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“儚い”からこそ強く輝く夢になる『推しが武道館いってくれたら死ぬ』きっと俺も死ぬ。

 

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』

 

あぁ、なんてストレートで、甘美な響きのするタイトルなんだろうか。

自分の推しているアイドルが最高峰にまで到達できるのなら死んでもいい。

 

人はそれがたとえアイドルだけじゃなくても、それくらい誰かの事を好きになって応援することっていうことが果たして人生の中で何回あるんだろうか?

 

今回ご紹介するのは、そんな近くて遠いアイドルとアイドルドルヲタクの交流を描いた作品。

舞台となるのはなんと僕も住んでいるふるさと岡山県。

 

主人公のが愛する「ChamJam(チャムジャム)」は岡山を拠点に活動する7人組のいわゆる地下アイドルグループ。

活動自体は精力的に行ってはいるものの、知名度も人気もまだまだです。

 

主人公の〈えりぴよ〉は、グループの中で人気最下位のアイドルである〈舞菜(まいな)〉を推している古株のトップオタク。

 

自身の収入の全てを〈舞菜〉の応援をするためにつぎ込んでいるため、自分の身の回りのものは持っておらず、出かける際の衣服は高校生時代の赤いジャージだけ。アイドルのライブはもちろんどこに行くにもこの格好です。

 

推しとの握手会は絶対。

よって握手券を買い占める。そのため他のファンが握手券を買えなくて〈舞菜〉へ近寄りにくくなっていたりします。

結局、舞菜ファンの増加の機会を〈えりぴよ〉自ら潰してしまっているのですが、本人は悲しいかなそのことに気づいていないようです。

 

ここで少し解説を入れてみますね。

アイドルのライブでは公演前後に物販でTシャツやCDなどのグッズを購入すると、推しのアイドルとツーショット写真が撮れたり握手が出来るチケットがついてきたり、というシステムがあります。

本作中ではCDに握手券(1枚につき5秒)が付いていて、5枚買うとツーショットが撮れるシステムのようです。

 

僕は先日この作品を読んでから、ずっと頭の中で

 

『アイドルってなんだろう』

 

って考えがうずまいています。

 

近代アイドル史の転換点はきっと「モーニング娘。」からで「AKBグループ」、「ももいろクローバーZ」、そして「地下アイドル」へと変遷を遂げてきました。

 

それまでの圧倒的なビジュアルを持つ個人勝負のアイドルの時代から、色んな味が楽しめる複数グループの中から自分の“推し”を見つける、という楽しみ方へと時代は変化していきます。

 

そのやり方には多くの賛否両論はあったものの、今やアイドルはTVや雑誌などで見るだけだった偶像的な存在から、実際に会いにいけるくらいまでの距離感となり、握手会や物販、ライブに足を運べばすぐに会えるという、より身近な存在になりました。

 

アイドルになるハードルは下がった一方で、競争率は高くなります。

ただ可愛いだけではなくて特色を持たないと差別化もできません。

加えて地下アイドルの問題点のひとつとしてよく話題に上がるのが、運営側の不手際や段取りの悪さです。

 

地下アイドル業界は売り上げの多くを先述の「物販」に頼っている事がほとんどで、なかにはレッスン料や系列の飲食店を併設したりして収益としていることも多いようです。

 

当然、演者であるアイドルたちも十分なギャランティーをもらえているわけではなく、掛け持ちのアルバイトをしながら活動をしている場合も珍しいことではありません。

 

作中で〈舞菜〉が所属する「ChamJam」でもアルバイトをしながら活動を続けているメンバーがいます。

それに、アイドルとしてではなくて女性として口説くような輩なんかも数多くいたりと、華やかな部分だけでは決してありません。

 

話を作品に戻すと、作中で語られる彼女たちの夢は「日本武道館での単独ライブ」。

今の彼女たちには大きすぎて儚げな夢物語ではありますが、だからこそ、夢があるからこそ、彼女たちは頑張れるのでしょう。

 

そして、そんな夢を一緒に見られるから、そのために想いを乗せてファンたちも全てをかけて応援するのだと思います。

 

アイドルにいつも付きまとうのは『儚さ』。儚いとは“人の夢”と書きます。

『儚さ』とは脆くて、消えてなくなりやすくて、不確かなことです。

夢が叶うかどうかは誰にも分りませんから自分の気持ちやファンの気持ちにすがるしかないのかもしれません。

 

アイドルとしての時間は、たとえどんなに才能のある人であれ、とてもとても短いもの。

現実にはいつまでもアイドルとして活動できるわけではありません。

 

メジャーデビューできるのもほんの一握りだし、さらにそこから人気が全国区になるのはさらにその氷山の一角。

そんな不確かことしかない世界に彼女たちは住んでいます。

 

短すぎるアイドルとしての人生の一瞬一瞬に心も体も捧げて、一心不乱に輝くからこそ、眩いばかりのきらめきを放つのかもしれません。

 

応援する側の主人公やファン。

応援される側のアイドル達。

みんな、そこに立てることを信じています。

たとえそれが遠く険しくて届くことがない道だとしてもその身と人生をかけて闘う彼女たちはやっぱり強く美しいのです!

 

本作はそんなシリアスさも交えながらも、どちらかというと緩めの雰囲気で展開されていきます。

 

地道な活動を続け少しずつステージを上がってきた「ChamJam」はとうとう東京での新曲リリースイベントを行います(なぜか五反田で!)。

 

新しいファンも増えてきて、運営も手ごたえを感じはじめます。

夢の武道館がただの目標や夢ではなくなってきた彼女たちの次なるステージと物語の展開は、発売されたばかりの第6巻でご確認ください!

 

 

作者の平尾アウリセンセイは、舞台である岡山県倉敷市のご出身で、ただいま岡山県にあるマンガ美術館吉備川上ふれあい美術館さんにて原画展が開催中です!

デジタル作画にこだわる平尾センセイの原画は僕も見てきましたが魂が込められていて圧巻の一言です。

この原画展は2019年12月22日まで開催されているので皆様も足を運んでみてはいかがでしょうか?

そして平尾アウリ作品もしっかり揃っている当店コミックサロン『G.I.F.T.』

マンガの事やアイドルのことを語り明かしてみませんか?お待ちしております!

 

 

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著者:平尾アウリ
出版社:徳間書店(リュウ・コミックス)
販売日:2016-02-29
推しが武道館いってくれたら死ぬ(6)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)
著者:平尾アウリ
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