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あなたの描く線は、あなたそのものであると教えてくれた水墨画マンガ『線は、僕を描く』
線は、僕を描く(1) (講談社コミックス)
著者:堀内 厚徳
出版社:講談社
販売日:2019-09-17

 

 

突然ですが、あなたは「墨」をすったことはありますか?

 

恐らく小学校の授業などで墨汁や硯、筆などは使ったことがあると思います。

ただ、墨をすって使うことはない人もいるでしょう。

 

 

ぼくは9歳の頃に習字を習っていたので、一度だけ自分ですったことがあります。

墨を使って習字をするのは思った以上に大変で、水で上手に濃さを調整できないと、濃すぎたり薄すぎたりして良い色を出せません。ぼくも結局、水を入れすぎて薄くなりすぎてしまったことを覚えています。

ただ、兄弟子の人たちは、みんな自分で墨をすり、最適な濃さを作り上げて筆にしみ込ませていました。墨をする時も書く時も、みな集中して目の前のものに向き合っていたのが、今なお印象的です。

 

そうやって描かれた書は、人によって本当にそれぞれ違う味を持っていて、何ひとつ同じものはありませんでした。

大胆なもの、慎重なもの、真面目なもの、ユーモアのあるものなど、たとえ同じ人が書いた書であっても、ひとつひとつが別の良さを持っている。

それはおそらく、それを描き出したときの本人の精神や思想が乗り移って、線となって表れていたからでしょう。

人が描き出す線には、その人そのものが宿っていることを、僕はその経験から学びました。

 

今回ご紹介する『線は、僕を描く』というマンガも、ひとりの人間が描き出した線を通じて、お互いを知り、そして交流を深めて、人間としての成長する姿を描いた青春ストーリーです。

あらすじを以下に記載してから、その魅力をお伝えしたいと思います。

 

 

青春×水墨画! それは、“白”と“黒”で“宇宙”を描く芸術。墨と筆を道連れに、傷だらけの少年は、生命を取り戻す旅に出る。前代未聞の本格水墨画漫画!


「そう、水墨画。かっこいいだろう?」。大きな喪失感の中で生きる大学生・青山霜介は、水墨画の巨匠・篠田湖山に突然弟子にされてしまう。芸術のことなど何一つ知らなかった霜介は、たちまち見知らぬ世界に魅了されていく──。青春と芸術、成長と恢復の物語。前代未聞の本格水墨画漫画!

講談社コミックプラスより)

 

 

「線」を通じてぼくらは分かりあう

このマンガのキーとなるものは「水墨画」です。

水墨画というと、歴史の教科書などで雪舟や、美術館で飾られているものを見たこともあるのではないでしょうか。

 

墨と筆だけを使って、モノクロながらも幻想的で、時に力強く、時にはかなく世界を描き出す芸術作品。水墨画自体は、普段のぼくらの生活にはあまりなじみのないものかもしれませんが、墨と筆ということでしたら、少し身近なものになるでしょう。

 

そんな水墨画に主人公が出会い、それを通じて様々な人たちと交流を深めていくようになってから物語は動き出します。

 

不幸に見舞われて大きな喪失感を抱えて生きることになってしまった主人公が、墨をすり、筆をもって絵と向き合うことで、自分の周囲の世界、そして水墨画とともに生きる人たちと心を通わせ孤独を徐々に癒していく。

 

たとえ言葉を交わさずとも、その人がいま何を思っているのか、どう感じているのかを絵から読み取り、お互いを理解する。

不器用な生き方しかできない人の心に寄り添ってくれる優しさが、このマンガには込められています。

 

主人公と同じように、不幸なことで大きな傷を負ってしまった人がこれを読むと、傷ついた心を癒せるきっかけのようなものが得られるかもしれません。

主人公が水墨画を通してどのように自身と、そして世界と向き合っていくか、一緒にのぞいてみませんか?

 

>>>無料試し読みはこちら

 

線は、僕を描く(2) (週刊少年マガジンコミックス)
著者:堀内 厚徳 監修・原作:砥上 裕將
出版社:講談社
販売日:2019-11-15

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