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思春期のエロさとイタさとやるせなさ。『ハートを打ちのめせ!』

ジョージ朝倉が目指したのは、「中学生のロマンポルノ」

思えば、思春期なんてそんなに美しいものではなかった。

イタかったり、やるせなかったり、やり場のない性欲や好奇心をもてあましていたりした。

そんなリアルを真っ向から描き、暴力的なほどエネルギッシュなのに繊細な「あの頃」を、スピーディに描き切ったのが、この『ハートを打ちのめせ!』である。

 

『溺れるナイフ』や『ピース オブ ケーク』のジョージ朝倉が、「目指したのは中学生のロマンポルノ」というだけあって、たしかにけっこうエロいシーンも出てくる。

 

まるでサルのように…

中学生がサルみたいにやりまくっていたり、そのセックスシーンを友人にのぞき見させる、なんていうドギツイ話も出てきたり。

かと思えば、浮いた話も何もない女の子が妄想の彼氏像を作って吹聴する、

というイタいエピソードも出てきたり。

 

けれど、そこはやっぱりジョージ朝倉。

どの話も自分の思春期とはまるで違うのに、どれも自分自身の話のような気がしてしまう。

印象的な絵とセリフまわしにぐいぐい惹きこまれ、懐かしくてせつなくて胸が痛くてきゅんきゅんするのだ。

 

セックスは何かラブっぽい

「大好き で どうすりゃいいのか 悪い頭で考えた」

というリズム感も内容も最高すぎるモノローグで始まるこの物語は、ある中学校で起こる出来事がオムニバス形式で描かれていく。

 

冒頭のエピソードは、女子中学生・根岸と、野球部の荒井の恋のお話だ。

荒井に片想いしている根岸は、「悪い頭で考えた」結果、「夏休みだけでいいから」と、ある夜、荒井に体の関係を提案する。

 

中学生でありながら、いや中学生だからこそなのかもしれないけれど、心を通わせるより先に2人はセックスに溺れることになる。

 

「いいや セックスって 何か裸で 何か共同作業で 何かラブっぽいし」

 

と、当初はそれによって安心を得ていた根岸の恋心は、やがて激しい不安へ変わっていく。

 

「ラブっぽいだけで なんもない」

「学校はじまったらきっと瑠璃とうまくいっちゃうね」

「どうこらえりゃいいの この 猛る想いは」

 

そんな根岸の不安は、思春期特有の思い込みの暴走に変わり、ある破壊的な行動へ向かう。

 

しかしそこもやっぱりジョージ朝倉。描かれていることは暴力的なのに、「青春だなあ」と、清々しさや郷愁さえ感じてしまうのだ。

 

クズも野球部も優等生も、みんな一緒に青春していた

 

そして物語は、リレーのように主役を交代しながら進んでいく。

根岸の次の話は荒井が主役で、またその次は瑠璃が主役、というように。

視点が変わると、同じ人物や出来事に関しても、まったく違う捉え方で描かれる感じは、黒澤映画の『羅生門』や、有吉佐和子の小説『悪女について』の手法にも似ていて、人間の一元的ではないものの見方や奥深さを楽しむことができる。

 

また、舞台が中学校だということもあり、主人公たちの属性は実に多様だ。

優等生や野球部員の近くに、どうしようもないクズで不良の男子(でも中学ではカッコいい一軍)がいる状況は、大人になるとあまり見られなくなっていく。

 

そうだ。

あの頃は大人の世界とは全く違う価値観の中で、こんな風に、誤解しながら、勘違いしながら、恋したり、傷つけあったりしながら、生きていた。

 

読み進めるにつれ、心の奥底に封印した「イタイ自分」と向き合い、肯定し、浄化させられるような気持ちになる。

 

2001年の作品だが、いま読んでもそのおもしろさは色褪せることがない。

本当によくできたストーリーなので、映像化してほしいと思うくらいだけれど、中学生が裸になってやりまくる話……。

 

いまの日本じゃ無理でしょうね……。

 

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ハートを打ちのめせ! 1 (Feelコミックス)
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著者:ジョージ朝倉
出版社:祥伝社
販売日:2002-07-08