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祝『さんかく窓の外側は夜』映画化!極上のブロマンスとミステリーで知る言葉の怖さ

 名作の多いヤマシタトモコ先生ですが、「そういえばアニメ含めてほかの媒体への展開はあまりないなー」と思っていました。そこで飛び込んできたのが『さんかく窓の外側は夜』の実写映画化です。極上の男性同士の絆を描くブロマンスとミステリーが、人間の言葉の持つ怖さを切々と伝えてきます。

 

人間くさい心霊ミステリー物語

 物語は「霊が視える」三角康介が、除霊師の冷川理人に出会うところからスタート。「特殊清掃業」を手掛ける冷川に引きずられながら、日常で起こる「謎」の原因を2人で(ときにほかの人を巻き込みつつ)解いていきます。

 

 ただ、「心霊現象を解決する」といっても、すごい必殺技を繰り出すわけではありません。話を聞かずに力技で消滅させるか、ひたすら相手の話を聞いて納得してもらうか――これまで細やかな人間関係を描いてきたヤマシタ先生らしく、どの心霊事件モノよりも人間臭い解決方法だと思います。

 

 同時に、心霊現象を起こす側に、なにか大きな事情があるわけでもありません。多くの場合、原因は人間の悩みだったり、他人からの恨みだったり。派手な戦いを読みたい人には期待外れかもしれませんが、代わりに「いつでもあちら側(=不可思議なことを引き起こす側)にいく可能性がある」という現実を突きつけてきます。

 

 

怖いのは霊よりも生きている人間の言葉

 物語が進むにつれ、冷川や三角の出会う心霊事件のいくつかの裏で動く組織の存在が見えてきます。しかもその事件を引き起こしているのは、自分の意思ではないにしろ、呪いの言葉を操る少女。

 

 心霊事件を解決するのが言葉なら、また事件を引き起こしているのも言葉という構図が見えてきて、徹底的に「幽霊なんかよりも生きている人間の言葉の方が怖い」と伝えてきます。

 

 人を救うのが言葉なら、人の人格を形成したり、人を追い詰めたりするのも悪意なき人の言葉です。「普通」そうにみえる三角すら、過去の親子言葉や、冷川の存在や言葉に縛られている部分があります。

 

 ヤマシタ先生がやさしいのは、こうした言葉の力にどうするかもきちんと物語の中でヒントのようなものをちりばめてくれるところ。この辺りは読み取る人によって違いますが、私が好きなのは、刑事として登場し、「信じない」力でピンチを脱出する半澤日路輝さんのセリフです。

 

 父親の犯罪で自分が加害者か被害者か揺れる女性に対し「自分を信じず、疑え 自分が善良な存在だなんて間違っても思うな」と伝えます。

 

これ、周りから影響を受けやすい人にはすごく有効な考え方。

 

「自分の力を信じよう」という昨今の風潮とは矛盾する部分はありますが、変な言葉を信じ込んで間違った道を進むぐらいなら「これを信じる自分は正しいのか」と疑うぐらいでちょうどいいと思います。

 

 

極上のブロマンスの世界へ

 なお登場人物らの関係を「BL」とするかどうかは読んだ方にお任せします。ヤマシタ先生が男性同士の恋愛も描いてきたこともあり、BLを読みなれている人には除霊のシーンなどが「そう」受け取れることもありますが、直接描いているわけではありません。そのため私は、個人的には「BL」に分類していません。

 

 代わりに何かいい言葉があるのかなー?と思っていたときに出会ったのが「ブロマンス」。

 

辞書によると「2人以上の男性同士で、性的交渉と伴わないホモソーシャルな近しく強い絆で結ばれた関係」とのことで、「brother」と「romance」を掛け合わせた言葉とのこと。

ウィキペディアによると、スケートボード雑誌の編集者が「多くの時間をスケートボードをして過ごすような関係の人たち」のことを示すために使ったようです。

海外の映画を中心に、男性同士のバディものの作品を指して使われることが多いです。(もちろん日本のドラマや映画にも最近多いですよね!)

 

 物語の中で冷川は三角を「自分にないものを埋めてくれる運命の相手」と捉え、自分に縛り付けようとします。これ、個人的に男性のコミュニティを観察してきたものからすると、ここまで直接的に言葉にしなくても「似た関係、あるある」と思います。

 

 なので、「BLでしょ?」と敬遠する方に対し「違いますよー。人間同士のつながりとか、言葉の力を考えさせる名作です」といいつつ、こっそり実写映画の演技を楽しみにしています。

 

 

ヤマシタトモコ『さんかく窓の外側は夜』第8巻特設サイト

https://libre-inc.co.jp/special/yamashita_world/

 

 

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著者:ヤマシタ トモコ
出版社:リブレ出版
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