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じつはビジネスで生き残るための必読書だった『ブルーピリオド』

こんにちは。神保町にある「漫泊=一晩中マンガ体験」MANGA ART HOTEL代表の御子柴です。

 

マンガの賞レースでズバ抜けていると言っても過言でない名作『ブルーピリオド』ですが、高評価のポイントのひとつが「名言の数々が痺れる」というところですよね。
キャラクターがみんなして、心揺さぶる発言をしまくる作品で。僕にはそれらが何度刺さったか数え切れません。

 

しかし、今回はあえてそうしたポイントではなく、ビジネス書『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』(山口周・著)で書かれていた”これからのビジネスマンこそ鍛えるべき「見る力」”という観点から、この『ブルーピリオド』のレビューを書きたいと思います。

 

 

 

じつは八虎の「テーマ設定」はビジネスに必須の考え方だった

主人公の成績優秀でヤンキー気質だけど、根っからの良いやつで努力家の八虎。

その彼こそが「見る力」を見事にストーリーに織り成して、姿で、言葉で、表現してくれています。

 

そのおかげで、僕のようなアートのアの字も無かった人間でも、親しみと感動を持って「アートを突き詰めていくということ」の意味を読むことができます。

 

僕らのようなアート初心者でも理解のできる「テーマの設定」、そしてそのなかに描かれる「テーマを踏まえつつもその上に積み重なる層」について、前者を「案件の要件定義」、後者を「定性的な要素の因数分解」として説明していきたいと思います。

 

こうした観点から『ブルーピリオド』を見てみると、キャラの日常会話だけでなく、アートそのものの持つ層の厚さ、奥深さという目に見えないものを、八虎はその言動で表現しているのです。

 

つまり、アーティストの頭の中を第三者でもわかるように描いています。そこがアートの初心者であっても『ブルーピリオド』にグイグイ惹きつけられる理由だと思えます。今までになかった「マンガにおけるアートの奥深さ」そのものが作画で、セリフで、きっちりと可視化されているのです。

これが前述した「案件の要件定義」と「定性的な要素の因数分解」にあたるのです。

 

ビジネス面における黄金律が、『ブルーピリオド』を読む解くうえで、ピッタリと当てはまることに驚きを隠せませんでした。

 

ではビジネスとアートの違いとは?

一旦自分の話になります。

僕は楽天で広告営業していました。自分なりのロジックを開発し、クライアントごとに設定したKPIを広告効果で達成する、というソリューションを武器にしてトップセールスになりました。

 

他の営業にはできないこと。僕にしかできない説明と説得なので、高価でも僕からしか広告を買えないわけです。

そして、クライアントが短期目標を達成すると、次の長期目標への道筋を示し、それをまた広告費用で達成する…… という問題解決の仕組みを売り続けました。

 

手前味噌で申し訳ないです。が、言いたいのは営業の差別化で成功した、という話ではなく、僕のやってきたことは「問題解決」そのものです。はっきり言えば、ゴールが「問題解決」である以上、ロジックさえ間違えなければAIだって同じ成果は得られるのです。

システムが最適化されていれば人件費のかかる営業マンは不要、実は賞味期限が短い価値なのです。

 

ビジネスのゴールが「問題解決」であるならば、まさにアートのゴールとは「解決」ではなく「感動」なのではないでしょうか。

 

論理的なスキルを鍛えるのと、情緒的なセンスを鍛えるので鍛えるべき筋肉が違います。

 

しかし八虎は、論理的であり、かつクリエイティブな演習を繰り返してセンスの筋肉を鍛えていきました。だから自分の母親を描くシーンでは、母親がどんな人間でどのように生きているかを「見ること」ができました。

八虎のくれた絵の意味を知り母親は泣き落ちます。まさにゴールが感動である、というるアートの持つ本質を表現している描写です。

 

 

©Tsubasa Yamaguchi/講談社

 

 

©Tsubasa Yamaguchi/講談社

 

 


また、八虎は何度も描き、考え抜いた結果、人の縁を糸ではなく、「金属」として表現しています。
「縁=糸」というイメージは我々素人でも理解できそうですが、自分なりの解釈と分析からこの「金属」のイメージに行き着く八虎の思考プロセスは必見です。

 

 

©Tsubasa Yamaguchi/講談社

 

 

©Tsubasa Yamaguchi/講談社

 

 

 

これらのように、僕らアートが分からない人間は「絵を描く」という技術的なアウトプットはできなくても、それに至る要件定義、つまり「考える」ということの面白さは理解できるからこそ『ブルーピリオド』の世界に没頭するのです。

 

論理的スキルよりも、情緒的センスの「見る力」

『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』の中で、ビジネスの「見る力」を弱くてしまう理由として「パターン認識」というセンスでなく、スキル修練における弊害が書かれていました。


かつて「目的なくバットを振り続けると変な筋肉がついてしまうので、考えずに漫才の反復練習ばかりをするな」という趣旨の発言をした島田紳助さんを思い出します。

 

しっかりとした考え無しに、目的に突き進むことは、むしろその努力に安心してしまいがちです。

それがアートとなると、構図やテーマのレベルが作品に浮き彫りになりやすいでしょうから、簡単にその薄っぺらい努力が創作物にあらわれてしまうはずです。

 

アートは時給のタスクとは異なり、単に決まった時間で労働をして稼げる世界ではありません。
一部の天才しか生き残れないゼロサムの過酷な世界であることは、作品の中でも藝大受験の失敗で描かれています。

 

そんなアートの世界で戦っていく八虎を、またその思考プロセスをだれもが納得できる表現で紡いている『ブルーピリオド』ほど貴重な「アート初心者でも」入り込める入門書はそうそう無いのではないでしょうか。

 

忙しいビジネスマンだからこそ、この「見る力」をビジネス的に得ることも、なによりも八虎の物語とアートの魅力に引き込まれてしまう『ブルーピリオド』を読むべきだと思うのです。

 

問題解決のパターン化ではビジネスマンとしての差別化が難しい時代だからこそ、名作『ブルーピリオド』を読んで「見る力」を上げていきましょう!

 

この作品を読むと、ホテルのオーナーである僕も自戒の念を込めて、「人の心に響く感動を提供できるサービスを」と身が引き締まるのです。

 

 

 

©Tsubasa Yamaguchi/講談社

 

 

©Tsubasa Yamaguchi/講談社

 

 

『ブルーピリオド』 は MANGA ART HOTEL に既刊全6巻が置いてあります。

 

 

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ブルーピリオド(1) (アフタヌーンKC)
著者:山口 つばさ
出版社:講談社
販売日:2017-12-22