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爆売れ!各誌の連載第1話を読み比べられる贅沢!『ドラえもん 0巻』

子どもの頃、毎月のお小遣いが400円だった。

その400円を握りしめて駅前の書店に行き、毎月1冊ずつ買い集めていたのが『ドラえもん』だ。

 

確か単行本が320円だったから、その月は残り80円で暮らさなければいけないのだけど、そんなことは気にもしなかった。

家に帰るのも待ちきれず、歩きながら読んで帰った。

 

初めて読んだマンガは確か『ベルサイユのばら』なのだけど、お小遣いで買った記憶が強烈に残っているのが『ドラえもん』なのだ。

 

何十巻まで買ったのか、いつの間にか自分の興味は少女マンガへと移行していき、そのうち『ドラえもん』は卒業してしまった。

 

『ドラえもん』は、主に小学館の学年誌で連載されていたマンガで、単行本に載っているのは小学4年生以上の作品だとどこかで読んだことがある。

 

あまりに子ども向けだと、幼すぎて単行本向けではない、とかなんとかいった理由だったと思う。

そういわれると未収録の作品も読んでみたくなるもの。

なんとなくうずうずしていたところに発売されたのが『ドラえもん 0巻』だ。

 

これがとにかく面白いので、とにかく読んでみてほしい。

初期のドラえもんが、猫らしく猫背で、猫背のあまり首輪が見えていないなんていうこと以上に、発見の嵐なのだ。

 

掲載されているのは、「よいこ」「幼稚園」「小学1年生」〜「小学5年生」の第1話と、「小学3年生」の2話、ドラえもん誕生秘話だ。

 

このうち「小学5年生」は連載スタートが数年遅かったため、ドラえもんの紹介的な内容ではなく、いきなりドラえもんはのび太の部屋でゴロゴロしているが、その他の第1話は、同じ「ドラえもん」登場というテーマが年齢に合わせた難易度のストーリーになっていて、比較していくと面白い。

 

「マンガ読解」の教育を施していた学年誌

なんと大正時代に創刊された学年別学習雑誌シリーズは、小学1年生から小学6年生まで各学年ごとに毎月発行されていた。

少子化のあおりを受けて現在は「小学1年生」以外は休・廃刊となっている。

 

以前、早稲田大学教育学部で行われた「漫画と教育」といった感じの講座(詳細を失念)で、「学年誌でマンガのコマを追って読むという訓練ができなくなったために、漫画を読めない子どもが増えている」というお話を聞いた。

 

知り合いに、読書は好きだがマンガは読まないという20代の男性がいた。

マンガは、どの順番にコマを読んだらいいのか、何の絵に着目したらいいのかわからず、読むとめちゃくちゃ疲れるそうだ。

大人向けの高度なマンガ表現は、それなりの訓練がなければ読み解けないレベルなのだ(心の中で私は彼を「マンガを読むスキルのない男」と蔑んでいたわけですが)。

 

確かに昔、私がほとんど本を読んだことのなかった子どもの頃、国語のテストで問われる「ここに入る接続詞は何か」「この文章に小見出しをつけよ」といった問題がさっぱり解けなかった。

ものの理解には、ひたすら訓練が必要なのだ。

マンガも同じで、その文化に親しむには数を読みこなす経験が必要なのだろう。

 

学年誌が「マンガに慣れ親しむための教育的立ち位置」にあると思って『ドラえもん 0巻』を見てみると、面白い。

雑誌「よいこ」「幼稚園」掲載話ではコマ割りが大きく、話が簡潔だ。これでコマの順番がわからない人はかなり少数だろう。

 

小学1年生になると、コマに番号が振ってある。

①「ただいま」「まあ、のびたちゃん どうしたの。」「そのかっこう」

②「犬におわれて、どぶにおちたの。」

といった具合だ。これも数字が読めればコマの順番は間違わない。

 

その後、学年が上がるごとに少しずつ話の難易度が上がっていく。このあたりは『ドラえもん 0巻』の「各話解説」に詳しく書かれていて興味深い。

こうやって昔は少しずつマンガ読み取りの教育がなされていったのだ。

 

ちなみに私の父は小学館社員だったのだが、社員の子どもにはその年齢にあった学年誌が毎月配られ、発売日前後には父が学年誌を持ってきてくれた。

「ちゃお」や「フラワーズ」といった小学館のマンガ誌は創刊号から読んでいた。

そういう子どもだったのだから私は大人になって少女マンガで飯を食い出すわけだな。

 

今でも覚えているのは「小学6年生」の3月号。

「ちゃお」に連載されていたマンガのダイジェストが掲載され「『ちゃお』にはこんな面白いマンガが載ってるよ、読んでね!」と宣伝されていたことだ。

 

学年誌マンガは、少女向け、少年向けに分かれていたので、おそらく同じ号に「少年サンデー」だか「コロコロコミック」だかの紹介もされていたのだろう。

学年誌から少女マンガ誌、少年マンガ誌への誘導が行われていたのである。

子供心に「これがビジネスかあ」と思って読んでいた。

 

70年代の雑誌掲載誌面もそのまま再現

『ドラえもん 0巻』では、掲載当時のアオリもそのまま掲載されている。

編集者もまさかこれが日本を代表するマンガになるとは思っていなかったとは思うけど、

「あたらしく はじまった ゆかい まんが」

「とっても ゆかいな ドラえもん」

「いよいよ はじまった おもしろまんが」

とか自画自賛していて微笑ましい。

 

ルビにも注意だ。

「日本じゅうが笑いのうずになるまんが」というアオリの「日本」には「にっぽん」というルビが振ってある。にっぽんじゅう? 個人的には「日本中」の読みは「にほんじゅう」のほうがしっくりくるけれど、50年前は「にっぽんじゅう」と読んだのだろうか。

「にほん」「にっぽん」問題はネットでも話題のネタだが、現在では「にほん」のほうが優性という調査結果が出ている(https://style.nikkei.com/article/DGXBZO37629750Y1A221C1000000/?)が、「日本中」の読みについては見当たらなかった。

 

『ドラえもん』には「ドブに落ちる」ネタがけっこうある。

そういえば子どもの頃は、家の前にはドブが流れていたものだ。幅30cmくらいの水路にちょろちょろと水が流れていた。

 

ドブの周りにはよくドクダミが生えていて、めちゃくちゃ臭くて、「汚い草」というイメージがあった。「ドクダミ茶」なんて聞いたときには「えっ! あんな汚いもの飲んで平気!?」と思ってしまった。

しかし最近はドブって見かけないな。「ドブに落ちる」も昭和ネタなのか……。

 

と、まあ『ドラえもん 0巻』はとにかく読みどころが多い。

アイテムの使い方の違いに着目するもよし、のび太のシャツの色が赤なのを愛でるもよし、なぜかピカピカ光ってるドラえもんを眺めるもよし、なんなら目次だけでも面白い。

「ドラえもん誕生秘話」も面白い。

 

コマや話の単純さと反比例して見どころだらけな上、各種解説も充実していて、編集の愛が詰まった構成なのだ。

マンガの単行本というより、雑誌のようだ。ドラえもんファンはもちろん、ドラえもん初めとしてもぜひ。

 

 

ドラえもん 0巻 (0巻) (てんとう虫コミックス)
著者:藤子・F・ 不二雄
出版社:小学館
販売日:2019-11-27