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「25年間の思いから解放された」新井英樹×堀江貴文 映画『宮本から君へ』公開記念トークショーレポート【後編】

2019年10月6日、角川シネマ有楽町にて、現在劇場公開されている映画『宮本から君へ』のトークイベントが行われた。対談するのは原作者である新井英樹氏と、原作のファンであり以前から新井氏と親交のある、ホリエモンこと堀江貴文氏である。

 

ぴあが発表している映画初日満足度ランキングで第1位を獲得し、その他、数々の著名人から絶賛のコメントが届いている本映画。それを観てお二人が何を思い、そして語ったのか、今回は当日の模様を前後編にてお届けする。(※なお、内容は一部編集されており、話の流れなど実際のトークショーとは異なる部分があることを予めお伝えいたします。)



トークショーレポート【前編】を読む

 

 

 

 

堀江貴文(以下、堀江)氏:

新井さんと初めてお会いしたのって、多分2010年くらいだったと思うんですけど、そのときはあんまり表に出てる感じではなかったですよね?

 

 

新井英樹(以下、新井)氏:

そうですね、20年間引きこもってる最中に六本木ヒルズで会いましたね。

 

 

堀江氏:

ほんと、そのときと印象がまったく違いますよ。

 

 

新井氏:

うん、たぶん、いまより30キロぐらい体重があった状態の俺が、六本木ヒルズでいまにも堀江さんに噛みつきそうっていう緊張感のなか話してる動画があります笑。

 

 

堀江氏:

そうそうそう、すごいの。だから、ぼく2010年に新井さんに初めて会って、そのあと刑務所に入るんです。で、出てきて2014年くらいにまたお会いするんですよ。そしたら、お互い30キロぐらいやせてて、まったく印象が違う対談になっている。あのときは『キーチVS』でしたっけ?

 

 

新井氏:

そう、『キーチVS』(*1)での対談が最初。それで、そのあと『空也上人がいた』(*2)が、堀江さんのやっていた「マンガHONZ」(*3)の大賞を頂いたので、イベントに呼ばれて再会したんです。そのとき、会うなり「どうしたんですか、なんかお坊さんみたいになっているじゃないですか」て言われましたね笑

 

 

 

 

―キャラクターを描かれるときに先生が何か意識されていることってありますか?

 

 

新井氏:

こっちが用意してる話に都合よく動かさないようにするってことですかね。出てくる人たちはそれぞれ自分が脇役だなんて思ってないから。主人公以外の脇役を描くのが楽しいのって、ストーリーに責任持たないセリフを書くことができるところだと思うんです。で、それで動かした結果、そっちが面白ければ準備してた物語は失くして、そのセリフに沿って進めていく。その方が、描かれた人が生きるっていう感覚があります。『宮本から君へ』は結構、自分が通ってた会社での話をベースに描いてたんで、自分が描いてきたマンガの中でも「ああ、この人こういうこと言うよな」とか「こんなしぐさだよな」っていうのがすらすら出てくる感じがありました。

 

ちょっと別の話なんですけど、実際映画にも出てくる、宮本が勤めるマルキタって会社、あれが、実際俺が勤めてた文具メーカーの建屋なんです。で、そこで会社勤めて一年くらいで辞めました。辞める前に、マンガ描きたいんですっていうことを小田課長のモデルになった課長さんに伝えようとして、今日ちょっと一緒に飲みに行ってくださいって誘ったんです。それで、しこたま飲んで酔っぱらって、店を出ようとした時に、課長が「お前がんばれよ」っていう感じだったから、「ごちそうさまです!」って言っちゃったんです。そしたら、課長はそのとき割り勘のつもりだったんだけど、「新井、今日は払うけどな!」て言って、おごってくれたんです。なので、いま、俺、夫婦で原画展(*4)やってて、この間京都であったんだけど、これはチャンスだと思って、30年ぶりにあの時のおごりを返すために、大阪の天王寺でそのときの課長に会って、おごり返してきたんです。それも、映画のおかげですね。

 

 

堀江氏:

へえ~、よかったですね、奇跡ですよね、ぼくも作品観れてよかったです。

 

 

新井氏:

本当に出来が、賛同してもらえると嬉しいんだけど、本当に奇跡の出来っていうか、すごいなあって思ってます。

 

 

堀江氏:

(客席に向けて)ちなみに原作読まれた方ってどれくらいいらっしゃいます?

