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なぜ連載終了から25年も経って映画化されたのか?新井英樹×堀江貴文 映画『宮本から君へ』公開記念トークショーレポート【前編】

2019年10月6日、角川シネマ有楽町にて、現在劇場公開されている映画『宮本から君へ』のトークイベントが行われた。対談するのは原作者である新井英樹氏と、原作のファンであり以前から新井氏と親交のある、ホリエモンこと堀江貴文氏である。

 

ぴあが発表している映画初日満足度ランキングで第1位を獲得し、その他、数々の著名人から絶賛のコメントが届いている本映画。それを観てお二人が何を思い、そして語ったのか、今回は当日の模様を前後編にてお届けする。(※なお、内容は一部編集されており、話の流れなど実際のトークショーとは異なる部分があることを予めお伝えいたします。)

 

 

 

新井英樹氏(以下、新井)氏:

雨の中来ていただきありがとうございます。素晴らしい出来だったと思うのですけど、どうでしょうか?

 

 

一同、拍手

 

 

堀江貴文氏(以下、堀江)氏:

本当に良い映画、そして原作をありがとうございます。でも、一個聞きたいことがあって、連載終了してなんでこんなに時間がたってから映画化になったんですか?これ、さっきぜったいそうだと思ったのは、映画をやるためにドラマも含めて作られていますよね?

 

 

新井氏:

そうですね、先に映画化の話があって、そしたらドラマもやろうということになったんです。でも、ドラマが終わったときに、大人の事情で詳しいことは言えないのだけど、映画の企画がなくなったんです。けど、そこからまた復活することになったという、「奇跡」の映画なんです。

 

 

堀江氏:

あ、やばいですね、それ。

 

 

新井氏:

だから、自分でも不思議なのは、去年の『愛しのアイリーン』(*1)に続いて、今年に『宮本から君へ』が映画化と、バタバタ続いたわけです。そのきっかけは、堀江さんに5年くらいまえに会ったころに、「生き方を変える」と考えて、表に出て人に会うようにしてたことなんですね。そしたら、やり始めたくらいのときに真利子監督(*2)にお会いして、『宮本から君へ』を映像化したいって言われたんです。

 

 

堀江氏:

いや~そうなんですね、それにしてもすごいキャスティングですよね。

 

 

新井氏:

いやーほんとに、30年後でよかったですね。

 

 

堀江氏:

ぼく、連載終わって25年も経ってから映画化されるんだ、しかも蒼井優がキャスティングされるんだと思ったんです。それで観たら、あ、中野靖子(ヒロイン)だと思ったんです。本当に奇跡のキャスティングですよ。あと、ピエール瀧が、マムシ部長(*3)ピッタリだなと思いました。他にも、柄本時生(*4)がすごく良かったですね。

 

 

新井氏:

あまりに田島*だったしね。

 

 

堀江氏:

AbemaTVでやってた『会社は学校じゃねぇんだよ』(*5)っていうドラマに彼が出ていて、僕の役だったんですよ。そのドラマを観て、「あ、この役者すごい良い役者だなあ」と思ったんです。そしたら、この作品にも出ていて、あ、あのときの!って思い出したんです。彼、すごくハマってませんでしたか?

 

 

新井氏:

柄本君はドラマのとき、最初は関西弁のレクチャーを受けながら演技していたんです。なので、「ん?この関西弁どうなの?」と思うときがあったんだけど、回を重ねるごとにどんどんすごくなっていって、最後の方とか、柄本君扮する田島が出てくると泣ける、っていう感じのキャラになっていました。なんていいやつなんだと・・・。

 

 

堀江氏:

そう、すごいいいやつなんですよね。

 

 

―そうですね、宮本がトイレから出てこなくて「糞たれ」というときの、そのセリフが原作そのまんまなんですよね。

 

 

堀江氏:

まんまなんだけど、いやらしさがないんだよね。原作をそのまま映像にしました、完コピしてます、ていうのじゃなくて、みんな咀嚼して、自分のなかからキャラを出してきてる感じがするんです。いや、すごいですよ、これからもっともっと成長していくと思います。

 

 

Ⓒ新井英樹/太田出版 

 

原作に登場する主人公・宮本浩の同期である田島

口は悪いが面倒見は良く、宮本の良き相談相手


堀江氏:

そういえば、新井さんも映画に出てましたよね、お父さん役として。

 

 

新井氏:

あれは・・・ふざけた話で、まあ、これは流しましょう。

 

 

堀江氏:

いやいやいや、よかったですよ。

 

 

新井氏:

