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〈ネタバレあり!〉『鬼滅の刃』の読み応えを高める無常さ

 

 吾峠呼世晴氏の『鬼滅の刃』の躍進が止まりません。シリーズ累計発行部数は2500万部となり、最新刊の18巻は初版発行部数が100万部を超えました。マンガ新聞のほかのレビュアーの刺激を受けて、なぜここまで人気が加速したのか、作者が本当に描きたかったことは何かを考えてみました。

祝・18巻初版100万部超え

 鬼滅の刃は、妹を鬼に変えられ、家族を鬼に殺された少年、竈門炭治郎が妹を人間に戻す方法を求めると鬼殺隊に入り鬼の脅威と戦う物語です。 

この作品の2019年のすごさはデータが示しています。

  • 累計発行部数は2500万部
  • 18巻は初版100万部超え
  • 「オリコン年間コミックランキング 2019」作品別で1位

 

 このほかにも「グッズ販売のときの入店規制」などちょっといままでの「大ヒット作」の過程では見られなかったことが起きました。

 この人気はもちろん日本にとどまりません。NYCで出入りしているマンガ・アニメ好きのコミュニティでの、「今どのアニメを見ているか」という質問に、必ず『Demon Slayer』(『鬼滅の刃』の英語版の書名)が挙がりました(最初、何のことかわかりませんでした)。

もちろんハロウィーンやコミコンのコスプレでも人気で、ツイッター上でも英語版の出版を楽しみにしている様子がうかがえます。

 

 

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)
無料試し読み
著者:吾峠 呼世晴
出版社:集英社
販売日:2016-06-03

 

 

剣舞の美しさを描いたアニメの威力

 ここまでのメガヒットとなったのは、原作の魅力を増幅したアニメの力が大きかったと考えています。主人公の竈門炭治郎が父親から神楽を継承し、のちのちの戦いでその動きを参照するように、とにかく主要キャラクターの技の動きはただ敵を倒すための方法とは思えないほどきれいで力強いものです。個人的には恋柱・甘露寺蜜璃の刀の動きが好きです。

 ではもともとの原作の魅力はなにか。マンガ新聞のレビュアーの方々が渾身のレビューを書いているので、いまさらかなーと思いつつも私見をいくつかまとめていきたいと思います。

 

 ひとつは時代設定です。鬼滅の刃が舞台とする大正時代は、明治維新を経て近代化が進むと同時に、まだ江戸時代からの前近代的な考えも残っている時代。そのため、戦いにおいて、刀と銃が混在していても違和感がありません。ラスボスの力を弱めるために医学という科学技術を使いつつも、主要キャラクターの間の連絡はカラスにしゃべらせるということができるのです。

 

 もうひとつは「敵」の設定の仕方です。炭治郎視線で読んでいると、妹を鬼にし、家族を殺した鬼は許せません。しかし物語が進むにつれて鬼側の事情が明らかになると、読者は単純に鬼を憎みにくくなっていきます。しかも鬼は別に人間が憎いとか人間を滅ぼしたいとかは思っているようには描かれていません。もちろん暴走する鬼はいると思いますが、基本的に鬼が人間を食べるのは身体を維持するため=ご飯です。被害を受ける人間が一方的に鬼を憎んでいて、共存するには鬼が食事をやめるしかないという。戦いは単純な善悪二元論では起きないことをうまく描いているなと思いました。

 

人間の意思を上回る無常さ

 鬼滅の刃が興味深いのは、少年マンガの王道を走る週刊少年ジャンプにおいて、人間の意思、思い、願いのはかなさを前面から描いていることです。「強い意志を持って頑張ればやり遂げられる」というのが必ずしも達成できるわけではないというのを要所要所で突き付けつつ面白さを維持するバランス力が抜群です。

 

 これを象徴するのが、少年マンガやバトルマンガであれば生き残るであろうキャラクターが物語から脱落していっていることです。一人は炎柱の煉獄杏寿郎。(というか、炎柱の後継者どうなっているのですかね)物語の初期に出てきて、主人公の炭治郎と同じ炎の系統ということで師匠的存在になりそうだったのですが、戦いの中で命を落とします。人格的にも能力的にも少年マンガ的には明らかに主要キャラクターの先達になるはずだったのが、あまりにも早い退場でした。そのためのちのち炭治郎は、修行に苦労することになります。

 

 もうひとりは炭治郎が属する鬼殺隊の最高管理者で柱を束ねる産屋敷耀哉。鬼殺隊のメンバーを慈しみ、ラスボスとの戦いの戦略をまとめながらも、志半ばでこの世を去ります。ラスボス中に味方側の最高責任者が変わることに驚きました。

 

 もちろん、彼らの意思は残されたものに引き継がれています。それでも一人の人間の意思とか思いの強さとかはそれを上回るものにあっけなく崩される無常さを感じずにはいられません。

 

 ここに炭治郎の存在意義もあります。ポジティブさの塊のような炭治郎がいるからこそ、読者が感情移入しうるキャラクターが相次ぎ消えて行っても、読み続けるモチベーションを維持できるのです。

 

 ということで「少年マンガって強い主人公が力で敵を倒していくストーリーでしょう?」と考えている方にこそ読んでいただきたい少年マンガです。

 

 

鬼滅の刃 18 (ジャンプコミックス)
無料試し読み
著者:吾峠 呼世晴
出版社:集英社
販売日:2019-12-04