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なぜすごい?を完全解説『このマンガがすごい!』ランキング作品の傾向分析。マンガ関係者は必読で!

こんにちは!東京ネームタンク代表のごとう隼平です。
マンガ文法を広め、マンガ作りをもっと楽しいものにしていくために、マンガスクリプトドクターとしてYoutubeも更新中です。

『このマンガがすごい!2020』が発表されましたね!

インタビュー記事の不備により雑誌版の『このマンガがすごい!2020』は回収ということだそうです。しかしそうなると「なぜこのマンガがすごいのか」その理由を解説しているところがどこにもない…!という事態!

今回はマンガスクリプトドクターを名乗るごとうが、どうこのマンガがすごかったのか、マンガ技術的な側面と2020年という時代性を考え、審査員の心を掴んだ理由について読み解こうと思います。

全20作品、ここだけ読んでればちょっとマンガを詳しい風に語れるように頑張ります!まず今回は『オトコ編』10作品をご紹介しますね。

 

 

★オトコ編

 第1位 

『SPY×FAMILY』遠藤達哉(集英社)

 

SPY×FAMILY 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
著者:遠藤達哉
出版社:集英社
販売日:2019-07-04

 

 
やはりという感じですね。

僕も社会的ヒット間違いなしとして個別記事でも詳しく書いています。改めて、この現代で依然として押し付けられている価値観、例えば子持ちバツイチの否定、女性は慎ましく家事をすべき、など古臭い考えに毅然と立ち向かう姿勢が、現代人の心を掴むのだと思います。【現実に立ち向かう】というのは2020年の重要キーワードです。

またこちらの作品は娘役、心を読めるエスパーのアーニャちゃんもポイントです。
アーニャちゃんが心を読んでくれるおかげで、登場人物ほとんどの真の気持ちを、読者が理解できるんですね。だから疑わなくていい安心感がある。

このあとも話題にしますが、いま「家族に対する不信」が渦巻いている現代だと思います。それを完全解決している。すごいぞアーニャちゃん!

それから【父親】というのもキーワードですね。少年誌で父親が主人公として活躍したのは悟空以来…?(しかも悟空は父親としては…)いろいろな家族の形がある今、これからの時代の理想の父親像をみんな求めているのではないでしょうか。

 

 第2位 

『ロボ・サピエンス前史』島田虎之介(講談社)

 

ロボ・サピエンス前史(上) (モーニングコミックス)
著者:島田虎之介
出版社:講談社
販売日:2019-08-23

 

 
今回の『このマンガがすごい!2020』では手塚治虫先生を想起させるような、長大な時間を感じさせる作品が多く選出されました。これはとても考えさせられる現象です。


まず前提として現代の漫画は、ある一つの出来事に対して、たっぷりと感情を表現していく傾向がありました。そしてその分、マンガ内の時間がゆっくりに感じられると思います。縦読みの漫画などが顕著で、感情は豊かに伝わりますが、ストーリーは少しずつしか進めません。

手塚先生の時代の漫画は、どんどん出来事が進んでいきます。100年でも100万年でも。考えさせられる出来事を用意して、読者の中に感情を作っていきます。『ロボ・サピエンス前史』も同様の作りです。

指先でちょっとスクロールするだけで1000年の時が経つ。

これがスマホ時代に新鮮なマンガ体験をもたらしていると感じています。

 

 第3位 

『僕の心のヤバイやつ』 桜井のりお(秋田書店)

 

僕の心のヤバイやつ 1 (少年チャンピオン・コミックス)
著者:桜井のりお
出版社:秋田書店
販売日:2018-12-07

 

 
うってかわって今度はとても現代的。様々な感情表現を読者が楽しむタイプの漫画ですね。中二病っぽくあえてなろうとするけどなりきれない、男の子の可愛い感情がひたすら描かれます。


そしてこの作品のポイントは主人公の男の子の「モノローグ」(心の声)にあります。
これまでの漫画作品に多かったのは、心の声を用いて、読者に主人公の気持ちを「共感」させるように使う手法でした。

しかし、この作品はあくまで主人公の心の声を、他者として眺めて「かわいいな」と思わせる、読者に「共感」ではなく「興味」を持たせる手法で使われています。そのため「心の中のセリフ」がバグってるんですね。飼い猫が「人間ちょろいにゃ!」とか思ってるのに近い。

