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性欲の果ての国際結婚?人身売買?から始まる恋を描いた『愛しのアイリーン』【全2巻】

こんにちは。神保町にある「漫泊=一晩中マンガ体験」MANGA ART HOTEL代表の御子柴です。

 

今回は、国際結婚や人身売買などの社会問題に切り込んだ強烈な作品『愛しのアイリーン』のレビューを書かせて頂きます。

 

 

愛しのアイリーン[新装版] 上
無料試し読み
著者:新井 英樹
出版社:太田出版
販売日:2010-12-15
愛しのアイリーン[新装版] 下
著者:新井英樹
出版社:太田出版
販売日:2011-01-20

 

 

この作品はなかなかに露骨な性表現や差別的と取れてしまう発言も多いので、時間をとってゆっくり最後まで誤解無きように読んで頂きたい作品だと最初に申し上げておきます。

 

田舎の閉塞感の中に芽生えた恋

物語の舞台となるのは、1995年ごろの長野県の農村部です。

主人公の岩男は鬱憤が溜まりまくった毎日を送りながらも、「恋」という誰もが与えられた自由の特権にオアシスを感じながら生きていました。

 

しかし、その恋にも破れます。そしてその失恋のショックを、恋愛ではなくあれは性欲だったと自分に言い聞かせながら「自分が失ったもの」を誤魔化す岩男。

そして、そんな岩男をいつまでも愛でたい母親と、 息子に自立してほしいが痴呆になってまともに会話が出来ない父親が重要な役割として登場しています。

 

親子3人がひとつ屋根の下で暮らしていましたが、岩男の失恋のショックを癒すため「お金を出して結婚をする」という手段に出ます。

その思惑には岩男の有りあまる性欲の捌け口と失恋で「失ったもの」を取り戻す目的とが入り混じっていました。

 

これはある意味人身売買とも言えることです。

「お金を出して結婚すること」。

これを可能にするため目を付けたのがフィリピンからの花嫁。こうしたことができるのも、フィリピンだからこその複雑な社会環境が合わさっているからですが、ここにパシッとはまる条件のアイリーンがやってきます。

 

マニラのゴミ山から脱して家族を助けたい、養いたいとするアイリーンからしても、岩男一家への嫁入りはお互いの利益が一致しているものだったのです。

 

と、ここまでがプロローグになりますが、この作品の良さのひとつとして、 強烈なキャラクター像があります。

 

全てを内側に溜め込み、不器用でコミュ障なアウトプットを繰り返す主人公の岩男

極めて不器用で、感情を自分の内側に溜め込んでしまう主人公。

女性との会話経験もろくになく、目も真っ直ぐに見ることができない。

それでも、恋というものへの無垢な期待と性欲が、田舎の閉塞感のなかで鬱憤したエネルギーとして溢れ出している山のような大男の42歳です。

 

息子への屈折した愛情で息子を囲い込みたい母親

保守的で人種差別的。 息子のためなら、職場に突入して、息子を弄んだ女に殴りかかるほどです。

 

田舎の悶々とした窮屈な鎖の中にいながらも、ひたすら性欲を抑制できず、突き進む息子を見守る母親のつるも、この物語にはなくてはならない重要人物。

流産を続け、3人目にして念願の息子を授かった母親のつる。その息子への狂気に満ちた愛情は、闇の世界の住人との接触すらもたらします。

 

己の強固な価値観で岩男の幸せを決めようとする母の正義も「田舎っぽい」表現に表されています。

 

マニラの家族を助け、ちょっとだけの幸せを求めるフィリピン人のアイリーン

マニラのスモーキー・マウンテンで育ち、幼い弟や妹、家族のために国際結婚を選ぶアイリーン。「愛する人に私のヴァージンを捧ぎたい!」という天真爛漫な少女のような18歳です 。

 

慣れない日本での孤独な立場や、コミュ障かつ性欲の塊の岩男に嫌気を感じ、母国へ帰りたい気持ちも沸き上がるものの、徐々に不器用ながらも夫婦はお互い分かり合い始めます。

 

 

Ⓒ新井英樹/太田出版 

 

そして動き出す物語

物語の終盤に2人の人生を地獄へ誘うある事件が起きます。

今回の結婚が普通の国際結婚とは違うグレーな取引であるため、この出来事が裏の世界の住人とのイザコザを生んでいくのです。

 

この作品は昨年に映画化をしておりまして 『2人で歩む、地獄のバージンロード』という映画の帯が付けられています。

本当にその通りですが、地獄であるがゆえに二人の結びつきはドラスティックに急速により強固なものになり、それが結果的にお互いの想い合う気持ちへと昇華していくように感じ取れます。

 

最終的にこの事件から5年後が描かれますが、最後の一コマは涙なしでは読めない、打ちひしがれるほどの感動を生むので、卑猥で露骨な表現が多い作品ではありますが、 是非最後まで読み切ってほしいと思います。

 

この作品は国際結婚(人身売買?!)が始まりの物語。いろいろな恋の始まりはありますが、命をかけて、全てをさらけ出して全力で体当たりしあう二人の心模様から目が離せません。

 

 

Ⓒ新井英樹/太田出版 

 

 

『愛しのアイリーン 新装版』 は MANGA ART HOTEL に【全上下巻】が置いてあります

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