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直球しか投げなかった男・土田世紀『編集王』

※この記事は2014年07月24日にマンガHONZ(運営:株式会社マンガ新聞)にて掲載した記事の転載になります。
レビュアー:佐渡島 庸平

 

編集王(1) (ビッグコミックス)
作者:土田世紀
出版社:小学館
発売日:1994-05-30
  • Amazon Kindle

 

なんて悲しいマンガなのだろう。
なんて切ないマンガなのだろう。

 

20年ぶりに土田世紀の『編集王』を読み直した。昔は熱いマンガだと思っていた。熱い生き様の男を、ハイテンションで描いたマンガだと。

 

土田世紀という男の生き様と合わせて読むと、とても切なくなった。

 

土田世紀は、2012年4月に43歳という若さで亡くなった。

 

アルコールから抜け出せない生活で、アルコールのせいで死んだ。晩年は金銭的余裕もなく、出版社から献本された本を中古書店に売り、それでお酒を飲むこともあったと聞いている。

 

『編集王』の中には、マンボ好塚というアルコール中毒の漫画家が出てくる。そして、そのマンボ好塚は、アルコール中毒のせいで人間関係を失い、死んでいく。20代の土田世紀は、どんな気持ちでそのシーンを描いていたのだろう。まるで将来の自分自身を描いたようだ。

 

僕は『編集王』を読みながら、一度も会ったことのなかった土田さんに話しかけたくなる。

 

「自分に呪いをかけちゃだめだよ、土田さん。土田さんが信じてるように、マンガには力がある。力があるからこそ、呪いをかけちゃだめなんだ」

 

土田世紀を野球に喩えると、直球しか投げないピッチャーだ。しかも、ストライクだけに投げて、それで三振を奪ってこそ、本物のピッチャーだと考えている感じだ。球はするどい。でも、その球だけではな生き抜けない。

 

周りにいる人たちは、その不器用すぎる生き方からどうやれば土田さんを救えるのか、わからなかったことだろう。土田さん自身も、自分の不器用さからの抜け出し方がわからなくて、苦しんでいたのだと思う。

 

僕は、土田さんが、なぜ『夜回り先生』を描いたのか、読者として疑問に思っていた。でも、『編集王』を読み直した今はわかる。土田さんこそが、そんな人に出会って救ってほしかったのだ。救ってほしくて、描いたマンガだったのだ。

 

編集王の最後にこんな台詞を、マンボ好塚が言う。

 

マンガを描く事で…

僕は自分を治療しているだけなんですよ

 

自分の事を勘定にいれないで

描ける漫画家なんて居るんでしょうかね? 

 

この台詞のあと、マンボ好塚は、マンガの神様と出会ってこんな会話をする。

 

たましいは……

肉体とも感情とも別の……

僕等の気付かない所にあって……

試練の時にのみ、反応し、成長するものだと思います。

 

僕の事を競争心の強い子供じみた作家だという人が居ますが、互いの自己陶酔を競い合ったって何にもならない。

たましいを、下げないように…

その事だけを…

僕は競いたいのです……

 

競いましょう、マンボさん。

あなたにはその資格があるのだから。 

 

土田世紀が亡くなったあと、大きな特集などがされたのを見た記憶がない。でも、死後2年たった今、京都国際マンガミュージアムで、『土田世紀原画展』と銘打って、18000枚もの原画が展示されているそうだ。

 

僕は、この夏、京都へ行って、土田世紀のたましいに触れてこようと思う。

 

7月27日、今週末には、土田世紀のたましいに触れて、影響を受けた漫画家たち、松本大洋、新井英樹、すぎむらしんいちによるトークショーも行われるようである。

 

土田世紀は他にも傑作を残している。

 

俺節(1) (ビッグコミックス)
作者:土田世紀
出版社:小学館
発売日:1991-08-30
  • Amazon Kindle

同じ月を見ている(1) (ヤングサンデーコミックス)
作者:土田世紀
出版社:小学館
発売日:1998-10-05
  • Amazon Kindle

夜回り先生(1)
作者:水谷修
出版社:小学館
発売日:2005-09-30
  • Amazon Kindle