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モチベーションを失いかけた全ての仕事人の胸に突き刺さる東村アキコの自伝マンガ『かくかくしかじか』

才能って、なんだろう。

才能というのは、努力を続けられることだ。というような話はよく聞くが、強いモチベーションさえあれば、努力だってゲームのように楽しめるし、そんなに難しいことではない。ただ難しいのは、そのモチベーションを保つことだ。

 

コピーライターという仕事を20年以上続けている私も、日々自分のモチベーションの低さに悩まされる。

目の前に美味しいものや楽しい人たちや「ポケモンGO!」があるのに、なんでこの仕事そんなに頑張らなきゃいけないんだっけ?  という気持ちにすぐなるし、最近などはコロナショックの非日常感の中にいると、特に3密(密閉・密集・密接)と関係ない職業なのに、なんだか仕事しなくてもいいような気がしてしまう。

 

そんなとき、思い出すのがこの『かくかくしかじか』(全5巻)だ。『東京タラレバ娘』や『海月姫』の東村アキコが、美大に入り、マンガ家になって成功するまでの時期について描いた自伝マンガである。

 

これが実話⁉パワハラ先生との壮絶な師弟関係

主人公・アキコ(若き日の東村氏)は、マンガ家になる夢を抱きながらも、俗物的で調子に乗りやすく、放っておくとすぐにサボり、場合によっては嘘ついて逃げたりもする、まあそのへんによくいる普通の女の子として描かれているのだが、なぜそんな彼女が美大に合格し、マンガ家として成功できたのか。

そこには実はとんでもなく個性的な「先生」の存在があった。

 

この先生が相当ヤバイ。

竹刀を持ち、ジャージを着て、自身の絵画教室に集まる生徒たちには、パワハラまがいなスパルタ教育をする。

竹刀でバンバン生徒を叩いたり、精神的DVとも言えるような暴言を吐いたり、石を巻いてヤンキーを追い払うという衝撃的なエピソードも描かれている。

 

一方、アキコがお腹を壊した(と嘘をついた)ときや、受験に落ちたときには、優しくまっすぐな一面も見せ、生徒からはなぜかすごく慕われている。

まあ、まるで昭和のヤンキーマンガに出てくる熱血先生みたいなキャラクターで、とても実在の人物とは思えないのだが、意外にもこれは完全なるノンフィクションだという。

 

あるある話てんこ盛りな東村アキコの「マンガ道」

そうした師弟物語でありながら、このマンガはまた、東村氏の「マンガ道」、いや「ものづくり道」ともいうべきものにもなっている。

彼女の体験に裏付けられているから、説得力がものすごく、ものづくりに関わる人間ならグサグサくるようなエピソードがてんこ盛りなのである。

 

『ぶ〜け』を愛し、『ぶ〜け』からデビューしたアキコは、吉野朔実先生や岩館真理子先生のような繊細で文学的な話が描きたくて、しかしそうした話はなんどもボツをくらってしまう。

その一方で、自身の体験を素直に綴ったマンガはおもしろいといわれるなど、少女マンガ好きとしても、クリエイターとしても、「わかるわかるー!」「あるあるあるあるー!!」と叫びたくなるようなエピソードばかりだ。

 

そして、最も重要なテーマは、冒頭にも書いた、才能とモチベーションの関係かもしれない。

 

美大受験の前はあんなに毎日絵を描いていられたのに、無事に合格して金沢の美大に入ったアキコは、大学の課題も、マンガ家になる準備も、ろくにしないまま4年間を終えてしまう。

 

描きたいものがない。

テーマが見つからない。

自画像なんてダサい気がするし。

そんなモヤモヤした毎日のなか、目の前には、飲み会や女子友やイケメンの彼氏がいるわけだから、それはもう仕方がない。

 

そんなアキコや教室の生徒たちに、先生が投げかける言葉は、いつもシンプルだ。

とりわけ病気になった先生が、ある生徒に耳打ちする言葉が胸に突き刺さるのだが、それはぜひ実際に読んでみて欲しい。

 

これはものづくりを担う方々に、夢を追う若者に、すべての仕事する人たちに、そしてあれこれ言い訳しながらサボることの多い自分自身にも時々読ませたい、ものづくり道の傑作だと思う。

 

 

 

試し読みはこちらから

 

 

かくかくしかじか 1 (愛蔵版コミックス)
無料試し読み
著者:東村 アキコ
出版社:集英社
販売日:2012-07-25