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『潜熱』触れた指先は熱くない「ハズ」だった…。自分で抑制できない、反射的な恋。
女性なら誰しも一度は「年上の魅力」に翻弄されたことはないだろうか。かくいう私も15歳以上離れた相手と付き合ったことがある。外で手を繋いで歩くとき、周囲の人にどう見られているのかを考えていた。
 
「親子?兄妹?恋人―…だとしたら年離れすぎだろ、あの男やるなあ」だなんて思われているかも、だとか一人で勝手にドキドキしながら上の空になっていると、骨張った手に力強く引っ張られる。
自分に向ける熱っぽい視線や声はとても魅力的で、人は本能に抗えない、と感じてしまったものだ。
 
野田彩子先生が描く漫画『潜熱』は、一言でいえば異常な日常を切り取った、ヤクザ×女子大生の物語。

 

大学一年生の夏休み、主人公・瑠璃は生まれて初めてコンビニのアルバイトを始めた。そのバイト先に現れた「6ミリ2つ」のタバコの男・逆瀬川-ノセガワ-。
全身スーツ、暴力もふるう、なのに笑うと可愛い。逆瀬川は、いつも買っていくお決まりの銘柄を覚えた瑠璃を「偉い偉い。」と褒める。
 
これは私の主観だが、主人公はありきたりな「ギャップ萌え」に落ちたわけではない。女子高育ちで平凡な生活を送ってきた世界に、これまでなかった“非”日常的な存在が現れる。それはまるで白馬の王子様さながら、違う世界に連れていかれるかもしれない期待感と、近づいてはいけないと鳴り響く警鐘からの倒錯に酔い、呑み込まれ、抜け出せなくなったのだと思う。
 
『潜熱』作中には印象的なシーンがいくつかある。その中でも上記の感想を抱くに至ったシーンを紹介したい。
雨の日に、男の車に乗った瑠璃。初めて知った互いの名前と、差し出された人生初のタバコ。
 
外界から切り離された閉鎖空間の中で、咄嗟に腕に落としてしまったタバコの先端に、
思わず漏れた「あつっ。」の台詞。

タバコには、まだ火はついていなかったというのに。

(c)野田彩子/小学館

その出来事に対して、逆瀬川はこう問いかける。

(c)野田彩子/小学館
(c)野田彩子/小学館

人は時に思い込みで、普段熱いものに触れると、実は熱くなかったとしても「熱い」と口にしてしまったりする。

頭で考えるよりも先に身体が、心が、反射的な反応を示してしまうのだ。このシーンはまさに、そんな瑠璃の気持ちを描いたシーンなのではないだろうか。

だめだと思っていても、止められない。どう足掻いても惹かれてしまう。

逆瀬川の言葉に、仕草に、行動に。一度燃え上がった熱はどこまでも淡々と続き、やがて相手に転移する。
『潜熱』はじわじわと心に染み込んでくるような物語が読みたい人には、ぜひ読んでほしい作品だ。

 

ここからは余談だが、私はこの物語の面白さは、主人公・瑠璃が自分の恋に気付いたところから始まると思っている。冒頭でも述べたように、年頃の女が年上の男性に焦がれることは比較的普通のことであり、よくある日常の一部だ。

 

ではこの物語の一番の“異常”とは、何か。
それは相手の男、逆瀬川の性的嗜好にある。

 

普通のまともな大人であれば、女子大生に好意を寄せられても応えないだろう。
しかし逆瀬川は、タバコを差し出し、わざと傷つけ、気をもたせる。
作中ではそれを「惑わす」と表現している。

 

『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん/小学館)や『これは恋のはなし』(チカ/講談社)のように、年の差恋愛を描いた作品は数あれど、娘でもおかしくない年代の女を、こんなにも性的な目で見ているシーンを露骨に描く作品はなかなか無い。

 

生々しくもどこか現実離れした恋愛観は、必ず読む人を魅了する。ネタバレになるので、今後2人がどんな関係になっていくかは書かないが、あなたがどこかの書店で青色の表紙を見かけたら、どうか一度、手に取ってみてほしい。

 

また、同じくヤクザを題材に恋愛(?)ものを描いた作品がアフタヌーンで連載中。

漫画『来世は他人がいい』もおすすめなのであわせてどうぞ。

 

駒村(@koma_ja

 

 

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