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『PSYCHO-PASS』で考える監視社会のリアル

 物語のジャンルのなかで私が好きなもののひとつがSFです。Science Fictionとして科学と人間の未来を描くだけでなく、ときにSociety Fictionとして今後私たちの社会がもしかしたら向かうかもしれない世界を描くことがあるからです。

最近その思いを強めたのが『PSYCHO-PASS』シリーズ。政府や企業が私たちの行動を把握しつつある中で、「その中で楽しく生きていけるか」を考えさせてくれます。

 

 

監視官 常守朱 1 (ジャンプコミックス)
無料試し読み
著者:三好 輝,天野 明,虚淵 玄(ニトロプラス),サイコパス製作委員会
出版社:集英社
販売日:2013-02-04

メンタル数値が個人の人生を決める社会

 『PSYCHO-PASS』の描く世界は、簡単にいうと「シビラ」と呼ばれる「コンピューター」(この正体も作中で明らかになります)が人間の心理や精神状態を数値化して、仕事や結婚相手を含めすべてを決めていくというものです。

芸術もこのシビラというシステムが認定したもののみ。

人々はシビラの判定に従って人生を決めて、この数値が悪化しないようにケアをしながら生きていくという感じです。

なぜなら数値が規定値を超えると「潜在的な犯罪者」として社会から隔離されるからです。作中では「罪を犯す前に裁かれる」と表現されています。

 

 もともとはアニメで、シビラが管理する社会での犯罪を取り締まる部署に主人公のひとり、常守朱が赴任し、奇妙な事件を解決しながら「シビラとはなにか」という謎を探るところからスタート。

その後『PSYCHO-PASS 監視官 常守朱』としてコミカライズされ、さらにアニメでは断片的にしか出てこなかった執行官・狡噛慎也の監視官時代を描いた『PSYCHO-PASS 監視官 狡噛慎也』、『PSYCHO-PASS 2』『PSYCHO-PASS SS』と続いています。

さらに2019年秋にアニメ『PSYCHO-PASS 3』の放送とマンガ連載が始まりました。

 

 最初のアニメの放送が2012年。

当時は、メンタルの数値化は面白いなーと思ってみていましたが、その後中国の監視カメラや、所得やキャリア、活動動に基づく社会信用のスコア化を見て、「人のステイタスを数値化して、それによってすべてを判定していく。場合によっては社会から排除していくというPSYCHO-PASS のような世界は現実社会で近づきつつあるのかもしれない」と思うようになりました。

 

境目のどちらに自分を置くか

 『PSYCHO-PASS』 の世界では、メンタル状態がクリアで健康的ではないと様々な行動が制限されます。

 生まれつき、または途中から潜在犯と判定されてしまえばメンタル状態を健康な状態に戻すまで施設に閉じ込められます。

 物語で明確に描かれているわけではありませんが、自由に動けることが権利だと考えると、潜在犯は権利を制限された状態。物語の中では彼らを地位が低いものとして見る人も少なくありません。

 

 シリーズの序盤では、このシステムを取り入れた日本は自給自足となり、ほぼ外国からの人の流入を制限していました。

(なお最新のシリーズ3では「開国」して外国人や移住者との問題を抱えることになっています)

 

 なぜ日本がシビラシステムを受け入れたのかはっきりとは描かれていませんが、選挙が行われているところをみると民主主義の体制は維持しているもよう。

 とすると、少なくとも多数派はこのシステムの導入に賛成したと考えられます。きっと「自分はシステムに選ばれる」「システムを通じてよりよい人生が用意される」と考えたのではないでしょうか。

 

 もちろんこれが甘い考えであることは『PSYCHO-PASS』の物語の中できっちり示されています。生まれつき潜在犯と判定される人、仕事をしている中で潜在犯になる人、潜在犯にならないようにメンタルケアに追われる人――前述のようにシステムの中で生きていける人と、システムからはじかれる人の境目というものがあれば、その境目は簡単に超えてしまうものなのだと描かれています。

 ましてやその境目が数値化されてしまえば、人間が判断できるあいまいさみたいなものは無視されることになります。

 

 シリーズ全体は骨太のSFであり推理ものなので、それをワクワク楽しめるのです。同時に、ふとしたシーンやセリフ、設定を通じて私たちが進むであろう未来の社会の課題みたいなものを突き付けてきます。

 

 ちなみにこの文章を書いている本人はメンタルがかなり不安定なので『PSYCHO-PASS』の世界だと絶対潜在犯か、メンタルケアに追われて不安を抱えながらの生活になりそうですごいしんどくなりそうだと思っています。みなさんはどうか、是非マンガを読みながら考えてみてください。

 

シリーズ化のお手本のひとつ

 おまけに。前述のように、アニメのスタートが2012年。現在シリーズ3ですが、シリーズを追うごとに、そのときの社会状況などを取り込みながら物語はどんどん面白く考えさせるものになっています。

 

 もちろんシリーズ1で登場したキャラクターは印象的で人気ですが、シリーズ2以降では単純に彼らをそのまま登場させるわけではなく、一部「退場」させ一部は続投、そして新たなキャラクターを登場させるという巧みさ。

 そしてシリーズ3では組織の幅も社会の構造の奥深さも広がっています。「シリーズ1のあのキャラクターがまさか!」といううれしい驚きもありました。

 

 「事件が起きる→主人公らが解決」という作品では往々にして人気キャラクターが永遠に活躍し続けがちになります。

 しかし『PSYCHO-PASS』の場合は世界は変えずにそこに生きるいろいろな人を登場させることで社会の構造やひずみをあぶりだしています。シリーズ化のお手本のような構成だと思いました。

 

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