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永遠に読んでいたくなる愛しい世界『メタモルフォーゼの縁側』

BL、独居老人、女子高生。

でもそんな要素と真逆な世界観。

 

『メタモルフォーゼの縁側』のおもしろさを、端的に伝えるのは難しい。

「BL」「独居老人」「女子高生」と、雑に要素を抽出してしまうと、このマンガの一番肝心な世界観とは真逆の印象を与えてしまうことだろう。

 

かと言って「75歳のおばあさんと17歳の女子高生が、BLマンガを通じて仲良くなる話」と少し丁寧に説明しても、このなんともいえなく染み渡る良さは伝わらない。

「世代を超えた友情物語」とか「好きなものを通じて繋がる関係性」とか、どれも正しいんだけど、どれもなんだか物足りない。

うまく説明しようとすればするほど、うまく伝わる気がしない。

つまり、このマンガのおもしろさって、きっとすごく新しい「それ」なのだと思う。

 

「このマンガがすごい!オンナ編」1位を取った話題作

 

『メタモルフォーゼの縁側』は、2017年11月より、コミックNEW TYPEでネット配信されている作品だ。

SNSで話題を呼び、2019年『このマンガがすごい!オンナ編』で1位に選ばれるなど、数々のマンガ賞を席巻。

いまは3巻まで単行本にもなっている。

 

物語は、75歳の市野井雪さんがふと立ち寄った書店でBLマンガをそうと知らずに「きれいな絵」と手に取ってしまうことから始まる。

その書店でバイトしている17歳の佐山うららは、BLマンガ好きの高校生だが、高校ではそうした趣味を分かち合う友だちがいない。

唯一、仲のいい幼馴染である「つむっち」は、最近なんだかかわいい女の子と一緒にいて、どうも話しかけづらくなってしまった。

 

そんな2人が、その市野井さんが買ったマンガをきっかけにどんどん仲良くなっていく話なのだが、ストーリーは非常にゆっくりと繊細に進んでいく。

たまにうららがつむっちに対する恋心のようなものを露呈させたり、2人でマンガのイベントに行ってマンガの作者に会ったりするくらいで、たいした事件はほぼ何も、なーんにも起こらない。

 

地味な2人の紡ぐ世界が、どうしてこんなに愛しいんだろう。

 

そもそも75歳の独居老人と、17歳のちょっとオタクな女子高生。

あまりにも地味なキャスティングだ。

読者は、この地味な2人の日常を、延々と読ませられ続ける。

市野井さんが小豆を炊いたり、マクドナルドの階段をふうふう登ったり、うららが同級生の中でどんどん「一軍」になっていくつむっちと心理的距離を感じたり、そんな2人が時折会って、市野井さん宅の縁側に座り、BLマンガの感想を話し合ったり。

けれどそんな2人の世界観が、なぜか無性に愛しくなってしまう。

なーんにも起こらない日常が、泣きたくなるほどやさしくて切ない。

それがこのマンガの不思議な魅力なのである。

 

もしかしたら、この鶴谷香央里さんのストーリーテリングには、現代人が知らないうちにすり減らしている何かを癒すような力があるのかもしれない。

自分の中が「治っていく」ような感覚といえばいいか。

そしていつのまにか、読み終わりたくないと願っている。

この暖かい縁側に、永遠に座っていたくなるのである。

 

 

メタモルフォーゼの縁側(1) (単行本コミックス)
著者:鶴谷 香央理
出版社:KADOKAWA
販売日:2018-05-08
メタモルフォーゼの縁側(2) (単行本コミックス)
著者:鶴谷 香央理
出版社:KADOKAWA
販売日:2018-11-08
メタモルフォーゼの縁側(3) (単行本コミックス)
著者:鶴谷 香央理
出版社:KADOKAWA
販売日:2019-06-08