作ることが不可能なのだと思うと、やっぱり時代を切り開いていく少女マンガってすごいよな、と思うのですよね。