TOP > マンガ新聞レビュー部 > 大人向け「自転車マンガ」というジャンル『のりりん』

「自転車マンガ」というジャンル
マンガにはさまざまなジャンルが存在するが、その中に「自転車マンガ」とよばれる類のものがあるのをご存じだろうか。
その多くは、ある機会にロードバイクの存在を知った主人公が、その世界にのめり込み、ついにはレースなどでその才能を発揮し、ライバルを蹴散らす・・・といった内容だ。「Over Drive」や「弱虫ペダル」などはまさにその典型と言える。
しかし、多くの方にとってそうであるように、自転車とはレースをするためのものだけではない。エコで原始的な移動手段として我々の生活の中に溶け込んでいるものだ。
今回はそんな、日常生活における自転車の良さを再認識させてくれる一冊を紹介したい。
大人向け自転車マンガ『のりりん』
地元の中小企業に勤める丸子 一典(まりこ かずのり)が主人公。もともとクルマ好きだった丸子は、ロードバイク乗りの女子高生、織田 輪(おだ りん)をあやうく轢いてしまいそうになり、それがきっかけで免許取り消しになってしまう。
移動手段にマイカーを使っていた丸子は、過去の失恋もあって自転車を嫌っていたが、背に腹は代えられず、渋々ロードバイクを通勤に使うことに。次第にロードバイクの魅力に気付いていき、休日にもロードバイクを楽しむようになる・・・。
とこんな具合の内容なのだが、他の自転車マンガと異なる点は、サラリーマンの主人公(なぜかモテる)がすぐにレースで活躍するのではなく、社会人同士が集まってツーリングの楽しさを描いているところだ。
『のりりん』というのは、「乗りなよ」という言葉の博多弁と、主人公の「かずのり」と「りん」を組み合わせたタイトルだと思われるが、このタイトルからも想像できる通り、このマンガは決してハードスポーツを描いたものではない。
もっと速くなりたいからという理由で乗っている人もいるが、ツーリング仲間の多くは、好きな人が一緒だから、みんなでワイワイ騒ぐのが好きだから、自転車好きを増やしたいから、そんな思い思いの理由で参加し、ロードバイクの楽しさを味わっていく。
物語のピークはまだまだ先にあるように思えるが、読み進めていけば徐々にその高揚感を味わうことが出来るだろう。
作者・鬼頭 莫宏氏の描画の特徴でもある線の細さが、そんな爽やかで朗らかな光景を丁寧に表現している。
作者の代表作である『ぼくらの』は仄暗い内容だが、本作は「もっとロードバイクの良さを知ってほしい」という祈りのようにも感じられる。
ロードバイク初心者がつまずきやすいポイントを解説したり、ライダーがもっと受け入れられるように「どうしたら社会とライダーが歩み寄れるのか」といった論点を紹介しているなど、ロードバイクへの作者の愛情が随所に表れているのだ。
ロードバイクは高くて手を出そうか迷っているという方は、まずはマンガから入ってみてはいかがだろうか。きっとその一カ月後にはロードバイクを購入してしまっていることだろう。
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