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【漫画 温故知新⑤】少女漫画草創期のインスパイアはここにあった!飛鳥幸子『怪盗こうもり男爵』

飛鳥幸子作品を一言で表すとしたら「洒脱」だろう。

少女フレンドでの本格的デビュー当時からすでにその洒脱さで他の少女漫画作品と一線を画していた。

 

少女フレンド読者の前に飛鳥幸子先生『怪盗こうもり男爵」が登場したのは1967年のことだ。

舞台は1920年代のロンドン。

謎の怪盗紳士「こうもり男爵」を、ヒロインの新聞記者ベティが追う。

「こうもり男爵」の正体が彼女の恋人・亡命ロシア貴族アイザック・アシモフとも知らずに……。主人公の名前「アイザック・アシモフ」についてはあとで語るとして(笑)。

 

キャラクター設定はもちろんだが、主人公の狙う「宝石がムガール帝国最後の皇帝の持ち物」だとか、主人公の命を狙う容疑者のひとりが、1925年に発見されたオーストラロピテクスを否定する人類学者とか、あの時代の少女漫画では破格の知識量である。しかもさりげなく使われている。

 

こういった飛鳥幸子先生の洒脱さはどこから来ているのだろうかと考えたが、当時放映されていた多くの海外TVドラマシリーズにルーツがあるのではないだろうか。

先生はそういったドラマシリーズのファンだったらしく、ご自身の作品の登場人物によくドラマシリーズの中の名前を付けていらっしゃる。

 

また、当時の人々が熱狂したスパイドラマシリーズ『0011ナポレオン・ソロ』の漫画化もされている。

飛鳥幸子先生の漫画は、外国TVドラマ・映画が日本を席巻していた頃に幼少時代を送った人にはたまらないのだ。

 

『怪盗こうもり男爵』は、このたびめでたく復刻されたので、当時のファン以外の方にもぜひ読んでいただきたい。

今はnetで配信される海外ドラマシリーズも増えているので、まさにぴったりと思われる。

 

そして、ヒーローの設定について、私見を含めた考察をしてみようと思う。

まず「亡命ロシア貴族」に注目してみた。

これはモーリス・ルブラン作『アルセーヌ・ルパン』シリーズと関連しているのではないだろうか。

 

このシリーズは、ベル・エポックのフランスが舞台だが、作中にロシア貴族がよく登場する。ルパン自身もロシア貴族になりすますこともあった。

 

『怪盗こうもり男爵』には「亡命ロシア貴族」という設定に絡むエピソードがあるためとも考えられるが、飛鳥幸子先生は先人の怪盗「アルセーヌ・ルパン」に敬意を表した可能性がある。

 

さらに「アイザック・アシモフ」という名について(笑)。

飛鳥幸子先生は、実は大のSF好きなのである。

デビュー年の2作品のうち、ひとつは歴史物だったが、それ以前の投稿作品はSFものが多いのだ。

 

投稿作品を集めた短編集『彼女は宇宙人』が若木書房から1965年に発行されているが、4作品中3作品がSFである。

 

また、『怪盗こうもり男爵」第一話の冒頭で、主人公アイザック・アシモフが読むバイロンの詩は、SFの名作レイ・ブラッドベリ『火星年代記」』中の短編のひとつから引用されているものだ。

 

よって、SFファンとして主人公にかの著名なSF作家の名を付けたのではないだろうか。

復刻された『怪盗こうもり男爵」のインタビューにロシアの名前を知らないのでSF作家から適当に借りたとあるが、それは彼女の謙遜だろう。

ただ、最後にわたしは一言どうしても言いたい。

アシモフ先生の名前を使うのは全く問題ない。

だが、以前若木書房から発行された『怪盗こうもり男爵』のコミックス内だったと思うが

先生はこのようなことを書いていらした。

 

“読者の方からよくあの有名なSF作家・アシモフと関係があるのですか? とお手紙をいただくのだが、全く関係はない。

さらに、わたしの主人公はかようにブサイクな作家よりずーっとハンサムですぞ。“

 

飛鳥先生!!!

私の愛する実在のアイザック・アシモフ先生は決してブサイクなんかじゃないですから!

 

 

決定版!怪盗こうもり男爵 (立東舎)
著者:飛鳥 幸子
出版社:リットーミュージック
販売日:2019-09-12

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