『僕の心のヤバイやつ』を眺めて楽しんで!っていう分かりやすいコンセプトで、かつその表現がとても多彩で群を抜いていることが支持を集める理由と思います。

 

第4位

『チェンソーマン』藤本タツキ(集英社)

 

チェンソーマン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
著者:藤本タツキ
出版社:集英社
販売日:2019-03-04

 

 
ジャンプ本誌登場時にとても勢いがあって「俺の作品について来い!」的なこれぞジャンプ作家!という雰囲気に溢れた作品でした。こちらの作品のポイントは、主人公のデンジがただただ些細な日常の幸せを追い求めていること。大きな夢に突き進むジャンプ主人公としては異質ですよね。


マンガ技術研究会の中で全新連載を集め、動向をチェックしているのですが、この些細な日常の幸せを追い求める系作品は2019年の後半から増加傾向と感じます。

これはSNSの普及により、日本人全体が何を求めているか、ということが、なんとなくみんな共有できたからなのでは…という意見が会員から出ているのですが、みなさんはどう思われるでしょうか。

これまで誰でも持っている、ありふれていると思っていた「幸せな家族」というものが、実は見渡す限りぜんぜんない、とみんな気づいてしまった。

思っていたより灰色の世界で、ほんのちょっとの癒しや希望を見出していく。その姿勢に深い共感が集まるのかな、と感じています。

 

 

第5位

『水は海に向かって流れる』田島列島(講談社)

 

水は海に向かって流れる(1) (週刊少年マガジンコミックス)
著者:田島列島
出版社:講談社
販売日:2019-05-09

 

 
こちらも問題を抱えた家族の話ですね。身近な家族にも、知らなかった、そして知りたくない一面がある。


言葉で関係性を伝えるのは難しいのですが、主人公の男の子が、女の子の家に居候することになります。

しかし男の子の母親は、その女の子の母親と同じ。父親が一時期駆け落ち不倫をして生まれたのが主人公です。女の子から見たら、母親を奪っていった男の息子、ということです。よくこんなキツイ状況を一つ屋根の下に用意したな…という、関係性で強く引き込まれる作品です。

【疑似家族】もいまもっとも大事なキーワードの一つですが、ただこれは「今」と言っていいのか…今後50年語られることなのではないかな…という気もしています。

 

 

第6位

『鬼滅の刃』吾峠呼世晴(集英社)

 

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
販売日:2016-06-03

 

 
こちらの記事
でも書きましたが、若い世代にも受けているようですね。若い世代の声を聞くと、やはり「切なさ」の感動への飢えを感じます。

ここまでの10年「切ない」という感情を大人たちは避けてきたのかな、と感じています。震災後の10年、悲しい体験を「切ない」というわずかな肯定を含んだ表現にすることを、どこかで控えていたのかもしれません。

また【現実に立ち向かう】というキーワードにおいて、主人公炭治郎君の【自己肯定】の姿勢も注目です。
これまでのジャンプ主人公は、ナルトにしろ緑谷君にしろ、弱い自分を責めがちな傾向が強かったと思います。でも炭治郎はそうじゃない。「俺は頑張ってきたし頑張れるやつだ!」と自分を鼓舞する。その感覚がこれからの時代に挑む現代人を応援する、強いメッセージになっていると思います。

マンガの構造的な話をすると、少ない刊行数の中で、主人公炭治郎君の感情の描かれ方が、最初はわかりやすくモノローグなどで喜怒哀楽を表現していたのに対し、後半では「どんな気持ちなのか」想像させる感情表現が目立つようになります。このことが主人公の成長を強く印象付け、男女問わず多くのファンにウケている要因と思います。

 

第7位

『王様ランキング』十日草輔(KADOKAWA)

 

王様ランキング 1巻
著者:十日草輔
出版社:#manufacturer
販売日:2019-03-11

 


こちらも感情表現が珍しい作品です。ここまでお話しした通り、現代の作品は「モノローグ」(心の声)によって主人公の感情を分かりやすく伝えていく作品がとても多いです。少年漫画と少女漫画の住み分けがなくなった、というのも要因の一つかもしれません。


昔の少年誌はそうではなく、主人公の気持ちは想像するものでした。ケンシロウも冴羽獠も悟空も剣心もルフィも、強敵を前に笑ったり、どんな気持ちかあんまり分からないですよね。

