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最新マンガ傾向を解説!『このマンガがすごい!2020』がどうすごかったのか★オンナ編

『このマンガがすごい!2020』のどこがすごかったか、オトコ編を昨年末に記事にしましたが、今回はそのオンナ編です!


あけましておめでとうございます! 東京ネームタンク代表のごとう隼平です。
マンガ文法を広め、マンガ作りをもっと楽しいものにしていくために、マンガスクリプトドクターとしてYoutubeも更新中です。本年もどうぞよろしくお願いします!

インタビュー記事の不備により雑誌版の『このマンガがすごい!2020』は回収ということでした。その後続報もないようなので、このまま雑誌版は出ない形でしょうか。

 

しかしそうなると「なぜこのマンガがすごいのか」その理由を解説しているところがどこにもない……!という事態!

今回もマンガスクリプトドクターを名乗るごとうが、どうこのマンガがすごかったのか、マンガ技術的な側面と2020年という時代性を考え、審査員の心を掴んだ理由について読み解こうと思います。

全20作品、ここだけ読んでればちょっとマンガを詳しい風に語れるように頑張ります!まず今回は『オンナ編』10作品をご紹介しますね。

『オトコ編』はこちらからご覧いただけます。

★オンナ編

 第1位 
『さよならミニスカート』 牧野あおい(集英社)

話題作……!という感じです。こちらの作品は『りぼん』の編集長が何があっても推していくという声明を雑誌に載せたことでも話題になりました。
傷ついた元アイドルの女の子が主人公の物語です。

こちらの作品は『りぼん』に載っているのが何よりのポイントと感じます。
内容としてはアイドルを全肯定せず、ミニスカートを性の対象として売っていくことへの問題提起が含まれます。

しかしこの感覚自体はすでに新しいものではなくもう20年前から言われてきたことではないでしょうか。ただそれを幼年誌である『りぼん』で、ただ異色作として載せるのではなく、堂々と推すという宣言。

この現代にジェンダーの問題を考えていく、という強い意志を感じます。

 

 

第2位
『夢中さ、きみに。』和山やま(KADOKAWA)

なんとも言えない癒しがある作品です。やや変わった男子高校生に心を乱される男子高校生がかわいい。

こちらの作品はオムニバス形式ですが全体的に感じるのが、どのキャラクターもへんに捻くれてなく、それぞれの信念を持っておかしなことをしているということです。自分の行動に迷いがない。

頑張ってる人が「ほどほどに」頑張っている姿というのは、とても見ていて心地が良く、ほどほどの頑張りなので辛くなりません。また無意味なことに頑張っているのがとてもいいですね。

この現代、自分の頑張りに意味を見出せない人もきっと多いのではないでしょうか。そんな人には一服の清涼剤になると思います。

 

 

夢中さ、きみに。 (ビームコミックス)
著者:和山 やま
出版社:KADOKAWA
販売日:2019-08-10

第3位
『あした死ぬには、』雁 須磨子(太田出版)

仕事に一生懸命な40代女性を描く作品です。急な動悸など体調的な心配もあり、20代30代とはまた違う不安と向き合います。

40代はこれまでの積み重ねに終わりを告げたり、また新たなことを始めたり、次の人生へ見つめ直す変化の年代なのかもしれません。心は若くなにも変わらなくても、体や周りの状況が否応無しに変化していく。

現実に向き合っていく、という流れが2020年にはあると、前回からの記事でもお伝えした通りです。
本作は物語というにはあまりにリアル。誰もが必ず通る40代をどう生きていくか、その答えを見たくてページをめくってしまうのではないでしょうか。

 

 

あした死ぬには、 1
著者:雁 須磨子
出版社:太田出版
販売日:2019-06-13

第4位
『ミステリと言う勿れ』田村由美(小学館)

これは……この演出は、漫画描きとして本当にすごいです。
主人公の整(ととのう)くんがひたすら語っていくだけなんですが、その語りだけでひたすら魅せる。

基本「会話劇」というのはマンガでは難しい手法とされます。絵で魅せることが多いマンガでは、絵の動きがないと読者の気持ちを掴みにくいからです。しかし、この作品はひたすらに語ります。

会話劇を楽しく魅せる手法として「感情の揺さぶりを使う」ということがあります。淡々と推理を進める主人公と、実はその周りのキャラクターたちがとても魅力的でいいリアクションを取っていること。これがこの作品の隠れたポイントと思います。

マンガを描く人は、演出の一つとして必読の一冊と思います……!

