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苦しいときこそ勝負師に学べ!将棋に命を賭けた者たちのドラマ『月下の棋士』

人生には、生涯何度か全てを注ぎ込むべき“勝負どき”がある。

昔見ていた極道モノや格闘技モノで、そんなセリフが放たれ、主人公たちは、今がその時!と決意を新たにしていたもの。

 

残念ながらここまでぼくはそんな時に出会っていない(苦笑)。

 

でも、腹を決めなきゃいけないことは大小常に起きていて、その決断が、先々を作っていることは、段々わかってきた。

 

目に見えない“勝負どき”は、そのとき気付かなければ後々にならないとわからない。

でも、目の前に“勝負どき”がはっきりと提示される職業がある。

プロ棋士だ。

その一局に棋士生命だけではなく生活まで賭けている人がいる、不可侵の職業。

 

昨今、若手のプロ棋士が誕生して記録を打ち立てたり、マンガが映像化や映画化されたりして、将棋に興味を持つ方が増えたように思う。

 

将棋が題材の作品と言えば『3月のライオン』や『ハチワンダイバー』が定番かもしれないが、ぼくはあえて『月下の棋士』を推したい。

※ちなみに『月下の棋士』は20年前にドラマ化している。主人公・氷室将介を演じたのはV6・森田剛。

 

「将棋しかない」男たちが、文字通り命を賭けて戦い合う、盤上の死闘。

ときに血を吐き、ときに命を落とす。

 

異次元スポーツマンガのような展開がありつつも、どこか普遍的で“勝負どき”を教えてくれている気がするからだ。

 

 

月下の棋士(1) (ビッグコミックス)
著者:能條純一
出版社:小学館
販売日:1993-09-30

伝説の棋士の孫が、名人を目指す人間ドラマ

伝説の棋士・御神三吉を祖父にもつ主人公・氷室将介。

“初手端歩”という常識外れの打ち手と、圧倒的な集中力で勝ち続ける、まさしく将棋界の金田一少年。

 

大局中は基本的に帽子を被り、勝負どころではツバを後ろに回すという“お約束”があった(やらなかったことも多々あったが……)。

 

氷室が目指すは名人・滝川幸次。

自ら神に選ばれた人間と称し、赤信号のなか道路を横断し、それを確認するという感覚が異常な男。

二人はお互いを生涯のライバルと思い、意識し合う。

 

数多の戦いを経て、(非公式な形で)二人はようやく対局を果たすのだが……。

 

実はこの対戦で、氷室は“勝負どき”を誤ってしまう。

誰が見ても勝ちが見えた場面で、氷室は場の雰囲気にのまれてしまうのだ。

 

名人が発し続けた異様な空気感。

お互いが死力を尽くしたがゆえの、二人にしか判らないこだわり。

 

その場にいた者ですら理解しがたい状況のなか、まるで月が闇に隠れるかのように、氷室は願っていた瞬間を逃してしまう。

 

運命の対戦の悔しすぎるツケ。

氷室は長期間公式戦を勝ち上がることで清算しなければならなかった。

 

滝川との再戦が、お互い(内側が)ボロボロの中で行われたのが印象深い。

 

 

次の“勝負どき”は、いつか訪れる。

でもそれは、その“勝負どき”で死力を尽くしたからこそ現れる。

 

人生100年時代といわれ、ライフスタイルの変化やセカンドライフの重要性がうたわれている。

 

人生が長くなってきたからこそ、“勝負どき”で全てをぶつけられる人こそが、その先で輝けることを、このマンガは教えてくれるのだ。

 

 

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