いやいや、俺はもっと主演二人を絶賛したいくらいです。ちらっとインタビューの中でも書いたけど、撮影現場に二人の専用の『宮本から君へ』の単行本が置いてあって、シーンを撮るときに、このとき宮本はどんな顔だっけ?中野靖子はどんな顔だっけ?っていうアプローチを蒼井優がやるんです。俺が現場を見に行った時、飛鳥山公園でゆうべ何があったかを語るシーンを撮ってたんだけど、観たらびっくりするくらい顔が中野靖子になってるんです。

 

 

堀江氏:

そうですよね、すごかったです。冒頭の濡れ場シーンから全開すぎて、すごいことになってましたよね。

 

 

新井氏:

一個、裏話ね。これは言い訳じゃないんだけど、映画の公開前に蒼井さん、結婚されたじゃないですか。それで、そのあとに一回取材で会う機会があったんです。あ、これは結婚祝いに絵を描いていこうと思って、映画の中野靖子を演じる蒼井優を一生懸命描こうとするんだけど、俺、似顔絵そんなに不得意じゃないはずなのに、どうやっても似ない。じゃあ、ほかの蒼井優の写真を持ってきて、それに似せて描くと、中野靖子じゃなくなる。でも中野靖子を演じている蒼井優を描くと蒼井優に見えない。結局、最終的に蒼井さんに、渡そうと思った一か月前に描いて完成させた絵と、行く前の日に描いた絵と、製作途中のダメな絵3枚を「蒼井さん、これ、言い訳じゃないけど、30年マンガ家続けても、こんなに苦しむ過程があるんだっていうのを丸ごと受け取ってください」って言って渡しました。

 

 

堀江氏:

見たいですね~、その絵、本当に。

 

 

 

 

Ⓒ新井英樹/太田出版 

 

飛鳥山公園で、中野靖子が昨晩レイプされたことを宮本に語るシーン。

悲しみと怒りに震えながら必死に訴える中野靖子と、

それをただ茫然と聞くことしかできない宮本を

映画では蒼井優氏と池松壮亮氏が見事に演じきった。



堀江氏:

たしか、『宮本から君へ』の連載って、1990年代初頭ですよね?

 

 

新井氏:

そうですね、90年代初頭から半ばくらいですね、週刊モーニングの。

 

 

堀江氏:

ぼく、連載で読んでたんですよ。ただ、「あれ、これってどうやって終わったんだっけ?」としばらく思っていたんです。なぜか単行本が途中からなくなっちゃって、全然探せなくなったんですよ。そのころはAmazonもないし。今だったらAmazonマーケットプレイスとかKindkeとかで古い本も絶版になった本も簡単に手に入りますけど。だから、『宮本から君へ』は、しばらく最後まで単行本を持ってなかったんですよ。たぶん、中野靖子がレイプされた話のあたりから急速に単行本がなくなるんですよね。

 

 

新井氏:

ああ、そうですね。

 

 

堀江氏:

そうですよね。あの話は当時ものすごくセンセーショナルでしたし、連載してる間も反響がすごかったんじゃないですか?

 

 

新井氏:

そう、連載100回記念の巻頭カラーで中野靖子がレイプされる話をやって、ものすごく嫌われましたね。それで、そこからの流れで打ち切りも決まっていきました。

 

 

堀江氏:

ですよね

 

 

新井氏:

ところが、映画でもすごかったと思うんだけど、拓馬(*6)との階段のケンカのシーンで、指おられたりしてひどい目にあっていた宮本が攻勢に出たとたん、雑誌のアンケート順位もどーんって上がったんです。その瞬間に、もう頭に血が上りまくって・・・お前らさんざん嫌いだ嫌いだって言っておきながら、主人公が攻勢に出ただけでみんな良いって言って投票するの!?・・・もう、あのあたりで、なんか宮本みたいで嫌なんだけど、敵は読者だっていう風に思いましたね。

 

 

堀江氏:

そうですね、ぼくも当時、読んでて思ったのは、基本『愛しのアイリーン』みたいに、『ザ・ワールド・イズ・マイン』(*7)もそうですけど、バッドエンドに向かって突き進んでいくんじゃないのかなっていうことでしたし。

 

 

新井氏:

まあ、でも、それでもね、自分のなかでバッドエンドは一個も書いてないつもりなんだよね。

 

 

堀江氏:

そうなんですか!?なら、たぶん大衆的なバッドエンドとグッドエンドとの基準が違うんですよ。中野靖子がレイプされたあたりから、宮本や中野靖子を自分のことのように思って読んでいる方々は嫌だと思うんです。まあ、新井さんが好きどうかは別として、人気って自分の作風と大衆の感覚が一致したときに出ると思うんです。でも、新井さんは「なんだよ、こいつら」って思っているっていうことですよね。まあでも、そうじゃないと描けないですよ。

 

 

新井氏:

