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佐村河内事件とは何だったのか?『淋しいのはアンタだけじゃない』

※本記事は、マンガレビューサイト「マンガHONZ」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。
(2017年4月24日 文:佐渡島)

『淋しいのはアンタだけじゃない』は、読む人によって、印象に残る場所が全く違うだろう。
差別がメインのテーマだと思う人もいれば、創作のあり方がテーマだと思う人もいるだろうし、報道のあり方に疑義を投げかける作品だと思う人もいるのではないか。立場によって気になるところが違う。

毎週、水曜日に僕はブログを書いているのだが、そこで一度、この作品について書いた。
https://note.mu/sady/n/n243ef7b7fcc6?magazine_key=mabd15da39e5

その時は、聴覚障がいの差別についての側面から感想を書いた。あまりにも初めて知る事実が多くあり、驚いたからだ。
昔、『バガンンド』の担当をしていた時に、小次郎が聾唖という設定だったため、そのことをいろいろ調べたつもりだった。しかし『淋しいのはアンタだけじゃない』に描かれているような感覚についてまでは、全く調べられていなくて、衝撃を受ける情報がたくさんあった。


僕がもう一つ印象的だったのが、マスコミの取材のあり方だ。マスコミの中にいて、人事異動のあり方などを直接見ていたものとして、プロフェッショナルな人だけが取材をしていることなど起こり得ない。コミュニケーションに誤解はつきもの。記者による取材だって、誤解がたくさん起こり得る。ある出来事が、ヒートアップしてマスコミが殺到すると、出来上がった陳腐なストーリーに無理やり当てはめられ、批判されてしまう。その構造が、作品を読むとよくわかる。

佐村河内さんの記者会見シーン
大勢のマスコミを前に、記者会見する佐村河内さん

「あれだけ日本中の
マスコミから記者がいても、

聴覚障害について
きちんと触れてる人は
ほとんどいなかった…」

特別な事件が起きる時というのは、事情が複雑であることが多い。しかし、複雑な事情は、多くの人にうまく伝えることができない。だから、簡略化された悪人が生み出されて、その人が反省をするまで一方的に糾弾される。複雑な事情を紐解くと、悪人とされていた人が、全く悪人でない、むしろ善人であることさえある。リクルート事件も、薬害エイズ事件も、ライブドア事件もすべて同じ構図で起きている。(と、僕は考えている)佐村河内さんの件も、似たようなところがあると知って、認識が大きく変わった。

作品のメインのテーマは、マスコミのあり方ではない。エッセイ漫画として描いていて、佐村河内事件も、作品のど真ん中のテーマではない。作品のきっかけではあったようだが、取材をして、描いていく中でずれてきている。最終的に、どのような終着点にたどり着くのか?
今、終わり方が気になって、最新刊を楽しみにしているタイトルの一つだ。  

淋しいのはアンタだけじゃない 1 (ビッグコミックス)
作者:吉本 浩二
出版社:小学館
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淋しいのはアンタだけじゃない 2 (ビッグコミックス)
作者:吉本 浩二
出版社:小学館
発売日:2017-02-28
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