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これぞ『バガボンド』を継ぐ傑作! 夢を持てぬ人よ、『阿・吽』を読んで「犀の角のようにただ独り歩め」!

俺は強いのか?

 

平成にその名を刻みつけた名作『バガボンド』。

主人公・宮本武蔵はこの答えを追い求めた。

 

ときに嘆き、ときに問いながら、強敵と闘い続けた。

 

しかし、結論が出ることはなく、気がつけば令和を迎えてしまった。

 

見えない地平を追い求め、生涯をかけられる情熱を持った人の物語。

僕はそういう作品を当時読みたかったのだろう。

 

今となっては、自分が重ね合わせている物語は、目の前のことに一生懸命頑張るものばかりになっている。

でも、それじゃ満足できない自分がいる。

 

今の自分にピッタリとハマるものよりは、成し遂げられない何かを求める夢物語を読みたい。

 

そんなとき、この作品に出逢った。

 

もし、この瞬間、問われてもやりたいことが思い浮かばないのなら

もし、今なお理想とか目標が見つからないのなら

いっそのこと、途方も無く大きな夢を持ってみたらどうだろうか?

 

尻込みするその神経をねじ切ってしまうほどの衝撃と、どん引きするほどの熱量に触れたら、きっとアナタの心は動き出す。

『阿・吽』はそんな異次元へ読者を誘う革命的作品だ。

 

 

阿・吽 (1) (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
著者:おかざき 真里
出版社:小学館
販売日:2014-10-10

 

 

『阿・吽』の舞台は平安時代の少し前。

主人公は最澄と空海。

日本の仏教に革命をもたらした二人の青春物語だ。

 

この二人、伝説が数多く伝えられている。そのまま描くと、単なる超人モノになりそうだが、本作では、現代の価値観にも通じる普遍的要素へ落とし込んでいるのが大きな特徴。

 

著者は「サプリ」や「&」など、多くの女性達の共感を呼んだ作品を描いているおかざき真里。

精神世界や怨霊、本人のしがらみや苦悩などを、いい意味でデフォルメしつつ、幻想的な演出で、読者を最澄や空海の深奥まで導いていく。

 

女性作家ならではの筆致なので、男性(少年)誌に慣れ親しんだ方からすると、タッチの違いで入り込みづらいところがあるかもしれない。

でも、その繊細な見せ方や見方の違いに慣れてくると、どんどん引き込まれていく不思議さが、この作品にはある。

 

全ての人を皆等しく「本気」で救おうとする最澄。

貧しい人でも、悪人でも、狂人でも、一切の例外を設けない。

その高潔さと純粋さに多くの人は救いを求めるが、まぶしすぎるその思いが自分(自分だけ)に向かないことに失望し、最澄の元を去っていく。

最澄がどれだけ求めても協力者が定着せず、理想の世界は具現化していかない。

 

 

©おかざき真里・阿吽社 / 小学館

©おかざき真里・阿吽社 / 小学館

 

 

一方、「我を満たせ」と声高に叫び続ける空海。

全てを知りたがり、全てを深めようとするとするあまり、自分自身をないがしろにしていくそのまっすぐさは、会う人の心を捉えていくが、その天才ぶりを理解できるものがなかなか現れず、彼は孤独にさいなまれていく。

 

 

©おかざき真里・阿吽社 / 小学館

©おかざき真里・阿吽社 / 小学館

 

 

ある種の芸術的で哲学的な深みへと誘う展開は、人の本質へとつながり、さらには最澄や空海の内面を深くえぐっていく。

 

物事を突き詰めるほど、意識しなかった邪心がしがらみとなっていったり。

無意識に自分と響き合う相手を探してしまったり。

 

年齢を重ねた方であればあるほど、共感できるシーンが次々と登場する。

きっとこれは超人ではなくても、私たちの胸の奥で起きている出来事。

 

 

物語は、国内では満足できず、二人はそれぞれの方法で遣唐使となって唐(中国)へ渡る。

そこで人生を変える新たな教え=密教と出会い、その教えを日本へ持ち帰ることで、新たな救いの伝道者として注目されていく。

 

だが、暗黒うずまく朝廷の権力争いと既存宗教の抵抗にあい、二人の道は何度も阻まれる。

 

全ての人を救おうとする最澄の肉体は悲鳴を上げ、彼が立ち上げた天台宗は他宗から受け入れられず孤立を招く。

 

満たされない欲求で身を滅ぼしかけた空海は、数多の出会いと真理に触れたことで、辿り着いた答えを具現化していこうとするが、その先には受け継がれることのない孤独が控えていた。

 

それでも、二人は歩みを止めない。

「犀の角のようにただ独り歩め」

この強烈で骨太なメッセージが、心に突き刺さる

 

最新刊第10巻では、最澄と空海が遣唐使のとき以来の再会を果たす。

求め続けた”彼”との再会は、二人を癒やせるのか。

そして、二人は歩むことが出来るのか?

 

この先も追い続けなければならない。

 

 

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