 

 

ミステリと言う勿れ (1) (フラワーコミックスアルファ)
著者:田村 由美
出版社:小学館
販売日:2018-01-10

第5位
『心臓』奥田亜紀子(リイド社)

誰もが希薄な関係の中で、たしかに何かの影響を受け取って生きている。

こちらの単行本もオムニバス形式ですが、どの作品も強いドラマ、深い感情のやりとりや関係性というものは描かれません。わずかに遠い人たち、すれ違う人たち、また遠い昔すれ違ったきりの人たちが描かれます。

2010年代というのは強い感情の時代、深く心のやり取りをする作品も多かったと僕は感じています。そこへきて、この指先が触れる程度の関係性、しかし確かに人生に影響を与えていく。この新鮮さが多くの人の心に響くのではないでしょうか。

 

 

心臓 (torch comics)
無料試し読み
著者:奥田 亜紀子
出版社:リイド社
販売日:2019-07-24

第6位
『ポーの一族 ユニコーン』
萩尾望都(小学館)

『ポーの一族』が2020年のランキングに入ってくるのはとても興味深いですね。萩尾望都先生はいつの時代も変わらない人間の本質を描いているからでしょうか。いま初期を見返しても一切色褪せていません。

『ポーの一族』の着目ポイントは、やはり無限の時を生きる主人公たちと思います。時を超えてどの時代にも存在する、その感情を想像し、人間とはいったい何であるのかということを深く考えさせられます。

 

考えていく、というのがキーワードというのは前回お話しした通りです。まさに現代に合致し、ジャストタイミングの復活と感じます。

 

 

ポーの一族 ユニコーン (1) (フラワーコミックススペシャル)
著者:萩尾 望都
出版社:小学館
販売日:2019-07-10

第7位
『てだれもんら』中野シズカ(KADOKAWA)

日本料理と庭師と物の怪とちょっとのBL! なんだか盛りだくさんなんですがとても上手にまとまっています。庭師が物の怪を退治する→物の怪がプレゼントくれる(キノコとか梅とか)→料理して美味しくいただく。という素晴らしい流れ。

マンガ作りにおいては、作者が楽しく描くことが何よりだと思っています。作者が気持ちを乗せて描いたものこそ、読者に響くからです。本作はその楽しいポイントが綺麗にバランスを取って配置してあります。これほど見事に配置されている作品はなかなかないのでは。

だからこそ、逆にそのバランスを少し崩すだけでも物語がどんどん生まれます。好きなものがたくさんあって困る……という漫画家さんにぜひ見て貰いたい作品です。

 

 

てだれもんら 1 (ビームコミックス)
著者:中野 シズカ
出版社:KADOKAWA
販売日:2019-09-12

第8位
『裸一貫! つづ井さん』

こちらも女性の生き方を描く作品ですね。第3位と打って変わって、
「年々色んなことが気にならなくなっていて自分でもウケる」
「ただただ毎日生きるの楽し〜〜」

というこれだけ読んでもなんだか元気が出てくるフレーズです。
ひたすら遊んだりライフハックしたり相撲したり……
現代をどう生きていくか…の答えのひとつがありますね!

 

 

裸一貫!  つづ井さん 1
著者:つづ井
出版社:文藝春秋
販売日:2019-09-11

第8位
『ゆりあ先生の赤い糸』入江喜和(講談社)

主人公のゆりあの幼少期から描かれますが、主人公が50歳になってからの事件が主軸になって描かれる作品です。

40歳50歳という年齢の主人公が描かれる作品が話題になることは日本ではあまり多くなかったように思います。海外の映画では全然そんなこともないのですが、日本のマンガの主人公は若い印象がありました。

当然ですが40代50代にもドラマがあります。そこにはこれまで着目されてなかったドラマがたくさん埋もれている予感がします。

「夫と寝室が別になって…そうしたら夫は彼氏を作っていて…」
なるほど、さもありなんと思いました。

現代に向き合うということは、歳を重ねることやそこにある感情の機微にも目を向けることだと思います。

 

 

ゆりあ先生の赤い糸(1) (BE LOVE KC)
無料試し読み
著者:入江 喜和
出版社:講談社
販売日:2018-07-13

第10位
『違国日記』ヤマシタトモコ(祥伝社)

力強い演出力……!

ストーリーは嫌ってた母を亡くした少女が、母の妹のもとで暮らすことになる話です。母の妹は同じく母を嫌っており、仕事は物書きです。極めてシンプル。

物書きの叔母の物書きたる魅力をどう出すか。が、この作品はすごい……!

親戚に「たらい回しにされる」という恐怖を、「盥」(タライ)ってどう書くんだっけと口走ってしまった彼女からすべて察し、その上、漢字の書き方さえも強く教えてくれる。

この時代を生きていく上で、何が本当の強さなのか、マウント取って生きていくだけが偉いのか。

強い言葉で肯定してくれる嬉しさ。これが現代を一生懸命生きる人に響くのは必然と感じます。

 

 

違国日記 1 (フィールコミックス FCswing)
無料試し読み
著者:ヤマシタトモコ
出版社:祥伝社
販売日:2017-11-08

まとめ

以上昨年末から引き続き『このマンガがすごい!2020』の何がすごかったのかを解説しました。

40代50代を描く作品、そして感情論ではなく、しっかりと芯を持ったキャラクターがやや冷静に客観視する作品が多かったのが「オンナ編」の総評です。自分の感情さえも冷静に受け止めるというか。激動の時代に心まで激動でいられない、ということでしょうか。

さすがどの作品も手にとって損はないので、未読の人はぜひチェックしてくださいね!

 

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