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二股は悪いことじゃない、と全力で思える魔力――『A子さんの恋人』。
A子さんの恋人 4巻 (ハルタコミックス)
著者:近藤 聡乃
出版社:KADOKAWA
販売日:2017-09-15
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29歳、独身、ニューヨーク帰り、二股中。

A子さんは29歳の漫画家。3年間滞在したニューヨークから日本に帰って来て数か月。恋人は、事実上の二股をかけてしまっている状態で、東京のA太郎とニューヨークのA君。

スペックだけ書いてみると、ちょっとびっくりするくらい嫌な女である。

しかもA太郎は人気者の好青年。一方、ニューヨークのA君も、A太郎に負けずと、インテリでおしゃれ。他の女から言い寄られたりしていることから、そこそこモテる人物であることが推測される。

それなのに、A子さんはどっちも選べずにいる。A太郎とは、別れようとして失敗した過去がある。というかA子さんは完全にA太郎を元カレ扱いしているのだけれど、A太郎はまだA子さんのことを追いかけつづけている。ニューヨークに住むアメリカ人のA君とは遠距離ながら、まぁまぁ良好な関係を築いている。

さらに状況を並べてみると、ますます嫌な女だ。優柔不断で、2人もの男性の好意をまっすぐに受け止めない。そしてさらに、過去のエピソードを参照すると、どうやら絵描きとしての才能はあるらしい。

ニューヨークと東京の男で二股する女(美大卒)が主人公の漫画だなんて、置かれたピースひとつひとつは、90年代のトレンディドラマのようだ。けれど、不思議と古臭いところは一つもない。むしろ新しい。そして多くの人がすでに書いているように、2010年代のリアルそのものだ。会話の一つ一つがきらめていて、まるで箴言集を読んでいるかのような気持ちになる。その台詞の冴えっぷりだけでも、私は本作をおすすめしたい。キャラクターが嘘をつかないから、彼らの言葉は純度100パーセントだ。いちいちうなずきながら読み進めるので、とても時間がかかる。

嫌味な女が嫌いになれないたった一つの理由

話をもとに戻すが、嫌味な二股女であるところのA子さんのことを、実は読者である私はこれっぽっちも嫌な女だなんて思ったことがない。それどころか、4巻では、A子さんに共感しすぎて、号泣する始末だ。

A太郎がA子さんにかけた言葉をA子さんは反芻する。

「なんで僕がえいこちゃんのこと好きなのか教えてあげよう。君は僕のことあまり好きじゃないからだよ」

そして彼女は思うのだ。

「…では もし とても好きになったら もう好きではいてくれないのですか?」

A太郎が、そんなことを本気で考えているわけではないと信じたい。だって、こんなに強い呪いの言葉があるだろうか。自分が好きになったら、そのときは好きでいてもらうことができないなんて。現実創作問わず、これまでに聞いたことのある「恋人が好きな理由」のなかで、トップクラスに悪質だ。

でも一方で、このA太郎の言葉は、<好く・好かれる>の関係の真理をついているところがまた残酷だ。いつだって恋愛は、どちらか片方が重くなってしまう。そして自分のことをあまり好きじゃない人のことのほうが好きだ/気になる、という気持ちは、きっと誰にだって覚えがあるだろう。この切なさと罪悪感といったら…! 心を揺さぶられたい女性に、ぜひ読んで体験していただきたいのである。

近藤聡乃の描く、2010年代的恋愛の真実。

4巻を数え、いよいよクライマックスへと向かう本作がますます見逃せないのは、作中の3人の未来が、自分の想像を超えて、2010年代の恋愛(もしかして結婚)の真実を教えてくれる、という気がするから。

A君派が多数を占めることは想像に難くないけれど、A太郎押しの私は、ひっそりと、A太郎とA子さんが幸せになる結末を待っている。一方で、A子さんが素敵な景色を見た時は「A君と見たいな」とも思っているのも忘れてはならない。今後は、A太郎といるとちょっと激しくなる自分の感情を避けたくて、穏やかでいられるA君との関係を望んでいるのかもしれない。

A子さん、一体どっちとくっつくの?

とにかく読者としては、近藤聡乃が描くこの先の<真実>がただ知りたいのである。