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生首と少年が「生きるとは何か」を学び合う、異色の学園マンガ『人間入門』

「他者は自分の鏡」とも言われるように、他者の目を通して自分の知られざる一面に気づくことはよくあることです。

 

物語の世界では、「人間とは何か」「生きるとは何か」を気づかせてくれる“他者”として、しばしば“人間とは似て非なる者”が登場します。例えば、『ブレードランナー』のレプリカント、『フランケンシュタイン』の怪物、『鋼の錬金術師』のホムンクルスなどが、それにあたるでしょう。

 

今回ご紹介する『人間入門』も、“人間とは似て非なる者”が人間の“他者”として、「人間とは何か」「生きるとは何か」を気づかせてくれる物語です。

 

 

無気力な少年と無邪気な生首の、奇妙な学園生活

突如として出没し始めた、人間の頭部に似た生物・ニューモン。

政府の特殊研究機関も「ただちに害はない」と発表するのみで、はじめのうちは市民たちもこの正体不明の生物に対して、不安や不満を募らせていました。

ところが、年月が経つにつれて市民の恐怖感は和らぎ、ペットのようにニューモンを飼う人たちが現れます。

 

そんな中、主人公の遠井青(とおい・あお)は、山の中で1頭のニューモンと出会います。

それは、生まれたときから無気力な青が、人生に意味を見出せないことを理由に、自殺しようとしたときのこと。

青は、頭部だけで生きているニューモンという存在のでたらめさに、なぜか心を動かされ、自殺をやめるのです。

 

©Sei Ishikawa/講談社

 

 

©Sei Ishikawa/講談社

 

 

 

生首からとって、「まくび」と名付けられたそのニューモンは、青と一緒に学園生活を送り始めます。

 

新たな人間観の模索

青は、まくびが周囲の人間からの影響を受けながら、少しずつ成長していることに気づきます。これまでは人と積極的に関わろうとしてこなかった青ですが、まくびの成長のプラスになるならと、様々な人と交流を持つように。

 

多くの人と関わるようになったことで、気がつくとまくびだけなく青自身も、自然と人々から「人間とは何か」「生きるとは何か」を学びとっていきます。

 

数あるエピソードのなかでも、筆者にとって最も印象的だったのは、世の中のことを「何でも知っているらしい」生徒会長・天井とのエピソードです。

 

青と同じく、ニューモンを育てている天井。ところが、青と天井のニューモンへの接し方は正反対でした。まくびにひとつでも多くのことを吸収させようとする青に対して、「幸せとは世界の何も知らないこと」だと考える天井は、ニューモンを布で覆い、すべての感覚を遮断させています。

そして、まくびにこれ以上何かを教えることは止めるように助言するのです。

 

©Sei Ishikawa/講談社

 

©Sei Ishikawa/講談社

 

 

 

大切に育てているニューモンと自分の運命が「バッドエンド」だと聞かされたら、瞬発的に怒ってしまいそうな気もしますが、青は違いました。怒るどころか、「これから幸せにならなくてもいいんだ」と安堵するのです。

 

現代には、様々な人生観・幸福観にまつわるメッセージで溢れています。

「いい大学、いい会社だけが幸せじゃない」「好きなことを仕事にしよう」「自分らしく生きよう」……。

 

世の中全体の金銭的なゆとりが増え、日々の食い扶持だけでなく、人生について・幸福について、より多くの人が考えを巡らせるようになったことは、素敵なことかもしれません。

ですが、こうしたメッセージにより、不安や焦りが生まれてしまう人は少なくないのではないでしょうか。

 

好きなものがない人、やりたいことがない人、自分らしさがわからない人、何をしても幸福感が得られない人……。

筆者も、就職活動をしていた時は“120%の幸福を達成する仕事を見つけなければならない”と、必死に自己分析をしようとするものの、結局自分は何がやりたいのかわからずに焦った記憶があります。

 

幸せなんて、目指さなくてもいい。ただ、淡々と生きているだけで充分だ。

『人間入門』は、幸福を求めすぎて疲れてしまった人に、こう言って救いの手を差し伸べてくれるような作品です。ぜひ一度、読んでみてください。

 

 

♪コヤマの勝手にテーマソング♪
そなちね―Tempalay

 

 

人間入門(1) (モーニング KC)
著者:石川 聖
出版社:講談社
販売日:2019-09-20