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『ワンピース』に迫る売れ行きなのに誰も説明できない『鬼滅の刃』の魅力を解説!

こんにちは!東京ネームタンク代表のごとう隼平です。
マンガ文法を広め、マンガ作りをもっと楽しいものにしていくために、マンガスクリプトドクターとしてYoutubeも更新中です。漫画家視点、マンガの制作側から見てオススメの漫画をご紹介して参ります。

今回ご紹介するマンガは……
『鬼滅の刃』

今もっとも注目の作品と言ってもいいかもしれない『鬼滅の刃』……週刊少年ジャンプの作品ですね。

単行本はこの記事執筆時で17巻まで出ています。アニメ化とともに?人気に火がつき書店では品切れ続出、入手困難になってます。『ワンピース』に迫る勢い、というとそのすごさが伝わるでしょうか。最新の売上は肉薄しているようです。

どんな話かとざっくり紹介すると、と言ってこれがとても難しく、ざっくり紹介しにくいのです。

大正時代、妹が鬼となってしまった少年の活躍を描いていく物語……

と言っても全然面白さが伝わりませんよね……

そうなんです分かりやすくキャッチーな企画の魅力で売っていく作品ではありません。「面白いから騙されたと思って読んでみて!」とお願いしたくなる系の渋い魅力を持った作品です!
 
 

多くの人がジャンプっぽくないという…その実これこそジャンプという作品

『鬼滅の刃』を語る多くの人が「ジャンプっぽくない作品」と言います。

その理由はあとでも触れたいのですが、僕自身はこれほどジャンプらしい作品ないな……と思いながら読んでいました。

具体的にどのあたりかと言うと、

『ドラゴンボール』にも通じる、実在感のある敵の作り方と、テンポの良さ。

『ドラゴンボール』の特徴は、敵が遥かに格上の強さを持ち、かつ「実在感」があることだと思ってます。これはとても難しく、なぜなら敵を強くするということは、反比例してリアリティが失われがちだからです。

『鬼滅の刃』の敵である鬼も、人間ではおおよそ勝てない遥かに格上として描かれています。その上で本当にそこにいるかのような実在感があり「こんなやつにどう勝てばいいんだ……」と読者に心底からの怯えを与えます。

また出し惜しみせずどんどん出来事を進めていく、次々状況が変わるテンポ感。展開が遅い漫画が多い中、すでに最終局面に入ろうとしているこのテンポは16巻くらいでサイヤ人編に突入していた『ドラゴンボール』を思い出しました。

 

また、

 

『ワンピース』にも通じる感情の振り幅。

『ワンピース』の特徴は、その他の作品に比べさまざまな感情が入っていることだと思ってます。とくに「マンガ技術研究会」で一緒に研究している富川三航さんによる分析から(※note記事参照)『ワンピース』は他の漫画に比べて「悲しさ」の感情が多く入っていることが分かってます。

『鬼滅の刃』でも「切なさ」「悲しさ」という要素によって読者の心を揺さぶっているのは間違いありません。しかもこれは、きっと『ワンピース』以上にコンスタントに。ワンピースに迫る理由が分かります。

※note: 売れてるマンガの分析(PC閲覧推奨) 無料部分
※note: 売れてるマンガの分析(PC閲覧推奨)

 

他にも多くは語りませんが、

 

・『BLEACH』にも通じる、魅力的な隊長のいる部隊の良さ。
・『ジョジョ』にも通じる、吉良吉影的なラスボスの魅力。
・うすた京介先生作品にも通じる、シュールギャグ。
・『HUNTER×HUNTER』にも通じる、系統に分かれるのオーラ(呼吸)の概念。

 

など「ジャンプってこういう感じ!」というのがふんだんに入っていると感じます。

そしてなによりも、みんなが知っている少年ジャンプの哲学「友情・努力・勝利」であること。
この3つが完璧に揃い、魅力となっている作品は実は珍しいのではないでしょうか。
 
 

主人公の炭治郎がとてもよい

主人公の炭治郎がとても魅力的で、しかしその魅力も一言で説明するのは難しいです。僕はその魅力の要因として、彼の「自分自身の肯定」にヒントがあると思っています。

第3巻に、自分自身を鼓舞するシーンがあるんですね。

 

「頑張れ!炭治郎頑張れ!俺は今までよくやってきた!俺はできるやつだ!」

 

ジャンプに限らず、これまでの少年漫画のキャラクターは、自分の実力のなさに苦悩し自分自身を責めるタイプが多かったのではないでしょうか。

それがこの現代、うまく生きられず自分自身を責めて辛い思いをしている人が多い中で、そんなに自分を責めなくていいんだと、自分自身を褒めていいのだと、その生き様が赦しや救いとなり、響いているのではないかと予想しています。

この話はYoutubeでも話してますので、よかったらご視聴ください。
Youtube【鬼滅の刃】これまでの漫画と違う主人公炭治郎の魅力とは。
 
 

『鬼滅の刃』の真の魅力は、その「死生観」にある。

もちろん主人公の炭治郎やその他のキャラクターがとても魅力的で、切なく強いドラマがいいのは当然です。
しかし、それだけでは『鬼滅の刃』の魅力の半分だと思います。

もう一度、なぜ読む人の多くがジャンプっぽくないと思うのか。

上にあげた通り、実は要素としてはジャンプの王道を揃えているはずなんです。僕はこの理由として、読者が無意識に受け取っている最大の魅力が、これまでのジャンプ作品と違うからなのかなと思っています。

答えとして……

ここまで「死」をリアルに描いた作品がなかったこと。と僕は考えています。

『鬼滅の刃』ではまず世界観がとても丁寧に描かれ……まさにその世界が現実にあるように錯覚すると思います。村や人々の暮らしぶり、細部にいたるまでしっかりと描写されていますよね。

『鬼滅隊』が政府公認ではない、帯刀すら認められてない、という設定にも脱帽しました。普通だったら「政府公認の鬼退治専門の特殊部隊」とかやっちゃいませんか。もちろんそういう作品の良さもありますが、リアリティという意味では、前者が圧倒的と思います。

そうやって世界そのものがまるで現実であるように思わせ、さらにその「死」の描き方。

これが少年誌では他に見ないほど、しっかりと描写されていると思います。あっさり死ぬときは死にます。しかしその死は簡単に蘇ったり、覆ることはありません。

味方も敵も主要なキャラクターは、みな死を意識し、自覚的に死んでいきます。少年誌でここまでしっかり「死にゆく様を丁寧に描いていく作品」はなかったのではないでしょうか。

 

実は1作品思い当たっているのがあって、それが『ドラゴンボール』です。ドラゴンボールの死生観もかなり特殊で、めちゃめちゃドライなんですよね。「死」に対して「大丈夫だ!ドラゴンボールで生き返る!」という発想。

しかし「死」を魅せるという意味では近いのかもしれません。死に際に人がどういう気持ちになるのか、興味のない人間はいません。本能的な欲求を強く掴んでいると思います。

 

人はその死に際に、その人生を振り返ります。現時点での悩みではなく、過ぎ去った過去の未練や後悔に、人はどう決着をつけ死んでいくのか。そこにある言いようのない感動を『鬼滅の刃』は描きます。

「死に際の魅力」

このあたりがジャンプっぽくないという感想につながり、かつスーパーヒットに繋がるヒントではないかと思っています。

 

 

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
販売日:2016-06-17

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