 

 

―3分の2以上が挙手

 

 

堀江氏:

あ、すげえ多い。

 

 

新井氏:

ありがたいですね。あの・・・ぜんぜん遜色ないっていうか、すごい出来でしょう?

 

-一同拍手

 

 

Ⓒ新井英樹/太田出版 

宮本の上司にあたる小田課長。

面倒見がよく、暴走する宮本をいつもサポートする。

堀江氏:

あと、これ、ちょっと聞きたかったんですけど、映画の公開はラグビーワールドカップにあわせたんですか?

 

 

新井氏:

たまたまですね。だから、制作してる去年の段階で、「タイミングはバッチリだよ」って言われた笑。

 

 

堀江氏:

ええ!大丈夫なんですか?誰か知らないけど、よっぽどラグビー選手に恨みでもあるんじゃないのかなって思ってました。

 

 

新井氏:

俺、一応、高校の時ラグビーやってたんです。それで、たしか宮本を描いてる当時、大学ラグビー部によるレイプ事件が二つぐらいあったんですよ。

 

 

堀江氏:

ああ~、そういう当時あったことが、題材の一つになっているんですね。

 

 

新井氏:

そうそうそう、「運動すると性欲は解消される」っていう論理を「嘘だろ」って言いたかったんです。関係ないだろそんなのって。

 

 

堀江氏:

実は、会社経営者に元ラグビー選手って多いんですよ。それで、そいつらとたまに飲み会とかやるんですけど、みんな体がいまでもガッチガチなんですよね。たまに酔っぱらって、そいつらに襲われて無理やり羽交い絞めにされると、ぼくでもぜんぜん力が足りないですね。

 

 

新井氏:

ラグビーをやっている人って、体つきが人とちょっと違うでしょ。だから、自分で描いておいて、「中野靖子かわいそうだな~」って思いました。

 

 

堀江氏:

笑 いや、だから批判されるんじゃないですか!

 

 

新井氏:

そう、だから批判されるけど、いままで自分が描くと思ってなかったことに挑戦できたんです。当時のモーニングの編集長に、拓馬が中野靖子の部屋までやってきて、キスしようとして拒まれて逃げていくっていうのをネームで出したら、「これはこのマンガでは反則なんだけど、レイプさせないか?」って言われたんです。そのときに、「うわっ、中野靖子ごめん。でも、これで、やったことのないことを描くことができる」って思ったんですよ。これはちょっと、モノ作る人にとっては悪魔的な発想なんだけど、でも、絶対なんとか解決できるはずだって思って描き始めたんです。けど、描いてるうちに、宮本がどんなに頑張っても、中野靖子を救うことができないことに気づいたんです。どうすりゃいいのか分かんなくなって、それでも二人を別れさせたくないから、そのまま最後まで描いた。けど、映画の最後のプロポーズのシーン、これもさんざん他のインタビューのなかで答えているんだけど、素で蒼井さんが池松君のあのプロポーズに感動して泣いたって言ってたのを聞いて、中野靖子をこんだけ体現した人が、あの池松君を受け入れてくれたってことで、俺が「ごめん、中野靖子」って25年間ずーっと思っていたことが解消されたんです。

 

 

堀江氏:

いやー、それはよかったですね。

 

 

Ⓒ新井英樹/太田出版 

拓馬との決闘に勝った宮本が中野靖子にプロポーズするシーン。

拒む中野靖子とそれを全力でねじ伏せた宮本を、

映画では蒼井優氏と池松壮亮氏が熱演している。

そして、このシーンを演じた蒼井優氏が池松氏のプロポーズに

素で感動したという。

-ちょうどお時間になりましたので、最後に堀江さんと新井先生から一言ずつ頂きたいです。

 

 

堀江氏:

ぼくから言いますね。ぼく、マンガはすごくたくさん読むので、マンガ原作の映画もドラマも観るんですけど、だいたい途中で観るのやめちゃったり、映画も観に行かなかったりするんです。けど、この作品は、原作ファンが確実に観て楽しめる、感動できる、ハラハラできるっていう作品ですね。しかも、ぼくは原作を読んでいたので、ストーリーを知っているから最後どうなるかも全部分かっているんですけど、それでも面白かったですし、むしろ知っていた方が楽しめる部分もあると思うので、ぜひみなさん、お友達とか、周りの方々に「宮本、良かったよ」って言ってほしいですね。