それは今は青年誌に多い描き方になっています。


『王様ランキング』主人公の描かれ方はまさにこの手法です。少年はまず喋ることができません。さらにモノローグや心の声を書く表現もとりません。その上、なにがあっても笑顔。どんな気持ちなのか、ひたすらに想像させ続けます。

 

読者は彼の気持ちを知りたいので、彼と自分を重ねて感情を理解しようとします。これがいわゆる感情移入に繋がります。

そして十分に重なったところで、分かりやすい感情が用意され、強い理解とカタルシスが同時に起きます。この近年珍しくなっていた感情体験が今新鮮に響いているのではないでしょうか。

 

また何があっても挫けず頑張る姿。この【現実に立ち向かう】姿勢もまた応援せずにいられませんね。

 

 

第7位

『スキップとローファー』高松美咲(講談社)

 

スキップとローファー(1) (アフタヌーンコミックス)
著者:高松美咲
出版社:講談社
販売日:2019-01-23

 


こちらの作品もまさにキーワードとして【自己肯定】がポイントと思います。

田舎から出てきた高校生、主人公のみつみちゃんが、やや天然でポジティブ、まずちょっとしたマウントには気づきもしないし、やや凹む出来事があっても「今日の失敗はノーカウントにしよう」「明日からは大丈夫でしょう、私なら」これが全然嫌味じゃないし、好きになる。

 

この健気さがみんなを変えて行く感じは『君に届け』の爽子ちゃんを想起したりするんですが、何より違うのがこの「自己肯定」感だと思います。

こんなんじゃダメだ…って自分を奮い立たせるというよりは、これでいいんだ私はイケる!という思考

そしてそこから生まれるいい雰囲気や空気だけをキャッチして積み重ねていく。

シンプルですがそのバランス感覚に優れた、強く素敵な作品だと思います。

 

 

第9位

『パンダ探偵社』澤江ポンプ(リイド社)

 

 


人間とは、生きるとはなんだろうか。と考えていく。

震災から約10年が経ち、思考停止から徐々に【現実に立ち向かう】時代がやってきた、とここまで何度も書きました。そこには「生きる」ということを、「人間とはなにか」ということを、考えることが含まれるのだと思います。


「考える」ということはパワーを使うんですよね。疲れ切った状況ではなかなかできない。
これまでストレスの強い作品はウケない、とよく編集部で耳にしましたが、最近結構ストレス強めの作品も増えてると感じます。(主観ですみません、みなさんはどう感じていますか?)
癒しの時代を経て、そろそろ考えていこうじゃないか、という雰囲気を僕は常々感じています。

人はどうやってこの人生に決着をつけて去っていくのか。

『パンダ探偵社』では人が人でなくなっていく様を、多様な角度から描きます。その答えは言葉にならないですが、いつも美しさが同居するのがこの作品の魅力ですね。

【人間とは何なのか】を考えること、これがこれからの2020年新たなキーワードと思います。

 

 

第10位

『有害無罪玩具』詩野うら(KADOKAWA)

 

有害無罪玩具 (ビームコミックス)
著者:詩野 うら
出版社:KADOKAWA
販売日:2019-02-12

 


こちらの作品は【人間とは何なのか】に留まらず、この世界は一体なんなのか、というところまで考えを広げていきます。

おもちゃの紹介の形をとって、さまざまな思考実験を体験させる。この世界が存在する、という笑ってしまうくらいの不可思議さをうまく伝えて、読者に思考の世界に連れていく。作品自体がいい玩具と言えそうです。

 

『ロボ・サピエンス前史』にも通じる長大な時間を描く作品も収録されています。
干渉し影響し合う現在と未来を行き来し、そしてその思考そのものをまるで作者の詩野うら先生が音楽のように愛されているのが伝わってくる、これがこの作品の魅力と感じます。「考えることへの肯定」を強く受け取りました。

 

 

まとめ

今回は『オトコ編』10作品をご紹介しました。『オンナ編』はまた次回に!

 

選定された漫画への所感として「しっかり考えて受け取るもの」という雰囲気と意図を感じています。
これが選定された方々が考えることが好きな人たちということでより顕著になっているのか、それとも時代の流れなのかは分かりません。

 

もしかしたら漫画が「エンタメから伝統芸能へ」「サブカルチャーからカルチャーへ」その転換点が、この2020年なのかもしれません。
この際に「考えて」みるのはいかがでしょうか…!

 

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