まあね。だから、映画のなかにもでてきたセリフで、宮本が中野靖子に対して最後、むしろお前敵だったぜ、って言うのって、もうたぶん自分以外は、世界中が全部敵っていう状態じゃないと描けなかった。映画だとちらっとしか出てないけど、マンガのほうだと、拓馬を見つけて、マンションの非常階段で夜、待っているときに、宮本が街明かりを見て、なぜか怒りながら泣くシーンも、「おのれ読者め!」って思って描いていた。ただ、これは映像化されてよかったと思ったことなんですけど、みんないろんなことを感想で書いてくれてくれるんです。そのなかで気になったのが、宮本は確かに拓馬を倒さなくちゃいけなくて、拓馬と戦っていたし、何より自分と常に戦っている。だけど、一番戦って倒さなきゃいけない相手は、中野靖子だったんじゃないかっていう感想ですね。あと、他にも誰かが書いてくれてすごく面白いなって思ったのは、「宮本はロッキー(*8)のようだ。ただし、アポロ・クリード(*9)は中野靖子だ」と笑

 

 

Ⓒ新井英樹/太田出版 

映画公開の裏で展開されていた、知られざる事実が発覚した本イベント。本日お届けするのはここまでになります。ますます盛り上がるトーク内容、本映画が新井氏にもたらした大きな影響とは⁉次回更新をどうぞご期待くださいませ。

 

「25年間の思いから解放された」新井英樹×堀江貴文 新井英樹×堀江貴文 映画『宮本から君へ』公開記念トークショーレポート【後編】を読む  (11/9-17時公開予定)

 

 

〈用語解説〉

・『宮本から君へ』:

1990年~1994年まで週刊モーニングで連載された、新井英樹による漫画作品。新卒営業マンの主人公が、恋や仕事に不器用ながらも成長し、自分なりの生きざまを見つけていく物語。

 

・*1『愛しのアイリーン』:

1995年~1996年までビッグコミックスピリッツで連載された漫画作品。老齢の両親と暮らす42歳独身の主人公が、農家の嫁としてフィリピン人と国際結婚する物語。

 

・*2 真利子監督:

真利子哲也氏のこと。ドラマおよび映画『宮本から君へ』の監督を務める。他の代表作は『イエローキッド』、『NINIFUNI』、『ディストラクション・ベイビーズ』。

 

・*3 マムシ部長:

ピエール瀧が演じた真淵敬三のこと。作中でそう呼ばれている。

 

・*4 柄本時生:

ノックアウト所属の俳優。30歳。父は俳優の柄本明、母は女優の角替和枝、兄は俳優の柄本祐。出演作は『俺たちに明日はないッス』、『おひさま』、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』など。

 

・*5 『会社は学校じゃねぇんだよ』:

2018年4月21日からAbemaTVで配信されているテレビドラマ。全8話。サイバーエージェント代表取締役社長藤田晋の著書『渋谷ではたらく社長の告白』(幻冬舎文庫)を下敷きに「夢・恋愛・金・友情」を主題にした反逆と成功の物語。

 

・*6 拓馬:

俳優・一ノ瀬ワタルが演じた真淵拓馬のこと。真淵敬三の息子で中野靖子をレイプした張本人。早明大ラグビー部のナンバー8。

 

・*7 『ザ・ワールド・イズ・マイン』:

1997年~2001年まで週刊ヤングサンデーにて連載された漫画作品。とくに理由もなく殺人を犯すモンちゃんとトシ、正体不明の生物ヒグマドンが起こす騒動に関わる人々の人間群像劇。

 

・*8 『ロッキー』:

1976年公開のアメリカ映画。三流ボクサーであった主人公ロッキーがひょんなことから世界チャンピオンであるアポロ・クリードと戦うことになり、仲間や愛する人のサポートを受けて自信と力を身に着けていく物語。

 

・*9 アポロ・クリード:

『ロッキー』に登場するキャラクター。ボクシングの世界チャンピオンで、自分の知名度を上げるために無名の選手を対戦相手に指名した。

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映画『宮本から君へ』絶賛公開中!
(C)2019「宮本から君へ」製作委員会
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原作: 新井英樹 『宮本から君へ』 百万年書房/太田出版刊
監督:真利子哲也 脚本:真利子哲也、港岳彦

出演:池松壮亮 蒼井優 井浦新 一ノ瀬ワタル 柄本時生 星田英利 古舘寛治 ピエール瀧 佐藤二朗 松山ケンイチ

主題歌:宮本浩次「Do you remember?」(ユニバーサルシグマ)
レコーディングメンバー Vocal:宮本浩次、Guitar:横山健、Bass:Jun Gray、Drums:Jah-Rah

配給:スターサンズ、KADOKAWA

画像は株式会社フラッグ提供

 

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