 

 

新井氏:

本当に、関わってくださった人たちが一生懸命になってモノづくりしてくださったことを聞いているので、できる限り多くの人に観てもらいたいです。そして、その人たちに、ちゃんとモノ作ると、こんな見返りがあるんだっていう喜びを味わってほしいです。よかったら、みなさんの感想を広げてほしいっていうのがあります。今日はありがとうございました。

 

〈終了〉

 

【編集後記】

 

こうしてトークショーは幕を閉じた。改めて内容を振り返ると、この映画がどれだけ多くの思いによって支えられているかが分かる。

連載終了から25年を経てのテレビドラマおよび実写映画化、監督を務めた真利子哲也監督の熱意や演じた主演の池松壮亮氏や蒼井優氏含むキャスト陣の熱演、そして何より原作者である新井氏の思い。私自身、原作はもちろんのこと、テレビドラマも毎週視聴し、映画も公開初日に観たほどの『宮本から君へ』ファンとして、今回の実写化はとても素晴らしいものだった。

初めて観た時、私はものすごいエネルギーの塊をぶつけられたかのような感覚に陥った。しばらく地に足がつかないようなふわふわした心持ちでいたが、帰路につき、駅のホームで電車を待っていると、次第に心の奥底からドクドクとエネルギーが湧いてくるのを感じた。そしてこう思ったのである。「負けてたまるか」と。

約2時間映画を観ていくなかで、私のなかに宮本が完全に憑依してしまったのだ。世の中にはつらいことも理不尽なことも、自分だけではどうにもならないこともいっぱいあるし、それにへこたれそうになってしまうときもあるだろう。

だがしかし、己の筋を通す、裸一貫で逆境に立ち向かい、たとえ無様でも戦い乗り越えていく。そんな泥臭くも自分にまっすぐなやり方が、状況を変えていくこともあると信じている。そんな信念や魂を持った人物に、この映画を観てほしい。きっと共感できるだろう。

そしてもし共感したら、自分の身の回りにいる、それらの感覚に理解を示せる人にぜひ映画を勧めてほしい。みんなでこの「奇跡」を分かち合うために、みんなでこの「思い」を伝えていくために。

 

 

長文失礼いたしました。

最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。

 

 

なぜ連載終了から25年も経って映画化されたのか?新井英樹×堀江貴文 映画『宮本から君へ』公開記念トークショーレポート【前編】を読む

 

 

〈用語解説〉

・*1『キーチVS』:

2007年~2013年までビッグコミックスペリオールにて連載された漫画作品。『キーチ‼』の続編。前作から10年が経ち、大人になったキーチの新たな戦いを描いた物語。

 

・*2『空也上人がいた』:

小説家・山田太一の小説をマンガ化した作品。2014年9月発売。81歳の孤独な老人と46歳の介護職の女、27歳で特別養護老人ホームを「ある事情」でやめた青年の奇妙な恋の物語。

 

・*3「マンガHONZ」:

堀江貴文氏が2014年ごろから始めた、現・マンガ新聞の前身となる団体。埋もれてしまっている名作に光をあてることをモットーとし、所属メンバーがレビューを書くことによって面白いマンガの発掘、周知を行う。

 

・*4 原画展:

9/20~10/30まで京都と東京の錦糸町および有楽町で開催される、新井氏とその妻である入江喜和氏の共同原画展。10/17からは有楽町マルイにて開催。

 

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映画『宮本から君へ』絶賛公開中!
(C)2019「宮本から君へ」製作委員会
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原作: 新井英樹 『宮本から君へ』 百万年書房/太田出版刊
監督:真利子哲也 脚本:真利子哲也、港岳彦

出演:池松壮亮 蒼井優 井浦新 一ノ瀬ワタル 柄本時生 星田英利 古舘寛治 ピエール瀧 佐藤二朗 松山ケンイチ

主題歌:宮本浩次「Do you remember?」(ユニバーサルシグマ)
レコーディングメンバー Vocal:宮本浩次、Guitar:横山健、Bass:Jun Gray、Drums:Jah-Rah

配給:スターサンズ、KADOKAWA

画像は株式会社フラッグ提供

 

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