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物珍しさに惹かれて読んでみたら、予想外の方向でとんでもなかった。『男の娘どうし恋愛中。』

誰かを好きになればなるほど、不安になりませんか?
「こんなことして、嫌われちゃったかな」とかって。

自分は、一度好きになったら相手に欠点があってもつい目をつぶっちゃうんだけど、相手は自分に完璧な姿を望んでいる気がしちゃうんですよね。

 

だから相手と一緒にいるときに、自分が「なりたい自分」になれていないなと気づくと「もうダメだな」って関係を終わらせちゃいます。
聞き心地のよくないことを言ってるなとか、人として伸び伸びやれてない、無邪気に笑えてないと思うと「いい関係じゃないからやめちゃおう」って思うんです。

 

付き合うときは真剣だし、相手には居心地よく過ごして欲しいけど、自分を損なってまで無条件に相手を受け入れるとか、何かを犠牲にしても価値がある相手なんて、いないと思うんですよ。……思ってたんですよ。

 

『男の娘どうし恋愛中。』は、生粋の男性なのにAV女優として活躍していた大島薫さんと、同じく男性なのにAV女優をしていたミシェルの恋愛コミックエッセイです。

 

男の娘どうし恋愛中。
著者:大島 薫
出版社:宝島社
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とにかく、なんだか感動してしまった。
大島さんのTwitterをフォローしているので、2人がつきあい始めたことは知っていました。2人の関係を隠さずにオープンにしているところが、潔くていいなと思ってたんです。めっちゃのろけまくってたし。

 

作品には、いいところばかりじゃなくて、大変なことも包み隠さずに描いてあります。大島さんの性の目覚めから、AV体験、ミシェルとの出会い。そして自分に自信が持てなくて不安定になるミシェルに対して、大島さんの愛の深いこと……!
ぶつかって泣いて、もうダメだと思って、でも結局ミシェルのことを離さないんです。なんだこれ少女マンガの恋愛ストーリーかよ! 大島さんのサプライズもめっちゃかっこいいし!

 

恋愛が終わりかけたとき、もしくは終わった恋なのに、相手が恋しくて切なくて元に戻りたいと思うことってありますよね。
震えはしないかもしれないけど、会いたくて会いたくて、その人のことばかり考えちゃうことって。
でもそれって「相手に価値があるから」じゃないと思うんです。ユーミンの歌にもあったけど、恋しいのは、盛り上がってた頃の関係なんですよ。今の2人じゃない。

だから懐かしがって立ち止まったって無駄なんだって思ってました。

 

でも大島さんは、どんなに2人の仲が辛かろうが、終わりかけようが、ミシェルを離さないんです。そうするうちに、人の愛情を信じられないミシェルが、だんだんと心を開いていって、大島さんに信頼を寄せるようになっていきます。

 

……こんな関係もあるんだ! ともすれば「振り回されるだけで徒労に終わった」って思うだけだったかもしれないのに、諦めずに相手に尽くすことで、相手の心を変えてしまうことが出来るんだ!

 

うそだ〜と思って、何度も読み返してしまった。 和久井は今まで「これ以上がんばれないな」と思うところまでやったと思ってたけど、もしかしたらまだまだだったのかしら……? 

「相手にいいように利用されるのはごめんだ」なんて損得を考えないで、ずっと愛情を注ぎ続けるべきだった?
いやいや、今までは自分を損なってまで関係を続けたい相手じゃなかっただけ?
「この人」と思える相手が現れたら、自然とそうなるものなのかしら?

 

でも恋愛だけじゃないけど、人生の中で「わからない」ことってストレスですよね。
この先どうなるかわからないのに、何もかも捨てて相手に尽くすとか、恐すぎでしょ!
ガツガツ勉強すれば合格率が高くなる受験とは違うんだし。

……いや、待てよ? そういえば周りにも、ひたすら相手の横暴に耐えた末に結婚して幸せ(そう)な家庭を築いている人もいるな。やっぱり努力をすれば確率が上がるのかしら? 

その夫は妻に対して「苦労させたけどついてきてくれた」なんて感謝してたな。嵐の後に平穏が訪れたら、さぞかし幸せそうだよな。

 

これがストーリーマンガだったら「はいはい、大変だったけどよかったね」って、いつものように冷静でいられるんです。でもこれ、エッセイなんですよね、多少の誇張やツクリはあるとしても、ホントの話なんですよね。心を動かされずにはいられません。

 

次に恋が終わりそうになったら、もう少し踏ん張ってみようかなあ(終わりそうになる前提だけど)……そうしたら、違う結果が待ってるのかしら?
「もう顔も見たくないわー」って思うまで続けたら、何か見えてくるものがあるのかしら? 
うーんうーん。

 

しかもですよ、マンガを読み終えて、ウルウルしながら「あとがき」を読むと、そこにまた驚愕の事実が語られてるんです。マンガの前提を全部ちゃぶ台ごとひっくり返すような。

なんてことだ!

ますます2人の今後から目が離せなくなったじゃないか!

 

そして、あー……、恋愛に対する考え方を根底からひっくり返されて、いったいこれからどうすりゃいいのかな。

 

男の娘どうし恋愛中。
著者:大島 薫
出版社:宝島社
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