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戦争モノに慣れてしまったアナタが読むべき最後の本。毎日が戦時だった『戦争は女の顔をしていない』

大祖国戦争

“大祖国戦争”

なんと、甘美で、古臭く、ロマンティシズムを感じる言葉だろう。戦争に勝った国だけが、歴史に記すことができる言葉だ。敗戦国は、口にできる言葉は“反省と謝罪”という言葉だけ。

 

 

―――ソ連。

かつて20世紀に存在した、東側の盟主して、最も強大な社会主義国家。
そんなソ連も、建国して20年目にして滅亡の危機にあった。
第二次世界大戦のいわゆる「独ソ戦」と呼ばれるソ連とナチスドイツの戦争である。


1941年10月には、首都モスクワが、陥落寸前まで攻め込まれたが、間一髪のところで冬を迎えた。

ロシアの冬に不慣れなドイツ軍は、占領地が広く伸びきった補給線から満足な物資も得ることができず、ソ連の反撃を受けて疲弊し、後退していくことになる。

 

ソ連軍が大戦時に、男性兵士と同じく、女性兵士を最前線での活動に従事させたことは広く知られている。

 

第二次世界大戦の真実を明らかにする……
「一言で言えば、ここに書かれているのはあの戦争ではない」……500人以上の従軍女性を取材し、その内容から出版を拒否され続けた、ノーベル文学賞受賞作家の主著。『狼と香辛料』小梅けいとによるコミカライズ。

(KADOKAWA HPより)

 

 

 

ⒸKeito Koume 2020
Based on WAR’S UNWOMANLY FACE by Svetlana Alexievich
Ⓒ2013 by Svetlana Alexievich
Japanese comic edition published by arrangement with Sevetlana Alexievich in care of Literary Agency Galina Dursthoff, Koln, Germany through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

 

 

 

 

ⒸKeito Koume 2020
Based on WAR’S UNWOMANLY FACE by Svetlana Alexievich
Ⓒ2013 by Svetlana Alexievich
Japanese comic edition published by arrangement with Sevetlana Alexievich in care of Literary Agency Galina Dursthoff, Koln, Germany through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

 

 

 

 

ⒸKeito Koume 2020
Based on WAR’S UNWOMANLY FACE by Svetlana Alexievich
Ⓒ2013 by Svetlana Alexievich
Japanese comic edition published by arrangement with Sevetlana Alexievich in care of Literary Agency Galina Dursthoff, Koln, Germany through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

 

 

これが戦争なのだ

『戦争は女の顔をしていない』は、1984年にスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによって記された、第二次世界大戦“大祖国戦争”に従軍したソ連女性兵士の証言によるドキュメンタリー作品である。

 

実は私は、原著は読んでいない。偉そうに言えることではないが、日々の忙しさに負け、格式のある活字本は後回しにしていた。

 

それが、偶然にも漫画になったという情報を知人から聞き、コミカライズ版である『戦争は女の顔をしていない』(著:小梅 けいと・ 監修:速水 螺旋人)を読んだのだ。この作品では、洗濯部隊、医師、狙撃兵、飛行士など多様な役割を担った女性兵士たちの証言をもとに描いている。

 

読後感は、打ちのめされた……。
浅はかかもしれないが、諦観の境地に達するというべきだろうか。戦争への圧倒的な無力感、そして無慈悲と恐怖。そんな時なのに、人間性を放棄しない人としての慈しみと尊厳をもつ矛盾。

 

 

うすうす解ってはいたが、鉛の弾と砲弾の雨の中を走る兵士だけが戦争ではないと改めて知ってしまった。剣闘士が闘技場で戦うローマ時代の如く、男の兵士だけが戦場で戦う……そんな戦争は、娯楽の中だけの戦争だった。

 

けど現実はちがう。戦争をするための「日常」を、戦争を支えるための「日常」を、女性兵士の目を通して描かれる。

 

