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人類存亡の危機を資金力で逃れた資本家が直面する「カネが無価値な世界」での生存戦略『望郷太郎』

この地球上で人類はいつまで生存できるのだろうか。

テクノロジーや医療技術は私たちに長寿の可能性を切りひらいた。乳幼児死亡率は下がり、平均寿命は100歳に迫ろうとしている。 

 

しかし、それらは高度な技術が活用可能なインフラに支えられた砂上の楼閣かもしれない。その楼閣の最も高いところで生きる貨幣経済の強者は、地球を飲み込んだ大寒波の危機をも乗り越える。 

 

数百億の研究費を投じた「冬眠装置」によって、500年の時を超えた人間がイラク共和国・バスラ市にいた。

長き眠りから覚めた主人公・舞鶴太郎が最初に選択した行動が自死だ。

シェルターから目覚めた太郎の横には、200年前に息絶えた息子、300年前に永久の眠りについた妻の姿があったからだ。 

 

自分だけが生きて目覚めたとき、太郎には生き甲斐も何も感じられなかった。 

 

一緒に眠ったまま死にたかった・・・ 

 

そのとき脳裏に浮かんだのは、500年前に中学入学のため東京の父親の家に預けていた長女の存在だ。むろん、本人が生きているはずはないのだが、それでも太郎がシェルターの外の世界を見てみるには十分な理由になったのかもしれない。 

 

巨大なビルの屋上からの眺望、太郎の視線にあるものは大寒波の爪痕激しく、廃墟と化した都市であった。 

 

生き甲斐のない人生となり、誰を恨めばよいもわからない思考の先に太郎が見つけたのが、せめて家族たちのその後を知ろうとする思考であった。 

 

人間がひとりも視界に入らない世界において、必要最低限の荷物を持って徒歩で日本に向かう。

その第一歩を踏み出そうとしたとき、太郎が想起したのは「人より金」を選んだ人生の一幕であった。 

 

今は人より金だ。金というものには自らが勝手に増えようとする性質がある。だから資産を是が非でも保ってさえいれば・・・必ず会社は成長に転じる。現状を保たねばならない圧に苦しむなら、人より金に頼るべきだ 

 

たったひとりで歩き続ける太郎も命が絶えかけ、ぼろぼろの姿で雪深い大地に倒れ目を閉じる。それを救ったのはどこの民族か見当もつかず、何を話しているのかまったくわからない言語を使う男性と男児。 

 

貨幣という紙は無価値になり、資本主義経済のなかで培った経験も知識も生きることにまったく役に立たない。原始社会に戻ったような生活において、生かされるだけの日常に自尊心が削られ、尊厳は踏み躙られていく。 

 

狩猟採集的な社会において、私たちがいま生きている世界で学び、獲得したスキルの価値はまったくないのか。それとも必要知への転換利用することで人は人として前に進んでいくことができるのだろうか。 

 

日々、ノルマや納期に追われることもなく、人事や税金に悩むことのない生活のなかで、人が生きるに足る理由を見つける旅を通じて、『望郷太郎』は私たちに「いまを考える」機会を与えてくれる。 

 

 

 

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著者:山田 芳裕
出版社:講談社
販売日:2019-12-23