TOP > マンガ新聞レビュー部 > アルコール、ギャンブル、ドラッグが止められない理由『だらしない夫じゃなくて依存症でした』

アルコール、ギャンブル、ドラッグが止められない理由『だらしない夫じゃなくて依存症でした』

田代まさしさんが覚せい剤所持で逮捕されたニュースが駆け巡ると、同時に薬物依存の実態やガイドラインについての情報も私たちの元に届きました。 

 

しかし、身近に依存症の方がおられないのであればともかく、有名人や著名人のニュースだけでは、なかなか依存症についての理解が進みづらいのではないでしょうか。 

 

Webマンガ『だらしない夫じゃなくて依存症でした』は、夫がアルコール依存症を認知し、妻や周囲のひとたちとともに回復していくまでを、詳細に描写しながら、わかりやすく私たちに解説してくれます。現代社会において子どもから大人まで、依存症を知るひとから他人事のひとまで幅広く読まれるべき漫画です。 

 

意志の問題ではなく、脳の病気 

何かよくないことにはまってしまっているひとがいるとき、「止めなよ」「わかった止めるよ」と、あたかも意志の問題であるかのように私たちは考えがちです。 

 

しかし、依存症は脳の病気であり、「報酬系」と呼ばれる脳回路の刺激によって身体が反応します。脳機能によって制御されるべきところが、うまく作動しないがゆえ、意志とは無関係であること。

つまり、脳の病気であることがリアルにわかります。 

 

依存症は「止める」ことより、「止め続ける」ことが難しい病気のため、アルコールを止められた夫のその後に、止め続けることができなかったシーンも出てきます。

あくまでも個人の意思や責任感ではなく、脳の病気だということが繰り返されるなかで、本書の読み手はアルコールやギャンブル、薬物にはまっているひとたちに対する視点が変化していきます。 

 

では、周囲の人間には何ができるのか 

妻である主人公は、夫がアルコールにはまっていくとき、依存症や脳の病気であることを知りません。そして、知識として入っても、自分の夫がそうであることは認められず、もっとひどいひともいるよね、という形で夫の依存性、病気であることから目をそらします。 

 

朝から飲んでいる、職場で飲んでいる、飲んでないと嘘をついて飲んでいる。そんな夫に対して、ストレスを溜め、怒りをぶつけます。また、少し冷静になってはロジカルに、アルコールの危険性を説いたりします。 

 

そして夫を想うがゆえに、空っぽの酒瓶を片付け、自宅のドア付近で酔いつぶれる夫を介抱し、迷惑をかけた方々のもとへ謝罪をします。きっとこれは私たちでも普通にやることでしょう。

なぜなら、夫を愛し、夫のが前の夫に戻ることを信じているからです。自分だけは最後まで寄り添っていこうという気持ちがあるからです。 

 

夫はそのような言葉や行動に追い詰められ、逃げ場を失い、アルコール依存の内側にある自尊心が削られていってしまうのです。 

 

主人公である妻は、薬物依存から回復した友人、ギャンブル依存から立ち直り続けている上司の助言に耳を貸すようになり、保健所・精神保健福祉センターなど専門機関に足を運び、断酒会など自助グループにも参加します。 

 

そのなかで、具体的に周囲の人間がやるべきこと、やらないほうがいいことなどを学び、少しずつ夫との関係性を再構築していきます。

よかれと思ってやっていた行動が、専門的見地からは的外れであり、しっかりとした応対方法を学び、実践してからの変化は、きっと実世界のここかしこで起こっていることだと思います。 

 

依存症の裏側にあるもの 

何かに依存するひとのなかには、心に穴がぽっかり開いていることがあります。それは幼少期からの暴力やネグレクト、削がれ続けた自尊心などに起因します。 

 

愛着形成がうまくなされないままに大人になり、周りからは何の問題がなさそうであっても、本人の心の穴は埋めるべき何かを無意識に求めているのです。 

 

そこにやりがいのある仕事、幸せな家庭、恵まれた環境などが入れば、その穴は豊かな資産で埋まります。しかし、その穴を埋めるものがアルコールやギャンブルであるとき、心と「脳」と身体はそれらに支配されてしまうのかもしれません。 

 

本書からは大きな学びがたくさんあります。アルコール依存症の夫と妻、そして依存症専門機関の間に、多くの理解者や仲間が存在していることです。

妻の話をただただ聞き続ける友人、部下の依存症に対して会社としてできることをする上司、そのような周囲の理解と励ましによって、夫婦は専門機関とつながり、夫婦や家族だけでなんとかしなければならないという呪縛から解き放たれます。 

 

『だらしない夫じゃなくて依存症でした』は、依存症を漫画を通じて学ぶことのできる側面と、私たちが私たちの家族や友人、知人を守れる人間になるための教養という側面も持ち合わせた稀有な漫画です。 

 

単行本の発売は2020年2月18日です。

 

このレビュアーのほかの記事

■ひきこもる子供部屋前に毎日三食を置く母親が、ある日異変に気づく『ねぇ、ママ』

■死刑制度に反対ですか?賛成ですか?を『モリのアサガオ 番外編』読んだあなたに改めて問いたい

■若手社員の育成に悩むあなたの虎の巻 『今どきの若いモンは』

 

だらしない夫じゃなくて依存症でした
著者:三森 みさ
出版社:時事通信出版局
販売日:2020-02-18