いたずらに戦火の悲惨さを強調するわけでもなく、自己犠牲と、勇猛な兵士を称える証言ではない。事実を縫い針で縫っていくように証言を淡々と淡々と紡いでいる。
だからこそ、その証言は重い。経験から裏打ちされた事実なので、何も偽るものがないからだ。

 

 

あぁ、……これが戦争なのだ。
これこそが、総力戦争の姿なのだ

 

 

 

ⒸKeito Koume 2020
Based on WAR’S UNWOMANLY FACE by Svetlana Alexievich
Ⓒ2013 by Svetlana Alexievich
Japanese comic edition published by arrangement with Sevetlana Alexievich in care of Literary Agency Galina Dursthoff, Koln, Germany through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

 

 

 

 

ⒸKeito Koume 2020
Based on WAR’S UNWOMANLY FACE by Svetlana Alexievich
Ⓒ2013 by Svetlana Alexievich
Japanese comic edition published by arrangement with Sevetlana Alexievich in care of Literary Agency Galina Dursthoff, Koln, Germany through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

 

 

 

ⒸKeito Koume 2020
Based on WAR’S UNWOMANLY FACE by Svetlana Alexievich
Ⓒ2013 by Svetlana Alexievich
Japanese comic edition published by arrangement with Sevetlana Alexievich in care of Literary Agency Galina Dursthoff, Koln, Germany through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

 

 

 

兵士たる男が戦うのではない。女も男も、老いも若きも、子供も大人もない。動き出した戦争の歯車は、すべてを情け容赦なく組み込んでいく。

国民・国家の存亡がかかわったとき、老若男女問わずすべての人間が戦う兵士になるのだ。
これが興亡をかけた国の「戦争」なのだろう。


戦争という現実が、いつもの「日常」と混じりあうことで、平和がだんだんと溶解していく。

その中でもそんな戦争の死の流れに、飲み込まれまいと抗う姿、必死に生きようとする生々しい姿、自分を後回しに他人を気遣うその心に慈しみ感じ、人間を人間たらしめている。

 

時系列は、バラけており散逸しているが、そこは漫画の良いところだろう。

絵を見ただけで状況は大体わかり、見たこともないソ連の大地を思い浮かべることができるのだ。

 

だから、言葉による説明もいらない。それを作画がよく補っているのがよくわかる。

女性兵士のさまざまの感情【怒り・悲しみ・憎しみ・慈しみ】を小梅けいと氏の作画が、魅力的に描きわけ、心に訴えかけてくる。

 

 

 

もう戦争は、男のするものではなくなったのだ。

 

 

生存のための闘争に、ロマンも騎士道もない、戦争はついに有史以来の真の姿を取り戻したのだろう。
それは、人々が奮い立つような娯楽の戦争は終わりを迎え、非合理を徹底的に排除し、どちらかが生き残るための最も効率のよい殺戮を行うためだけのルーチン作業なのだ。

 

 

 

ⒸKeito Koume 2020
Based on WAR’S UNWOMANLY FACE by Svetlana Alexievich
Ⓒ2013 by Svetlana Alexievich
Japanese comic edition published by arrangement with Sevetlana Alexievich in care of Literary Agency Galina Dursthoff, Koln, Germany through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

 

 

 

戦争を題材にして、娯楽として消費する今だからこそ、読むべき最後の一冊なのだ。
彼女たちの見た戦争を知ったとき、きっと、感じるのだろう。

これも戦争なのだと。

 

 

 

試し読み:https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM00000019010000_68/

 

こんな方にお勧め
【原著を読む前に予習として、ソ連知識の宝庫・速水螺旋人が好きな人、戦争の悲惨さばかりを書いている姿に飽き飽きしている人。火垂るの墓を感じたい人、ペリリュ―ゲルニカ楽園の好きな人】

 

 

戦争は女の顔をしていない 1
著者:小梅 けいと,スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ,速水 螺旋人
出版社:KADOKAWA
販売日:2020-01-27