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自分のなかの傷とどう生きていく?よしながふみ『西洋骨董洋菓子店』

よしながふみの初期にして集大成?

よしながふみが好きだ。

セリフのおもしろさ、食べ物に関する造詣の深さ、魅力的なキャラクター、骨太なテーマ。そのすべてが凝縮された作品が、この『西洋骨董洋菓子店』(全4巻)である。

 

もう20年も前の作品なのだが、その後『きのう何食べた?』『大奥』などで発揮される才能のすべてが、もうこの時期にすべて出そろっている。

 

上記の要素に加えて、恋愛ストーリー(もちろんBL)、複雑な人間模様、BLだからこそあぶり出されるジェンダーギャップ、その根底を流れる眼差しのやさしさ。

初期の作品なのに、すでによしながふみの集大成的な作品なのである。

 

ドラマ化、アニメ化もされていて、どちらも見ていないけれど、なるほど、連続ドラマにはうってつけの要素がそろっている。

イケメン、恋愛、サスペンス、華やかなケーキ、そしてたくさんの小さなエピソードと、全体を貫く大きなストーリーだ。

 

4種類のイケメンがそろうホストクラブみたいな洋菓子店

天才パティシエで魔性のゲイ・小野。元ボクサーで無類のスイーツ好きなパティシエ見習い・エイジ。

すべての面で恐ろしく能力が低いが、容姿の美しさと心根の優しさだけは突出しているギャルソン・千景。

そして大金持ちの御曹司で、なにをやっても出来はいいけれど、甘いものは大嫌いなオーナー・圭一郎。

 

4人全員がタイプの違うイケメンという、ホストクラブのような洋菓子店「アンティーク」。深夜2時半まで開いていて、サービスは貴重なアンティーク食器で提供され、パティシエ小野のつくる洋菓子は、一口食べれば身悶えするほど美味しい。

こんな洋菓子店が近所にあったら、きっと毎日のように通いたくなるだろう。

 

このケーキ屋を舞台に、さまざまな客や4人の関係者が登場し、ときにはディープな、ときには感動的なエピソードをはさみながらも、物語は楽しく進行していくのだが、全体を貫いているのは、ひとつの大きな謎である。

 

なぜ圭一郎は、ケーキが(幼い頃、お誕生会の最中にトイレで吐くほど)大嫌いなのに、洋菓子店を開いたのだろうか。

 

また、パティシエ小野と圭一郎の関係は入り組んでいて、実は高校の同級生。しかも当時、告白してきた小野に、圭一郎は

「ゲロしそーに気持ちわりーよ 早く死ね!! このホモ !!」

と、心ない言葉を投げかけてしまった過去がある(物語はこの衝撃的なエピソードから始まる)。

 

久しぶりに再会した小野が天才パティシエになっていたからといって、そんな過去への気まずい思いを抱きながらも、なぜ圭一郎は小野をパティシエに迎えてまで「美味いケーキ屋にしよう」と、思ったのだろうか。そもそも、なぜ当時小野に、あんなにもひどい言葉を投げかけたのだろうか。

 

その謎は、圭一郎が幼い頃に起こった誘拐事件に起因しているのだが、毎回起こる様々なエピソードの中で、少しずつ、少しずつ解き明かされていく。

ラストの4巻目では、それまで張り巡らされていた伏線が、ものすごい勢いで回収され、物語は急速にサスペンスドラマになっていくのである。

 

子どもの頃に植え付けられた「傷」とどう生きていくか

そのサスペンスの展開のおもしろさも素晴らしいのだが、やっぱり何度もこの物語を読んでしまうのは、奥深いテーマ設定のせいだと思う。

 

圭一郎のストーリーといい、小野のストーリーといい、エイジのストーリーといい、これは子どもの頃に無意識の領域に植え付けられてしまった「傷」や「恐怖」を描く話かもしれない。

 

どんなに才能があっても、どんなに恵まれているように見えても、人の中にはその人にしかわからない傷がある。その傷とどう戦い、どう共存しながら生きていくか。

非日常的なBLストーリーのようで、誰の心にも刺さるような、そんな深いテーマが描かれている。

 

よしながふみは好き嫌いの分かれる作家かもしれないが、この時代に漫画読みとして生まれたなら、この作品はぜひとも読んでほしい傑作だと思う。

BLシーンはそんなにどぎつくはないし、何か問題があるとしたら、セリフ量が多すぎて、疲れているときには読みづらいということ、そして無性にケーキが食べたくなってしまうことくらいか。

 

ま、それもまた、よしながふみの醍醐味なんだけど。

 

 

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西洋骨董洋菓子店 (1) (ウィングス・コミックス)
著者:よしなが ふみ
出版社:新書館
販売日:2000-06-25