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身体に流れる血が、あなたを求める。『にえるち』異母兄妹、禁断の愛。

カバー裏の真っ赤な表紙に気づいた時、ドキッとした。 この赤色は、「セラ」と「ルミナ」の身体に流れる、煮えたぎるような血液。相手を想う、内に秘めた静かに燃える熱の色なのだと。

 

にえるち (FEEL COMICS)
著者:のばらあいこ 出版社:祥伝社 販売日:2015-01-23
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のばらあいこが描く、渾身の近親相姦。父の浮気により、異なる母から生まれた兄と妹の、歪な10年越しの愛。 今回紹介する『にえるち』は、あくまでフィクションで、異常で、けれどどこか現実味が色濃い一作となっている。

 

 

物語は「セラ」と「ルミナ」の幼少期から始まる。

本妻で物書きのルミナの母と、セラの母。ふたりが机の上にある、一枚の写真を見て談笑している。

その写真には、生まれたばかりの子どもたちを抱える母たちの姿。そこにコーヒーを淹れにきた、父「ジョージくん」。

 

「ハナちゃん 濃いいのばっかだと胃に悪いから ミルク足したよ」

「マリエさんはミルクも砂糖も 入れてよかったよね」

 

「…んもー 牛乳キライっつってんのに~」

「ふふふ ジョージくんも 変わらないね昔から

 優しい」

 

ひとつの家に、浮気男・本妻・浮気相手の三人が集う。

その冒頭から、この物語の異常性が垣間見えるのだ。

 

一方二人の子どもは近所のコンビニ帰りに、”自分たち”の会話を繰り広げていた。

 

「…こんな風にこのへん歩かない方がいいと思う」

「なんで?」

「ルミナのクラスの子に見られるだろ」

「見られてもいくない?あたしはいーーよ」

 

「……はずかしい…

 ぼくは 自分がはずかしい」

 

親は、オトナなので平然と会話をしている。

金銭面的な折り合いもつけ、あったことを受け止め、生活している。

そんな親から離れたところで、聡く賢い「セラ」は自分の出自を恥じている。

 

子どもながらに持ち得た理性、知ったジョーシキが自分たちの関係をヘンだと言う。「セラ」の言葉に、「ルミナ」は「ヘンでもいーじゃん」と、小学生の子どもらしい、どこまでも無垢で、素直で、まっすぐな言葉を投げかける。

 

「セラは 一緒にいるとはずかしいから あたしのこときらいなの?」

「ルミナは ルミナのことだけは

 きらいじゃないよ ぜんぜん きらいじゃない」

 

衝撃的な幼少期から幕を上げた『にえるち』。

「ルミナのことだけはきらいじゃない」。セラの台詞には、「ルミナ」以外の全てへの拒絶が表れている。

異常な関係性の親を受け入れず、自分を受け入れず、半分だけおなじ血が流れる妹の手をつなぐ。

自分と同じ存在への安心感か、自分を認めてくれる唯一の存在への執着か、それとも純粋な愛か。

 

どこに分別すればいいのかわからない感情が、「家族」「愛」「外界」の、あらゆる面から巧みに描かれた『にえるち』を読んで、私が思ったことは思春期に抱く感情の複雑さだ。

大人になると、”好意”には、さまざまな”理由”がつきまとってくる。

 

好き、にも様々な種類があるが、年をとるたびに、ただただ純粋な”好き”は減ってくるように感じる。

たとえば「この人だったら結婚してもいい」だとか、「こいつといれば周りからの評価が上がる」だとか。悲しいことに、こんな話をよく聞くようになる。

けれど周りの目も気にならず、ただ目の前にいる人にだけ自分を理解してもらいたい、受け入れてほしい。

…と思うような、年頃のがむしゃらな愛があるとして。それをその年で「愛」だと客観視できるのは何割なのだろうか。

 

高校生になったルミナのもとには、週に一度、木曜日の夜にだけ塾をさぼってセラが”寝にくる”ようになっていた。

布団の中で手をつなぐと、ルミナの手は満足げに溶けてしまう。

 

「家族」ってなに?

一緒に暮らすこと?

「夫婦」じゃなければ「血のつながり」?

あたしがセラと手をつないでねむるたび

ドキドキしてとろけそうになるのは何だろう

 

すべてがはじめてのことで、けれど相手は半分同じ血の流れる兄で。

自分が抱く感情が、兄、家族に対してのものなのか、男、好きな人に対するものなのかがわからない、ルミナの葛藤。

 

同じような気持ちで、互いが互いを求めるままに、越えようとした一線。

 

「セラもあたしも やっぱりヘンだね

 ああほら どくどくいってるでしょ

 同じ血が流れてるんだよ

 血が 煮えたぎるのがわかる」

 

触れた箇所から伝わる熱に、全身を流れる血が躍動する感覚。

結ばれるのかと思ったのもつかの間、このあと物語は二転三転していく。

 

『にえるち』は全1巻。

ボリューム的にはさらっと読めて、内容的にはずっしりと重い作品です。

 

ぜひ気になる方は読んでみてください。

ひとつの「愛」の形が、この本の中には描かれています。

 

にえるち (FEEL COMICS)
著者:のばらあいこ 出版社:祥伝社 販売日:2015-01-23
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